第42話 我、守るために
その後も、シールドクローの試験は続いた。
次は、五枚を同時に操り、それぞれ別のターゲットを攻撃する試験。
先ほどのように、一つの相手を五枚で囲むのではない。
測定室の各所に置かれた五つのターゲットを、すべて同時に攻撃せねばならぬ。
正面。
右。
左。
さらに、我の視界に収めづらい斜め後方にまでターゲットが離して配置されておる。
我は一度、室内全体を見回し、それぞれの位置を頭に入れた。
正面の一枚は、そのまま真っ直ぐ。
左右の二枚は大きく回り込み、それぞれ横から打撃を叩き込む。
残る二枚は一度我の背後まで引いてから、斜め後方に置かれたターゲットへ向かわせた。
一枚を動かしている間に、他の四枚を止めてよいわけではない。
それぞれの距離。
向き。
速度。
そして、攻撃を当てた後に戻す位置。
五枚すべての動きに意識を巡らせる必要はあるが、問題なく攻撃できたぞ。
ただし、一枚に意識を集中させすぎれば、別の盾の動きが僅かに遅れる。
逆に、すべてを同じように動かそうとすれば、一枚ごとの攻撃が単調になってしまう。
五枚を動かすだけならば難しくない。
だが、それぞれに異なる動きをさせるとなれば、もう少し慣れが必要よな。
続いて、撃ち出されるゴムボールをシールドクローで防ぐ試験。
測定室の壁や天井の一部が開き、その奥から複数の発射口が現れた。
あそこからゴムボールを撃ち出すらしい。
これも、我にとっては難しくない。
正面だけでなく、左右や頭上から次々に飛んでくるゴムボールを見極め、その軌道上に盾を滑り込ませる。
一つ目は正面。
二つ目は僅かに右。
三つ目は、我の足元を狙うように低い位置から飛んできた。
それぞれの軌道に合わせ、五枚のシールドクローを上下左右に動かしていく。
盾の表面に当たったゴムボールが、乾いた音を立てて次々に弾かれていった。
正面だけを守るのであれば、一枚でも十分。
だが、複数の方向から同時に飛んできたとしても、五枚あれば隙間を埋められる。
これならば、我だけでなく、周囲にいる者まで守れるぞ。
続いて、クローの内側に仕込まれたソーの作動試験。
一枚のシールドクローを切断試験用に用意された素材へ向かわせる。
左右の爪を大きく開き、その間に試験材を挟み込んだ。
我がさらに魔力を流すと、クローの内側に備えられたソーが回転を始める。
低く唸るような音と共に、押し当てられた部分から細かな削り屑が飛び散ったな。
そのまま左右の爪に力を込めると、試験材に刻まれた切れ目が徐々に深くなっていく。
うむ。
作動にも問題はない。
ただし、千葉先生が言っていたように、これをモンスターに使えば、回収する素材まで傷めてしまうであろうな。
使いどころは考えねばなるまい。
そして今度は、攻撃と防御を同時に行う。
ターゲットを攻撃しながら、複数の発射口から撃ち出されるゴムボールも防がねばならぬ。
流石に、この時は我も動いたぞ。
先ほどまで動かぬ我を見て、父上が少し呆れておったからの。
別に、父上の誤解を解くために動くわけではないぞ。
これは、実際の戦闘を想定した試験。
必要だから動くのだ。
一枚は、常に我の右腕に装着。
腕を通す固定具は使わず、我の魔力によって右腕に重ねるように留める。
拳を握り、腕を振ってみても、シールドクローがずれる様子はない。
我の腕の動きに合わせ、まるで身体の一部であるかのようについてくる。
二枚には、ターゲットへの攻撃を任せる。
残る二枚は、飛んでくるゴムボールから我を守るための防御。
そして、右腕に装着した一枚。
合計、五枚。
それぞれに異なる役目を与えた上で、すべて同時に操るのだ。
試験の開始を知らせる音が響く。
我は自らも床を蹴って移動しながら、五枚すべてを別々に動かした。
右腕のシールドクローで、正面から飛んできたゴムボールを弾く。
腕に伝わった衝撃は小さい。
盾そのものが受け止めているだけでなく、周囲に巡らせた魔力まで衝撃を支えておるからな。
続けて、左側から飛んできたゴムボールを、宙に浮かせた一枚で防ぐ。
ほぼ同時に、右後方からもう一球。
別の一枚を素早く回り込ませ、我の背後まで通さず弾き返す。
その間にも、攻撃を任せた二枚は動きを止めぬ。
一枚が正面のターゲットに打撃を叩き込み、もう一枚は大きく回り込んで側面を殴りつける。
我自身もその場に留まらず、床を蹴って右へ移動。
飛んできたゴムボールの軌道から外れながら、右腕のシールドクローを構え直す。
目の前に別のターゲットがあれば、我自身の拳で殴ることもできよう。
攻撃を任せた二枚。
防御を任せた二枚。
そして、右腕に装着した一枚。
我の動きにぴたりと重なり、残る四枚が測定室の中を絶え間なく飛び交う。
くっくっくっ!
攻めながら守り、我自身も自由に動ける。
攻撃を受け止めた盾を、そのまま相手に叩きつけることも可能。
離れた相手を二枚で攻撃しながら、別の二枚で我や仲間を守れる。
そして、我自身には右腕の一枚がある。
これで反対の手に銃まで持てれば、無敵よな。
近づく相手にはシールドクロー。
離れた相手には銃。
死角からの攻撃は、宙に浮かせた盾で防ぐ。
無論、千葉先生のように、我の意識の隙を突いてくる相手にまで通用するかは、まだわからぬ。
以前の訓練で負けたことを忘れたわけではないぞ。
だが、あの時よりも攻め手は増え、守れる範囲も広がった。
うむ。
今の我、かなり隙がない。
「マオ。ズルくない?」
ユウは、我の右腕に装着された一枚と、周囲を飛び交う四枚のシールドクローを目で追いながら、僅かに頬を膨らませておる。
「ふっ。ユウよ、それは褒め言葉よ」
使えるものを最大限に使ってこそ、魔王というもの。
正面から剣一本で突っ込むだけが戦いではないのだ。
相手よりも多くの手段を用意し。
相手の攻撃を封じ。
こちらだけが、一方的に攻撃できる状況を作る。
それで勝てるのならば、何も問題はあるまい。
「白崎、考え方を変えろ」
千葉先生が、宙を飛び交うシールドクローに視線を向けたまま口を開く。
先ほどまで呆れたように見えた表情は消え、今は一枚一枚の動きを真剣に観察しておる。
「こうも考えられる。白崎がモンスターを攻撃している最中、別のモンスターが死角から襲ってきたとしても、天神の盾が防いでくれる。そういう使い方も可能だ」
「あ、そうか」
「千葉先生の言うとおりぞ、ユウ」
千葉先生よ。
流石、わかっておる。
我がこのシールドクローを欲したのは、千葉先生に負け、自分に合う武器が必要だと痛感したから。
そして、元の世界で愛用していた武器を、こちらでも使いたかったからよ。
だが、それだけではない。
この盾には、もう一つ大切な役目がある。
ユウを守ること。
それこそが今の我にとって何よりも大事なことなのだ。
グオウ王国のこともある。
モンスターのこともある。
この世界のダンジョンが、どこまで我の力と関わっているのかも、まだはっきりとはわからぬ。
今は何も起きておらぬように見えても、いずれ何らかの危険がユウに迫るかもしれぬ。
その時になって、何の手立てもないなどという事態だけは避けねばならぬ。
だから我は、自分が魔王である可能性を示した。
魔法が使えることも示した。
そして、このシールドクローを使えば、我一人で攻めるだけでなく、離れた場所にいるユウまで守れると示したのだ。
ただ、口惜しいのは、魔王時代であれば10枚は軽く動かせたというのに、今は五枚が精いっぱいなことよ。
五枚すべてに異なる役目を与え、我自身も動いている今は、意識にほとんど余裕が残っておらぬ。
仮に六枚目があったとしても、満足に操ることは難しかろう。
五枚でも十分に戦える。
守ることも、攻めることもできる。
だが、昔の我を知っている身としては、どうにも物足りぬ。
実に悔しい。
だが、訓練し、成長すれば、それもいずれ解消されよう。
多分。
「ユウよ」
「マオ?」
ユウが不思議そうに我を見る。
その表情からは、我が何を言おうとしているのか、まだわかっていないことが窺えた。
無理もない。
ユウは、自分がかつて勇者であった頃のことを、記憶としてはほとんど覚えておらぬ。
夢や身体に残った感覚はあっても、グオウ王国に召喚され、魔王である我の前に立ったことまでは思い出せぬのだ。
それでも最後には、笑って我に礼を言ってくれたことも。
今のユウにとっては、どこか遠い話でしかないのだろう。
だが、我は覚えておる。
だからこそ、同じことは繰り返させぬ。
「お主は我が守る。安心せよ」
我は胸を張って言い切った。
うむ。
今のは、なかなかよかったのではないか?
盾を従え、魔法を操り、勇者を守ると宣言する。
実に魔王らしい。
いや、魔王らしいというより、少し英雄らしいのではないか?
我、カッコいい。
「……マオが男の子だったら、惚れてたのに……」
「白崎、それは残念だな」
千葉先生は笑っておる。
ユウも、照れ隠しのように少しだけ視線を逸らした。
だが、我にとっては懐かしき言葉よ。
かつて勇者であった頃のユウも、似たようなことを言っておった。
あの時も、今も、ユウはユウなのだな。
ならば、あえて言おう。
今の我は、魔王であり、人間であり。
「我、女ぞ」




