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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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第54話 我、上手くいき始める。されど、ユウは食いすぎ

 少なくとも、今回の訓練用ダンジョンで遭遇している人型のゾンビは弱い。


 授業で習った通り、動きは遅く、頭部を破壊すれば倒せる。


 ここまでの戦闘でも、それはすでに確かめておる。


 だからといって、油断はせぬ。


 弱いからと侮った結果、先ほど我らは幾つもの失敗を重ねたのだからな。


 前方から迫ってくる四体のゾンビ。その数と位置を確認し、我はユウに声をかけた。


「ユウ。射線から離れよ!」


「うん!」


 ユウは迷うことなく床を蹴り、我の後方へ飛び退いた。


 その姿が完全に射線から外れたことを確認する。


 千葉先生も我らより後方。


 そして、最後尾にいるゾンビの先で、通路は左へ折れておる。


 射線の正面にあるのは、通路を形作る厚い石壁だけ。


 壁までの間に分かれ道や扉はなく、誰かが潜んでいそうな場所も見当たらぬ。


 弾丸が壁に当たる角度も、ほぼ正面。


 跳弾の危険が完全になくなるわけではないが、少なくとも、今選べる中では最も安全な射線よな。


 よし。


 我は六枚のシールドクローを一斉に動かした。


 左右からゾンビの身体を殴りつけ、通路の中央に無理やり押し込んでいく。


 一体。


 また一体。


 四体のゾンビを、前後に重なるよう一直線に並べた。


 無論、綺麗に整列してくれるはずもない。


 腕を振り回し、身体を捩りながら、こちらへ進もうともがいておる。


 だが、頭部の位置はほぼ重なった。


 これならばよかろう。


 我は左胸のショルダーホルスターに手を伸ばし、RSh-12カスタム――魔王を引き抜いた。


「魔王よ」


 片手でグリップを握り、銃口を先頭にいるゾンビの頭部に向ける。


 射線からユウが外れていること。


 千葉先生が後方にいること。


 弾丸の行き着く先に、他の者や壊してはならぬものがないこと。


 もう一度、そのすべてを確認する。


 そして、引き金を絞った。


 火薬の爆発が通路の空気を震わせ、強烈な反動が腕に伝わる。


 同時に、我は銃身に操作魔法を働かせ、跳ね上がろうとする力を相殺した。


 銃口は僅かに震えただけで、狙いから大きく外れぬ。


 当てることだけならば、操作魔法で銃身の向きを補助することもできる。


 だが、どこへ撃つべきか。


 今、引き金を引いてよいのか。


 射線の先に何があるのか。


 そこから先は、我自身の判断よ。


 狙いを定め、引き金を絞るまでの動きは、これまでの訓練で身体に叩き込まれておるからな。


 後は六枚のシールドクローで、ゾンビたちを物理的に押し込んでまとめればよい。


 要は力業よ。


 魔王から放たれた弾丸は、先頭にいたゾンビの頭部を貫いた。


 それだけでは止まらぬ。


 二体目。


 三体目。


 そして、最後尾にいた四体目の頭部まで撃ち抜く。


 四体を貫いた弾丸は、その先にあった石壁の表面を削り、壁の内部に深くめり込んで止まった。


 頭部を撃ち抜かれたゾンビたちが力を失い、重なるように石床に崩れ落ちる。


「これでしまいよな」


 我は引き金から指を外し、銃口を下げぬまま、倒れたゾンビたちを確認した。


 動く気配はない。


「う~ん。あまり面白くない」


 後ろから覗き込んだユウが、少し不満そうに唇を尖らせた。


「ユウ。面白いも何もないと思うがの」


「マオは撃ちたかっただけでしょ」


「…………否定はせぬ」


 折角持ってきたのだ。


 一度くらいは、その威力を実戦で試したいと思っておった。


 千葉先生に言われるまで忘れておったがな。


 だが、撃ちたかっただけではないぞ。


 ユウを射線から外し、四体のゾンビを一発で倒した。


 使った弾丸も一発だけ。


 安全と弾数を考えた上でも、悪い選択ではなかったはずだ。


 撃ちたかったのも事実ではあるがな。


 我は魔王を左胸のホルスターに収めながら、改めて倒れたゾンビに視線を向ける。


 うむ。


 四体とも、頭部をまとめて撃ち抜かれておるな。


 これはよい。


 元の世界で人間たちが使用していた大砲にも劣らぬ威力が、この手に収まる銃の中に詰め込まれておる。


 そう考えると、胸の奥が僅かに高鳴った。


 科学。


 実に素晴らしい。


 我、少しワクワク。


 それから、さらに二時間。


 現れるモンスターは、相変わらずゾンビばかりだった。


 正面から歩いてくる個体。


 通路の陰から姿を現す個体。


 倒れたふりをして、近づいたところで動き出す個体。


 動き方には多少の違いがあったものの、弱点が頭部であることに変わりはない。


 我らの連携も、戦闘を重ねるごとに精度を増していった。


 最初はシールドクローを動かす度に、ユウが位置を伝えていた。


 ユウも攻撃に移る前には、どの敵を狙うのか必ず声に出しておった。


 だが、同じような動きをするゾンビが相手ならば、今では互いの視線や身体の向きだけでも、次に何をしようとしているのか、ある程度分かるようになってきた。


 無論、確認を省いているわけではない。


 敵の動きが変わった時や、判断に迷った時には声を掛ける。


 まだ、どのような状況でも通じるほど完成した連携ではない。


 それでも、必要以上に言葉を交わさず、互いの動きに合わせられる場面は確実に増えておった。


 今、我らがいるのは、階段を下りた先にあった新たなセーフスポット。


 そのすぐ近くには、これまで見てきたものとは明らかに異なる、巨大な扉が立っていた。


 左右の石壁に食い込むほど大きく、見上げなければ上端すら確認できぬ。


 扉の向こうから、何かが動く音は聞こえない。


 だが、ここまでの通路とは違う空気を感じる。


 あの先に、何かがおる。


「ふう。案外、行けたね」


「そうよな。まだ疲労も少ないの」


 我とユウはセーフスポットに腰を下ろし、水を飲みながら携帯食をかじっておった。


 最初の休憩時ほど、精神が疲れている感覚はない。


 身体にも、まだ十分な余力が残っておる。


「お前ら、なかなか良くなっているな」


 少し離れた場所で壁に背を預けていた千葉先生が、我らに視線を向けた。


「連携も良くなってきた。それに天神。シールドクローの位置取りも、かなりましになったぞ」


「そうか。先生に言われると、ありがたいの」


「へへぇ~。だって、私とマオだもん」


 ユウが得意げに胸を張った。


 そうよな。


 我とユウ。


 今の世界では、幼い頃から共に過ごしてきた。


 しかも、言い方が正しいかは分からぬが、こ奴とは前世からの付き合いでもある。


 最初は我の首を狙ってきた相手。


 今では、背中を預けられる相手。


 奇妙な縁よな。


「さて」


 千葉先生が壁から背を離し、巨大な扉に視線を向けた。


「お前たちも分かったと思うが、目の前にある大きな扉。その向こうが、今回のゴールだ」


 我とユウも、千葉先生の視線を追って扉を見る。


「すなわち、このダンジョンの最深部だ」


 やはり、そうか。


 あの扉の先にいるものを倒せば、今回の訓練も、ようやく折り返しということだな。


「そこで確認だ」


 千葉先生は我とユウを順番に見た。


「この短い休憩を終えたら、そのまま進むか。もう少し身体を休めてから向かうか。それとも、今日はここで一泊するか」


 ふむ。


 どうすべきか。


 我は携帯食を噛みながら、自分の身体の状態を確かめた。


 腕も脚も問題ない。


 意識もはっきりしておる。


 恐らく、ユウも同じだろう。


 我はスマートウォッチに視線を落とした。


 時刻は、19時を少し過ぎたところ。


 進めるかどうかだけならば、問題なく進める。


 だが、最深部に何がおるのかは分からぬ。


 これまでと同じゾンビだけとは限らない。


 最深部を攻略した後、そのまま最初に休んだセーフスポットまで戻る手もある。


 今夜はここで休み、早朝に万全の状態で攻略してから戻ることもできる。


 あるいは、このまま最深部へ挑み、攻略後に再びこのセーフスポットへ戻って休むか。


 選択肢は三つ。


 どれにも利点があり、危険もある。


 …………。


 我ならば。


 体力と気力に余裕がある今のうちに最深部へ進み、その後、最初に休んだセーフスポットまで戻るのがよいと思う。


 出口へ戻る距離も、少しは縮められるからな。


 だが、我一人で決めることではない。


 ユウの状態も聞かねばならぬし、最深部について千葉先生が知っていることも確認した方がよい。


 さて。


 どうするかの。


「マオ。私、まだ全然元気なんだけど、このまま進まない?」


「それは我も考えておる。だが、ユウよ。その後の予定はどうするつもりだ?」


「最深部を攻略した後の状態次第かな。まだ余裕があるなら、最初に休んだセーフスポットまで戻ればいいと思うの。疲れていたら、ここで一泊。それから早朝に出発して、入口まで戻るのがいいかなって」


 うむ。


 ほとんど我と同じ考えよな。


 ただ、我はこのまま進み、最初に休んだセーフスポットまで戻ると決めかけておった。


 対してユウは、今ここですべてを決めてしまうのではなく、最深部を攻略した後の状態を確かめ、そこで改めて選ぶつもりらしい。


 最深部に何がおるのか分からぬ以上、その方がよいかもしれぬな。


 うむ。


 我は、その案に乗ろう。


「ユウ。それでいこう」


「よし、決まりだね。これを食べたら行こうか」


 …………。


 ………………。


 ユウよ。


 先ほどから気になっておったのだが。


 食べすぎぞ。


 ユウは我よりも前で剣を振るい、身体を大きく動かし続けておった。


 元々の食事量も多い。


 二、三本程度ならば、千葉先生も消耗に必要な分だと考え、何も言わなかったのだろう。


 だが、いくら何でも六本は食べすぎではないか?


 確かに、携帯食は余裕を持って準備してきておる。


 それでも、帰りの分まで必要なのだぞ。


 ユウの傍らには、食べ終えた携帯食の包みが重なっておる。


 それでもまだ足りぬのか、七本目に手を伸ばそうとしていた。


 ほれ。


 千葉先生も、残った携帯食と空の包み、それからユウを順番に見ておるぞ。


 あの顔。


 呆れておるというより、少し怒っておるようにも見えるな。


「ユウ。その辺にしておけ」


「う~~ん。もう一本」


「いや、食べすぎぞ。やめておくがよい」


 この後も探索は続くのだ。


 ここで食べすぎれば、動きが鈍るかもしれぬ。


 それに、帰りの分まで食べ尽くしてどうする。


 食料の残量を考え、配分することも探索の一部。


 必要な物を、必要な時まで残しておかねばならぬ。


 それに、これ以上食べれば――。


 千葉先生に怒られるぞ。

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