第49話 我、準備を整える
鳥取とは、遠いの。
最初のうちは、道中で次々と変わる景色を眺めるのも悪くなかった。
街を抜け、高速に乗り、川を渡り、山へ入る。
見慣れぬ土地を走るたび、少しだけ旅をしている気分になれたからな。
だが、さすがに山ばかり。
途中で飽きた。
ただ、サービスエリアは良かった。
ユウの奴、立ち寄る先々で何かを食っておったの。
串焼きにパン。菓子まで買い込み、バイクへ戻ったと思えば、次のサービスエリアでも新たな食べ物を探しておる。
おかげで、予定以上に時間がかかってしまった。
朝の六時ごろに出て、もう18時になろうとしておる。
高速道路を降りた我らは、近くにあったコンビニにバイクを停めた。
エンジンを切った途端、身体に伝わり続けていた振動が消え、代わりに全身の疲れが一気に押し寄せてくる。
ヘルメットを脱ぎ、重くなった身体を引きずるようにバイクから降りた。
腰を伸ばそうとした瞬間、鈍い痛みが走る。
我、腰が痛い。
「疲れた……」
「さすがにね……お尻が痛い」
我とユウは今、米子という所におる。
目的地は、大山という山の麓に建設されたハンター訓練所。
そこにある訓練用ダンジョンに入るため、ここまで来たのだが――遠すぎる。
ダンジョンが現れた場所に訓練所を建てたのだから、仕方がないとは分かっておる。
だが、元は我の能力ぞ。
もう少し近場にできなかったのかの。
少しくらい融通を利かせてくれてもよかろうに。
コンビニでお茶を買い、蓋を開けると、一気に喉に流し込む。
乾いていた喉に冷たさが広がり、火照った身体が少しだけ落ち着いた。
うむ。
旨い。
「宿は?」
ユウ。
おぬし、なぜ今の時間にパンを食っておる。
夕食が入らなくなる……わけがないか。
「もう少し先よ。駅前付近にあるビジネスホテルのようだぞ」
「ホテルかー。なんか新鮮」
「うむ。今日はそこで泊まることになっておるな」
千葉先生は、すでにホテルに着いておるらしい。
少し前に、ラーメンを食べておる写真が送られてきたからの。
「もう少し早く着いておれば、我も何か名物を探して食べたいところだが、時間も時間よ」
「何が有名なんだろうね」
「分からぬが、ホテルまではもうすぐぞ」
「はーい」
さて。
ヘルメットを被り直し、再びバイクに跨る。
いざ、出発!
……そして、すぐにホテルに着いた。
フロントで鍵を受け取り、部屋に入る。
我とユウは同じ部屋。
その方が安いしの。
部屋にはベッドが二つ並び、窓際には小さな机と椅子が置かれておる。
荷物を下ろしただけで、肩から力が抜けた。
できることなら、このままベッドに倒れ込みたい。
だが、その前に先生に到着のメッセージを入れておこう。
「マオ、あれが大山かな?」
「どれどれ」
ユウが立つ窓際に近づき、外を眺める。
夕暮れの空の下、建物の向こうには、ひときわ大きな山影がそびえておった。
周囲に、あれほど大きな山は見当たらぬ。
「恐らく、そうだの」
そうしておると、手にしていたスマホが震えた。
千葉先生からのメッセージぞ。
『飯を奢ってやる。ロビーに来い』
ふ。
千葉先生よ。
それは悪手よ。
ユウの食事量を甘く見るでないぞ。
「ユウ。先生が飯を奢ってくれるそうだ」
「ホント! 行こう、マオ!」
つい先ほどまで尻が痛いと嘆いておったというのに、目を輝かせて立ち上がりおった。
疲れが吹き飛んでおるな。
さて。
千葉先生よ。
財布の中身に、十分な余裕はあるか?
翌日。
天気は快晴。
ホテルは四日分予約してある。
今夜はダンジョン内で過ごすため、一晩は部屋に戻らぬ。それでも、バイクと旅行用の荷物を置いておけると考えれば、我らにとっては都合がよい。
部屋を使わぬのは少し勿体ないが、駐車場代と荷物置き場代も含まれていると思えば、安いものよな。
雲一つない青空の下、我とユウは千葉先生が借りたレンタカーに乗り、大山の麓にあるハンター訓練所に向かっておる。
窓の外には山と森が広がり、昨夜ホテルから眺めた大山も、少しずつ近づいてきていた。
そして、車内には――。
「だいたい、食いすぎなんだよ!」
千葉先生の愚痴が響いておる。
「だって、好きなもの食べていいって言ったじゃん」
「だからって、あんなに食う奴があるか! 20,000円も飛んだぞ!」
「焼肉、美味かった。鶏もなかなかだった」
「俺と天神が食い終わっても、まだ食い続けるって……」
千葉先生は運転席から呆れたような声を漏らし、バックミラー越しにユウを見た。
その目には、昨夜の光景が未だに焼きついておるようだな。
「こ奴は、ここへ来るまでのサービスエリアでも食っておったからな。あれでも、まだましな方よ」
「まだましなのかよ……」
千葉先生の深いため息が聞こえた。
ふむ。
やはり、ユウの食事量を甘く見ておったようだな。
「くそっ。払えない金額じゃないが……今度からは絶対に食い放題の店に連れていく」
「また連れていってくれるの?」
「食い放題ならな!」
「やった!」
それでも、また食事に連れていってくれるのだから、よい御仁よ。
ユウも嬉しそうにしておるしな。
そんな話をしているうちに、車は山道に入り、周囲の景色も少しずつ変わっていった。
道路の両側には高い木々が立ち並び、枝葉の隙間から差し込む朝の光が、車内を明るく照らしておる。
そして森の中をしばらく走ると、前方に大きな施設が姿を現した。
複数の建物が連なり、その手前には随分と広い駐車場が設けられておる。
普通の車が停められる場所だけでなく、大型バスが何台も並べられそうな専用のスペースまであった。
なかなかに広い駐車場よな。
「なんか広いね」
ユウも同じことを思ったのか、窓の外を眺めながら声を上げた。
「高校のダンジョン科が、学校単位で日程を組んで合宿に来るからな。団体で利用することも多いんだよ」
「ならば、我らもここに泊まればよかろうに」
わざわざ駅前のホテルから、車でここまで来る必要もなかったのではないか?
訓練所に宿泊施設があるのなら、その方が移動にも時間がかからぬ。
「できないの。ここの宿泊施設は学生専用だ」
千葉先生はそう答えながら、車を空いている駐車スペースに停めた。
「もう、お前たちは学生じゃないからな」
「そうか」
ならば仕方あるまい。
我らは車を降り、後部のトランクに回った。
千葉先生がトランクを開けると、中には、飛行機で運んできてもらった我らの武器ケースが並んでおる。
我はシールドクローを収めた黒いケースを二つ、トランクから取り出した。
本来ならば、かなり重い。
だが、今は魔力で支えておるため、ほとんど重さを感じぬ。
とはいえ、人前で軽々と持ち上げれば不自然よな。
一応、重そうに持っておくかの。
「私の剣~」
ユウは青く長いケースを手にし、浮かれた様子で眺めておる。
まったく。
新しい玩具を手にした子供のような顔をしておるな。
「本当、初心者にしては贅沢な装備だよな」
千葉先生が、ユウの持つケースと我の黒いケースに交互に視線を向けた。
「いいでしょ~」
「お前が自慢げにすることじゃないだろ」
うむ。
千葉先生の言葉は否定できぬ。
我とユウが身につけておるハンター服も、愛殿が用意してくれたモンスター素材製の装備。
千葉先生が着ておる服には劣るものの、初心者が使う装備として考えれば破格の性能よ。
さらに、我には専用のシールドクロー。
ユウには、戦い方に合わせた剣まで用意されておる。
我らは、これほど恵まれた環境でハンターとしての一歩を踏み出すのだ。
手を抜くことはできぬな。
「行くぞ」
千葉先生もトランクから細長いケースを取り出し、肩に担いだ。
そういえば、千葉先生の武器は何であろう?
我らを訓練していた時には、ファルシオンや短剣などを使っておった。
だが、あれらが千葉先生の本来の武器なのかどうかは分からぬ。
何せ、あの時は我らの訓練。
相手に合わせ、使う武器を変えていた可能性もあるからな。
ケースの形だけでは、中に何が入っておるのかまでは判断できぬ。
ふむ。
少し気になるの。
我らはそれぞれの武器を持ち、訓練所の建物に向かった。
正面の自動扉を抜け、施設内に入る。
外とは違う冷えた空気が肌に触れ、少しだけ身体の熱を奪っていった。
入口を入ってすぐ横には受付が設けられており、その奥では係の者がPCを操作しておる。
千葉先生は迷うことなく受付に近づいた。
「予約していた千葉だ。今日と明日の二日間、三人で訓練用ダンジョンに入る」
「はい。千葉さんですね」
受付の者はPCに視線を落とし、予約内容を確認しているようだ。
しばらくしてから顔を上げ、受付台の上に置かれた機械を示した。
「マイナンバーカードを、そちらの読み取り機に置いてください。後ろのお二人もお願いします」
「お前たちも出せ」
「うむ」
我は荷物を足元に置き、財布からマイナンバーカードを抜き取った。
しかし、マイナンバーカードで本人確認を行い、協会に登録されたハンター資格まで照会できるとはな。
運転免許証を取った時にも、マイナンバーカードにまとめるか選べると知って驚いたものだ。
父上が持っていたような、専用の運転免許証にも少し憧れてはおった。
だが、何枚も持ち歩くより、一枚にまとめられた方が楽でよい。
なくした時は地獄だがの。
「ここに置くのだな」
「病院みたい」
ユウよ。
言われてみれば、確かに病院の受付にある機械と似ておるな。
我は示された場所にカードを置き、画面に表示された指示に目を通した。
暗証番号を入力して……。
うむ。
これでよいの。
読み取りの完了を知らせる表示を確認し、カードを財布にしまい直す。
隣では、ユウも同じように暗証番号を入力しておった。
それからしばらく待っていると、受付の者がPCから顔を上げた。
「はい。三名とも、本人確認とハンター資格の照会が完了しました。施設と訓練用ダンジョンについての説明は必要ですか?」
「俺が説明するからいい」
「分かりました」
受付の者は頷くと、施設の奥に手を向けた。
「着替えが必要でしたら、右手奥に更衣室があります。すでに準備がお済みでしたら、左手奥にある訓練待機所からダンジョンへお進みください」
「行くぞ」
「うむ」
「はーい」
我とユウは千葉先生の後に続き、大きな扉を抜けて待機所に入った。
中は広く、壁際には人が入れそうなほど大きなロッカーが幾つも並んでおる。中央には武器や荷物を置くための台も用意されていた。
ダンジョンに入る前の、最後の準備を行う場所というわけだな。
千葉先生は空いているロッカーの一つを開け、我らが使う場所を確保した。
続いて、持ってきた細長いケースを中央の台に置き、中から武器を取り出す。
「さて。まずは武器とナイフのチェックだ。壊れているところがないか、固定具が緩んでいないか、自分で確かめろ」
「うむ」
「はい」
我も二つの黒いケースを台に並べ、留め具を外した。
蓋を開けると、中に収められていた六枚のシールドクローが姿を現す。
うむ。
今日も実に美しい。
我が魔力を流すと、六枚のシールドクローがケースから静かに浮かび上がった。
まずは、両腕に一枚ずつ装着する。
残る四枚のうち、二枚は肩の後ろに配置。
そして、残りの二枚を背中に配置しておくかの。
我の身体に触れぬ程度の間隔を空け、身体の線に沿わせるように静止させる。
うむ。
これならば、扉や壁にぶつける心配もなかろう。
続いて腰に装備したナイフを僅かに抜き、刃と留め具を確認する。
こちらも問題なし。
「へへ~」
隣から、何とも浮かれた声が聞こえてきた。
ユウよ。
剣に見惚れておらんで、さっさと装備せよ。
まったく。
気持ちは分からぬでもないがな。
ユウの武器は、両刃の長剣。
勇者であった頃から使い慣れている形だからか、初めて手にした時から不思議なほど身体に馴染んでおった。
鞘も愛殿が用意した特注品。
腰のベルトにしっかりと固定できるよう、複数の留め具に工夫が施されている。
走っても大きく揺れず、それでいて、剣を抜く動きを邪魔しない。
流石よな。
ユウは鞘を腰に固定すると、長剣をゆっくりと収めた。
そのまま何度か身体を動かし、鞘の位置を確かめておる。
浮かれてはいるが、千葉先生から教わった確認手順は覚えているようだな。
さて。
千葉先生の武器は……。
なんぞ、あれは?
ファルシオンにしては大きい。
だが、剣として見れば片刃で、切っ先に近づくほど僅かに前方へ湾曲しておる。
刀身は幅広く、柄も片手剣より長い。
片手でも両手でも扱えるように作られておるのか?
「ん? 何だ、天神」
我の視線に気づいた千葉先生が、剣を持ったままこちらを見た。
「その剣は、なんぞ?」
「ああ。これはバスタード・ファルシオン。俺専用にあつらえた剣の一つだな」
「バスタード・ファルシオンとな」
なるほど。
長さそのものは、ユウの直剣よりも短い。
その分、刀身の幅は広く、厚みもある。
あの湾曲した刃と広い刀身を利用すれば、多少の攻撃ならば正面から受け止めずとも、横に滑らせて簡単に受け流せるのだろう。
片手で扱えば細かな動きに対応でき、両手で握れば重い一撃も放てる。
千葉先生の戦い方に合わせ、攻撃と防御の両方に使えるよう工夫されておるのだな。
「訓練では二刀流だったのに、今日は一本だけですか?」
ユウも気になったのか、千葉先生の剣を覗き込みながら尋ねた。
「普段は一本だ。状況によって二本持つこともあるが、基本はこれだな」
なるほど。
二刀流も実戦で使う戦い方の一つだが、普段はこの一本を中心に戦うということか。
千葉先生は刀身を一度確かめると、腰に取りつけられた専用のマウントに固定した。
普通の鞘とは少し違うようだな。
刃を覆う細い保護具と、刀身の一部や鍔元を固定するマウントが一体になっておる。
歩いても外れず、柄を引けば固定が解除され、そのまま抜き放てる仕組みらしい。
流石よ。
装備にも無駄がない。
「次。銃への装填と、予備弾薬の準備だ。銃口は人に向けるな。引き金にも指を掛けるなよ」
千葉先生の指示を受け、我らはホルスターから銃を抜き、弾薬ケースを開いた。
銃口は、待機所で指定された安全な方向に向けておく。
我の《魔王》と千葉先生のガバナーは、どちらもリボルバーだ。
弾薬の状態を一発ずつ確認してからシリンダーを開き、それぞれの薬室に装填する。
すべての薬室に弾薬が収まっていることを確認し、シリンダーを戻す。最後に、拳銃をショルダーホルスターに収めた。
続いて、予備の弾薬をスピードローダーにセットする。
それを数個作っておき、専用のポーチに入れて腰に固定した。
しかし、我とは違い、千葉先生の手つきにはまるで迷いがない。
確認し、込め、収める。
一つ一つの動作が速いというより、余計な動きが何一つないのだな。
ユウもグロック19をホルスターから抜き、銃口を安全な方向に向けたまま、薬室が空であることを確認する。
続いて、使用するマガジンに弾薬を一発ずつ押し込み、グリップに差し込んだ。
スライドを引いて初弾を薬室に送り、引き金から指を外したまま、グロック19をホルスターに収める。
その後、予備のマガジンにも弾薬を込め、向きを揃えて専用のポーチに収めた。
最後に、そのポーチを腰の取り出しやすい位置に固定した。
「次。個人認証番号を登録した認証具を確認しろ」
千葉先生はそう言いながら、左手を持ち上げた。
その親指には、細い指輪が嵌められておる。
あれには千葉先生の個人認証番号が登録されている。
事故などで本人の確認が難しくなった時にも、身元を特定するために使われる物だ。
中学生の頃は、学校から渡された認証プレートを首から下げておった。
だが、ハンター仮免許を取得すれば、協会が認可した認証具に個人認証番号を登録し直せる。
「我はドッグタグにしたぞ」
そう言いながら、服の中に入れていたドッグタグを引き出して見せる。
映画で見たからの。
首から下げる銀色のプレート。
実に格好よい。
身元確認のために必要な物ではあるが、どうせ身につけるなら、見た目にもこだわりたいではないか。
「私は指輪」
ユウも左手を持ち上げ、小指に嵌めた指輪を見せた。
我のドッグタグとは違い、随分と可愛らしい意匠になっておる。
だが、簡単には壊れず、なくさなければ問題はない。
「よし。三人とも持っているな」
千葉先生は我らの装備を改めて見回し、小さく頷いた。
「今回はダンジョン内で一泊する。念のため、携行食と水は俺も三人分を用意して持ってきた。だが、次からは最初から全部自分で用意しろよ」
「うむ。我とユウの分は、言われる前に用意しておるぞ。ケースを渡す前に、シールドクローの中に入れておいた」
シールドクローの内側には、携行物資を収めるための収納スペースが設けられておる。
広くはないが、携行食や弾薬、小さな道具を入れておくには十分。
我は腕に装着したシールドクローに意識を向け、収納部分が閉じていることを確認した。
「私の分は、そのままマオが持ってて」
ユウが、何の問題もないような顔で言いおった。
準備自体は我に頼んだものの、自分で持つのが面倒だからと、そのままシールドクローに入れておくつもりらしい。
「それは駄目だ。白崎。今回の分は、今から自分の荷物に移せ。次からは準備するところから自分でやって、自分で持て」
先ほどまでよりも、僅かに低くなった千葉先生の声。
おおう。
千葉先生のきつめのお叱りよ。
流石のユウも声の違いに気づいたらしく、浮かれていた表情を引っ込めて素直に頷いた。
「……はい」
「天神と一緒に行動するから大丈夫だと思うな。ダンジョンの中では何が起きるか分からない。崩落やモンスターの襲撃で、離れ離れになることもある。そんな時、自分の食料と水を持っていなければ困るのは自分だぞ」
なるほど。
我が持っておけばよいと思っておったが、常にユウの傍にいられるとは限らぬか。
確かに、すべてを我のシールドクローに入れてしまえば、離れた時にユウは何も持っていないことになる。
それでは駄目よな。
ユウは渋々といった顔で、シールドクローの収納部分から自分の携行食と水を取り出した。
携行食と水を背中に装着した小型の携行バッグへ収める。
少しばかり不満そうではあるが、千葉先生に睨まれてまで我へ押しつける気はないらしい。
うむ。
最初からそうしておけばよいのだ。
「次。救急セットを確認しろ。怪我をした時、すぐに取り出せる場所に入れておけ」
「それもシールドクローの中に入っておる」
包帯や消毒用品など、応急処置に必要な物は一通り収納してある。
我は背中に浮かせていた一枚を横に移動させ、収納部分を僅かに開いて中身を確認した。
うむ。
こちらも問題なし。
「……マオ。私のも入れて」
「…………」
ユウよ。
つい先ほど、自分の物は自分で持てと叱られたばかりであろう。
千葉先生が睨んでおるぞ。
我が答えるよりも先に、その視線に気づいたユウは、差し出しかけていた救急セットを静かに引っ込めた。
「……自分で持ちます」
「そうしろ」
ユウは弾薬を収めた物とは別の腰のポーチを開き、救急セットを自分で収めた。
手を伸ばせばすぐに取り出せる位置。
少し窮屈そうではあるが、問題はなかろう。
「いいか。遊びじゃないからな」
千葉先生は我とユウの前に立ち、真剣な目を向けた。
「今回は訓練ということで、荷物は本番で必要になる量よりも多めにしてある。重い荷物を持った状態で、どれだけ動けるのかも確認するためだ」
武器。
弾薬。
携行食。
水。
救急用品。
どれもダンジョンで生き延びるために必要な物。
ただ持っていけばよいというわけではない。
必要な時に自分で取り出し、自分で使えなければ意味がないのだな。
「自分が何を、どこに、どれだけ入れたのかは必ず覚えておけ。必要な時に見つからなければ、持っていないのと同じだ」
「うむ。肝に銘じよう」
「はい」
我らの返事を聞き、千葉先生はようやく僅かに表情を緩めた。
「よし。準備は以上だ。空になったケースはロッカーにしまえ」
「うむ」
我は二つの黒いケースを重ね、先ほど千葉先生が確保したロッカーに収めた。
ユウも、長剣を入れていた青いケースをその上に置く。
最後に、千葉先生が自分の細長いケースを入れ、扉を閉めた。
施錠されたことを確かめると、千葉先生が我らを振り返る。
「ここまでやって、武器と携行品の準備は完了だ。少し休んだら、入口で通信機器の最終確認をするぞ」
「うむ」
「はい」
武器。
弾薬。
携行食と水。
救急用品。
必要な物は、すべて揃った。
あとは、訓練用ダンジョンに向かうだけ。
いよいよだの。




