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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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第57話 我、理解し、悔やむ

【更新変更のお知らせ】


いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。


大変申し訳ございませんが、『バハムート宇宙を行く ノアの歩み』は、しばらくの間、不定期更新とさせていただきます。


その代わり、『バハムート宇宙を行く』は8時と12時の一日二回更新を予定しております。


また、『魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~』につきましては、現在ストックがありますので、当面は一日四回更新を維持する予定です。


急な変更となり申し訳ございませんが、今後も無理なく更新を続けていきたいと考えております。


これからもよろしくお願いいたします。

「何とか終わったね」


「うむ。帰りは早かったの」


「当然だろ。すでに一度通った道だ。これで遅かったら、逆にすごいわ」


 千葉先生の呆れた声を聞きながら、我らはようやく訓練待機所に戻ってきた。


 帰りは、スマートウォッチに記録された経路を確認しながら進んだため、道に迷うこともなかった。


 入口から歩いた距離と速度、曲がった方向まで記録され、我らが通った道が地図として残っておる。


 念のため、行きに残しておいた魔力の痕跡も確認していたのだが、そちらに頼る必要はまったくなかったの。


 もはや、このデジタルマッピングこそ魔法ではないか?


「まだ終わりじゃないぞ」


 千葉先生が、荷物を下ろそうとしていた我らに声をかけた。


「使った武器の清掃と、装備全体の点検だ。銃は最初に残弾を抜き、安全を確認しろ。抜いた弾薬は、ほかの装備と混ざらないように分けておけ。清掃と点検を終えた後、改めて弾数を確認して収納する」


「うむ。そうであるな。ゾンビを屠ってきたのだ。流石に綺麗にせねばならぬ」


「そうだね。鞘も洗った方がいいのかな?」


 それは、我にも分からぬな。


 セイヴェリアを収めた際に、刃に付着していたものが鞘の内側に残っている可能性はある。


 だが、鞘をそのまま水で洗ってよいものなのかは、我には判断できぬ。


「まず銃を取り出せ。二人とも銃口を人に向けるなよ」


「承知した」


「はい」


 我らは銃口を安全な方向に向け、それぞれの銃に合わせた、いつもの手順で排弾と安全確認を進めた。


 抜き取った弾丸と外したマガジンは、それぞれ備え付けのトレーに分けて置く。


 排弾を終えた魔王とグロック19も、弾薬とは別の清掃用マットに並べた。


 千葉先生は我らの手元を順番に確かめ、小さく頷く。


「よし。これでほかの装備も広げていい」


 続いて、我らはシールドクローの収納に入れていた物をすべて取り出し、石造りの台に並べていった。


 その中には、我とユウが持ち帰るために折った二本のクリスタルもある。


 どちらにも、目立ったひびや欠けはないようだな。


「先生よ。この二本も、持ち帰ってよいのだな?」


「ああ。だが、他の装備とぶつけて割るなよ。布で包んで、別にしておけ」


「うむ」


「私のもお願い、マオ」


「おぬしも己で包まぬか」


 ユウから渡された一本も受け取り、我は二本のクリスタルを別々の布で包んだ。


 元の世界の我と繋がった方には、布の上から細い紐を結び、取り違えぬよう目印をつけておく。


 これは、これまで以上に大切に扱わねばならぬな。


 どうやら、この待機所には装備を手入れするための道具も備え付けられているらしい。


 布。


 クリーナー。


 細かな隙間を掃除するためのブラシ。


 銃器用の道具まで、用途ごとに分けて置かれておった。


「本来なら、自分たちで用意しておくべきだったんだがな。まあ、今回は初めてだから大目に見てやる」


「せんせ~。鞘は洗った方がいいですか?」


「水洗いはするな。素材によって手入れの方法が違う」


「じゃあ、どうすればいいですか?」


「今は表面の汚れを乾いた布で拭くだけにしておけ。内部の手入れについては、帰ってから愛さんに確認しろ」


「はーい」


 ユウは鞘を手にしたまま、備え付けの布に視線を向けた。


 流石に、そのまま水で洗うことは諦めたようだな。


 我は備え付けの布とクリーナーを手に取り、シールドクローの表面を磨き始めた。


 ゾンビを殴り飛ばし、ゾンビカバの顎や前脚まで挟んだのだ。


 念入りに確認しておいた方がよかろう。


 …………。


 ふむ。


 目立った肉片や吐瀉物は残っておらぬようだな。


 ただ、ソーの奥には、行きに肉片や吐瀉物を炎で焼いた際の黒い灰が、僅かに残っておる。


 表面に傷はない。


 クローの開閉も問題なし。


 内側のソーにも、刃こぼれや歪みは見当たらぬ。


 …………。


 いや。


 おかしい。


 我はシールドクローを磨く手を止めた。


 そういえば。


 帰り道では、我らが途中で倒した人型ゾンビの痕跡を一度も見なかった。


 倒れた身体も。


 飛び散った肉片も。


 頭部を破壊した跡すら残っておらなんだ。


 何故、今まで気づかなかった?


「先生。確認したいことがある」


「どうした?」


「帰り道に、我らが行きに屠ったゾンビの痕跡がなかった。あれは、どういうことぞ?」


「あっ、そういえば」


 鞘の手入れをしていたユウも、顔を上げた。


「念入りに剣を刺しておいた頭も、なくなってた」


「ようやく気づいたか」


 その言い方。


 千葉先生は、最初から知っておったのだな。


「これは座学ではなく、初めて実地に入った時に教えることになってる」


「何故ぞ?」


「自分たちで倒した死骸が消えたところを見てから聞いた方が、実感できるからだ。素材の回収や、装備の手入れにも関わる話だからな」


 なるほどの。


 授業で言葉だけを聞くより、今の我らのように、実際に異変へ気づいてから教わった方が理解しやすいということか。


 千葉先生は清掃台に腰を預けると、我とユウを順番に見た。


「ダンジョンの中で倒されたモンスターは、一定の時間が経つと消える」


「消える?」


「ああ。まるで、最初から何もなかったみたいにな」


 ユウが不思議そうに首を傾げる。


「それって……おかしくないですか?」


 そうよな。


 モンスターが跡形もなく消えるのであれば、ダンジョン素材はどうなる?


 我らが今身につけておる衣服や防具にも、モンスターから得られた素材が使われておるのだ。


 それらまで消えてしまうのなら、加工も利用もできぬはず。


「だが、ダンジョン素材は消えぬのだろう?」


「そうだ」


 千葉先生は短く答えた。


「倒されたモンスターの死骸は、一定の時間が経つと消える。だが、人間が素材として持ち帰ろうと回収した皮や牙、骨なんかは残る」


「何故、違いが出るの?」


「分かってない」


 千葉先生は迷うことなく言い切った。


「まだ研究中だ。だが、現在最も有力なのは、ダンジョンが中にいる人間の思考を、ある程度読み取っているんじゃないかという説だ」


「思考を?」


「俺たちが必要だと判断し、持ち帰ろうとした物は残る。逆に、要らないと判断して放置した死骸は消える。今のところは、そう考えるのが一番辻褄が合うらしい」


「では、本当に思考を読んでおるのか?」


「そこまでは分かってない。何を、どこまで、どうやって判別しているのか。今も研究されている分野だ」


 う~~む。


 不可思議よ。


 現象だけは確かに起きておる。


 だが、その理由については、未だ有力な説しかないということか。


 我が持っていたダンジョンマスターの力に、そのような機能があっただろうか?


 倒された魔物の死骸を消す。


 必要とされた素材だけを残す。


 記憶を探ってみるが、思い当たるものはない。


 いや。


 そもそも、我は元の世界で自らダンジョンの中に入ったことがなかった。


 何せ、我は魔王国で最も強かったからな。


 わざわざダンジョンに入り、己を鍛える必要などなかったのだ。


 我が決めていたのは、ダンジョンの構造や階層、それに訓練の難易度くらいのもの。


 完成した後の運営や、兵士たちの訓練は部下に任せきりで、訓練が終わればダンジョンそのものを消しておった。


 我の元に上がってくる報告も、誰がどの階層まで進んだのか、負傷者は出たのか、訓練の成果はどうだったのか。そのような内容ばかり。


 倒された魔物の死骸が、その後どうなったのか。


 まして、それを素材として利用できるのか。


 そのようなことまで、我は考えたことがなかった。


 何せ、我にとって魔物は訓練の相手であって、素材ではなかったからな。


 ええい!


 このようなことになると分かっておれば、一度くらい入っておくべきだった!


 己には必要のない場所だと決めつけ、内部を確かめようともしなかった我の失態よ。


 …………。


 まあ。


 異世界へ転生し、失った力によく似たダンジョンへ入ることになるなど、当時の我に予想できるはずもない。


 仕方がないと言えば、仕方がないのだが。


 それならば――。


「先生よ。もしかすると、武器に付着した肉片や体液のような汚れも、放っておけば消えたのかの?」


「ああ。ダンジョンの中にいる間に消える」


 千葉先生は、我が磨いているシールドクローに視線を向けた。


「大体は移動中やセーフスポットで、すでに消えているのが普通だ。ただ、強く意識していた汚れほど、消えるまで時間がかかったという報告もある」


「それも、思考を読んでいるという説の根拠か?」


「ああ。無関係とは考えにくい、というのが今の見方だ。だが、これも仕組みまでは分かってない」


 なるほどの。


 炎で焼いた肉片や吐瀉物は、すでに灰や黒い残滓となっておる。


 我が汚れを強く気にし続けたため、その一部だけが、まだ消えきらずに残っていたのかもしれぬな。


 これは、説明を聞いただけでは分かりにくい。


 実際に経験せねば理解できぬ類いよな。


 …………。


 待てよ。


 ならば、わざわざ清掃する必要はないのでは?


 我がそう思っていると、千葉先生は先回りするように続けた。


「だが、気持ち悪いだろ」


「それは、まあ……そうよな」


「それだけじゃない。消えるのは、モンスターの肉片や体液のような汚れだ。砂埃や発砲によって付着した汚れまで消えるわけじゃない」


 千葉先生は、ユウが手入れしているセイヴェリアに視線を向けた。


「それに、武器に生じた傷までは元に戻らない。刃こぼれした刃が勝手に直るわけでも、折れた武器が元どおりになるわけでもない。手入れを怠れば、錆や動作不良の原因にもなる」


 続いて、我の前に浮かぶシールドクローを見る。


「毎回きちんと手入れをしておけば、絶対とは言えないが、そうした故障や破損を減らせる。だから、ダンジョンから戻ったら必ず装備を点検し、手入れするんだ」


 なるほどの。


 肉片が消えるからといって、装備まで元の状態に戻るわけではない。


 ならば、汚れていないように見えても、手入れを怠るべきではないということか。


 我は改めて布を握り直し、シールドクローの表面に視線を戻す。


 戦いが終わり、ダンジョンから帰ってきた。


 それだけでは、まだ終わりではない。


 武器を点検し、次も問題なく使える状態に戻す。


 そこまで含めて、探索なのだな。


 そうしてシールドクローの手入れを終えた我は、六枚を二つの専用ケースに三枚ずつ収めた。


 最後に固定具をセットし、内部で動かぬことを確かめる。


 うむ。


 これでよし。


 次は、先ほど排弾して清掃用マットに置いておいた魔王だ。


 我は魔王を手に取り、各部の点検を始めた。


 銃身。


 シリンダー。


 撃鉄。


 そして、弾丸を撃ち出した際に汚れが溜まりやすい部分。


 備え付けのブラシと布を使い、一つずつ状態を確かめながら手入れしていく。


 今回撃ったのは二発だけだが、汚れが少ないからといって確認を省いてよい理由にはならぬ。


 ユウもグロック19の銃身やスライド周りを清掃し、異常がないことを確かめておった。


 そのまま、携行した弾丸がすべて残っていることも確認しておる。


 我も先ほどトレーに分けておいた弾丸と、スピードローダーに残っていた弾丸を数え直した。


 携行した弾数から、今回撃った二発を差し引いた数と一致しておる。


 間違いはないな。


 確認を終えた弾丸を、ケースの決められた場所に丁寧に収める。


 最後に、ハンタースマホを取り出した。


 今回の訓練記録を開き、弾薬の報告欄を表示する。


 最初に携行していた弾数。


 訓練を終えた時点で残っている弾数。


 そして、今回の使用弾数――二発。


 それぞれを確認し、順番に入力していく。


 うむ。


 これでよし。


「言われなくても、きちんとできてるな」


 入力を終えた我の画面を覗き込み、千葉先生が僅かに頷いた。


「うむ。報告を忘れて魔王を取り上げられては、かなわぬからの」


 そうである。


 仮免中の我らは、実地訓練で携行した弾薬の使用数と残数を、ハンター協会へ報告する義務がある。


 撃たなかった場合も同じ。


 持ち込んだ弾丸が、すべて残っていることを確認し、使用数がゼロであったことを報告せねばならぬ。


 この手間を考えると、マシンガンのように大量の弾丸を撃ち出す銃を選ばなくてよかったと、我は心から思う。


 あれでは、残弾を確認するだけでも一苦労よな。


「私は、結局一発も使わなかったな」


 ユウは清掃を終えたグロック19に目を向けた。


 今回、ユウが銃を使う場面はなかったからの。


 前に出てセイヴェリアを振るうことが多かったうえ、銃撃が必要な場面では我の魔王で十分に対処できておった。


「ゼロはゼロで、きちんと報告しろよ」


「はーい」


 ユウは素直にハンタースマホを取り出し、使用弾数の欄にゼロと入力した。


「本免を取れば、訓練ごとに使用弾数をハンター協会へ報告する義務はなくなる。だが、その分、何をどれだけ撃ったのかも、すべて自分の責任になるからな」


 千葉先生は我らの入力画面を確認しながら、静かに続けた。


「報告義務がなくなった後も、自分で記録を続けて構わない。ハンター協会へ報告する必要がなくなることと、管理しなくていいことは別だ」


「うむ」


「分かりました」


 確かにの。


 ハンター協会への報告義務がなくなったとしても、自分が何発撃ち、どれだけ残っているのかは把握しておかねばならぬ。


 必要な時に弾丸がないなど、笑い話にもならぬからな。


「終わったら、ホテルに戻るぞ。その後、温泉にでも連れていってやるよ」


「温泉か。それはありがたいの」


「私は、ご飯がいいな~」


「安心しろ。自腹で好きなだけ食えるぞ」


 流石に、すぐ二回目の奢りはないか。


 まあ、当たり前よな。


 千葉先生とて、我らの食費を毎回負担していては身が持つまい。


 特に、ユウの食べる量を考えればの。


「それと、夕方には……そうだな。お前らのホテルの部屋でいいだろ」


 千葉先生は少し考えてから、我らに視線を向けた。


「今回の探索について、反省会をするぞ」


「承知した」


「はーい」


 装備の手入れも終わった。


 弾数の報告も済ませた。


 ならば、今度こそ訓練はひとまず終了よな。


 さて。


 ホテルに帰るかの。

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