第四話 我、食を満喫。そして連行
【更新時間変更のお知らせ】
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
現在、3作品を並行して執筆しております。
できるだけ安定して更新を続けられるよう、更新時間の変更と執筆時間の確保のため、土日をお休みとさせていただくことにしました。
急な変更となってしまい、大変申し訳ございません。
**『バハムート宇宙を行く』**
月曜日~金曜日 8時更新
**『バハムート宇宙を行く ノアの歩み』**
月曜日~金曜日 12時更新
**『魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~』**
月曜日~金曜日 20時更新
土曜日・日曜日はお休みとさせていただきます。
変更したばかりにもかかわらず、再度の変更となり申し訳ございません。
より良い作品をお届けできるよう頑張ってまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
この異世界に転生して、十年。
我は、こちらでの食生活に大いに満足している。
何せ、我が元の世界で大切に隠していた高級な茶葉や菓子と同じくらい美味いものが、その辺りの店で普通に売られているのだ。
我、幸せ。
これほど簡単に手に入るのなら、もうモロイに菓子を食べられ、茶葉を勝手に使われても怒らぬ。
…………。
いや。
自信はないがな。
そして、さらに我を驚かせたものがある。
生の魚!
あれには我、驚愕!
「昔は食べなかったのにな」
父上よ。
そんな昔のことを言うでない。
我、怖かったのだ。
元の世界で食べた生の魚。
あれで何度、腹痛に苦しめられたことか。
しかも、その度にモロイめ。
腹を抱える我を見て笑いおって!
まあ、その翌日にモロイも腹痛で苦しんでいたから、いい気味ではあったがな。
「父上よ。それは昔の話よ。今の我は好きだぞ」
そう!
我、克服!
この世界の生の魚、美味し。
特に寿司。
回転寿司という店は、完全に我を虜にしてしまった。
次から次へと寿司が流れてきて、好きなものを選んで食べられる。
しかも、食べても食べても、新たな寿司が流れてくるのだ。
実に恐ろしい店よな。
「マオ、昔は駄目だったの?」
「ユウよ。だから言うでない。それより、おぬしは何故、そんなものばかり頼んでおるのだ?」
ユウよ。
ハンバーグ。
カルビ。
そして、またハンバーグ。
先ほどから肉ばかりではないか。
ここは寿司屋ぞ。
何故、魚を食わぬのだ。
「パパ。うどんも食べたい」
「いいよ。博さん、ビール飲みます?」
「すいません。お願いします」
うむ。
ユウの父上。
白崎仁。
今日は我と父上、それにユウと仁殿の四人でクロ寿司へ来ているのだが……。
ビール。
酒か……。
飲みたい。
我も昔は、よく酒を嗜んだものだ。
しかし、今の身体は十歳。
当然、飲むことはできぬ。
ああ……元の世界の我。
そういえば、我が大切に隠しておいたヴィンテージワイン。
勇者に部屋を破壊されたが、あれは無事なのだろうか。
せっかく飲み頃になるまで大切に取っておいたというのに……。
まあ、無事だったところで、今の我には飲むこともできぬがな。
まさか生まれ変わった先で、再び酒を飲めるようになるまで待たされるとは思わなかったぞ。
異世界転生というものは、何かと理不尽よな。
「マオは頼まないの?」
今まさに、かつてのおぬしが暴れたせいで、あのワインまで駄目になっておらぬか心配していたというのに。
まあ、よい。
今のこ奴には関係のないことだ。
「ふっ。我を見くびるでない。もうすでに頼んでおる」
そう。
我はすでに注文を済ませている。
この世界へ来たばかりの頃は驚かされたタッチパネルも、今ではすっかり使い慣れたものよ。
お?
どうやら来たようだな。
注文した皿が流れてくるのを確認し、我は素早く手元へ引き寄せた。
「イカ、えんがわ、エビ。ふふふ。我、完璧!」
ふふふ。
我の初手はこれよ!
まさに、旨さの三銃士。
見よ。
この艶。
この輝き。
そして、この並び。
完璧ではないか。
元の世界の我。
この旨さを伝えられぬのが惜しいよな。
だが、仕方あるまい。
この美味さは、我が独り占め!
しかも、ここにはモロイもおらぬ。
我の寿司を奪う者など――。
「お、えんがわ貰うぞ」
あっ!
父上!
我のえんがわを!
くっ!
止めようにも、父上の腕の方が長い!
我のまだ短い腕では阻止できぬ!
「うん。うまいな」
…………。
父上よ。
それ、我が一番楽しみにしていたやつ。
「父上よ。それはなかろう」
我、泣くぞ。
「大丈夫だ。また注文しておくから」
「そういうことではない」
まったく。
この恨み、忘れぬからな。
む?
あれは……。
「博さん、ビール来ましたよ」
「おお! 久しぶりだな、日本のビール」
くっ!
黄金色に輝く、あの美味そうな飲み物。
ビールとやら。
表面には細かな泡が浮かび、冷えたグラスには水滴までついておる。
わ、我に一口くらいくれてもいいんだぞ。
えんがわの代わりにな。
さあ、我の期待に満ちた視線に気づけ!
その冷えたグラスを我に!
父上はグラスを持ち上げ、そのまま口元へ運ぶ。
ああああっ!
そんなに美味そうに、一気に飲みおって!
「マオ? なんか顔、怖いよ」
「我、無力……」
魔王として強大な力を持っていても、今の我は十歳。
ビールの前では、あまりにも無力。
力ずくで奪うことなど簡単だ。
だが、それをしては駄目だということくらい、我にもわかる。
何せ、我は魔王である前に、一国を治めていた王ぞ。
……今は十歳だが。
…………。
いつか。
いつの日か、我もあのビールを飲んでみたい。
まあいい。
今の我には、寿司がある!
しかも、今しがた新しいえんがわも来た!
我はその皿を引き寄せ、早速一貫を口へ運ぶ。
うむ。
美味い!
「ありがとうございました」
店を出た我は、満足感に包まれておる。
ふうっ。
我、満足!
えんがわを奪われたり、目の前でビールを美味そうに飲まれたりと、色々あった。
だが、我は今、幸せだ。
「美味しかったね、お寿司」
「ユウよ。おぬし、肉や麺類しか食っておらぬではないか」
そう。
こ奴、一切魚を食わぬのだ。
「だって、魚嫌いだし」
なら、何故来た。
我、混乱。
いや。
別に寿司屋で肉や麺類を食べてはならぬとは言わぬ。
だが、一皿くらい魚を食べてもよかろう。
「大きくなったら、美味しさがわかるようになるよ」
「おじさん。でもパパも残すよ。ピーマンとか」
「しーっ! 恥ずかしいから言わないの!」
…………。
うむ。
仁殿よ。
確かにピーマンは苦いが、我はあれ、好きぞ。
「おじさんは好き嫌いないの?」
「……ないね」
父上。
何故、そこで少し間を置いた。
「いや、あろう。父上はニンジンが食えぬ。毎回、我が食っておる」
「こら! マオちゃん!」
ふっ。
父上よ。
これは我の仕返し。
えんがわの恨みよ。
「あ~~。わかりますよ。私もいまだにニンジンは少し苦手で」
仁殿。
そこは共感するところなのだろうか?
「そうですよね。私もわかります。ピーマン、あまり好きじゃないんですよね」
父上も。
何故、そこで同意する?
「なら、私も大丈夫ね」
…………。
何だ、これ?
好き嫌いを注意していたはずなのに、何故こんな流れになった。
しかも、ユウまで安心してしまったではないか。
…………。
我、置いてけぼり。
それから数日後。
ダンジョンのことは、今も気になっている。
我がこの世界へ転生した十年前から現れ始めた、あの不可思議な存在。
父上が帰国しているうちに、聞いてみたいこともあるのだが……。
何せ、父上は行政のダンジョン研究所で働いている。
我の知らぬ情報も、数多く持っておろう。
だが、どうやって聞くかが問題だ。
『我のダンジョンマスターの力と似ておるのだが、何か知らぬか?』
などと聞けるはずもない。
我、魔王だったことを隠しておるからな。
まあ、焦ったところで、すぐに答えが見つかるとも思えぬ。
今の我に調べられることも限られておるからな。
それよりも、今は夏休み。
宿題?
まだ慌てる時間ではあるまい。
……決して、最後になって焦って片づけるわけではないぞ。
ただ、元の世界にいた頃から、どうも追い込まれぬとやる気が起きぬのだ。
うむ。
元の世界の我も、今頃は書類を山のようにためておるだろうな。
机の上に積まれた書類を見て、まだ大丈夫だと先延ばしにし、最後にはモロイに怒られておるに違いない。
…………。
何故だろうな。
容易に想像できる。
しかも、あちらにはモロイがおる。
我より大変よな。
「あついぃ~~~~」
ユウよ。
それは我も同じだ。
真夏の日差しが容赦なく照りつけ、歩くだけで汗が滲んでくる。
なのに、何故おぬしは我へ寄ってくる。
ええい!
くっつくでない!
べたべたするし、余計に暑いではないか!
「あついよ、マオ~~」
「我も暑い! だから離れぬか!」
くっ!
我一人なら魔法を使って、いくらでも涼しくできるというのに。
ユウがおるせいで、簡単には使えぬ!
いや。
少しくらいなら気づかれぬか?
風を起こす程度ならば……。
…………。
駄目だな。
こ奴、変なところで勘が鋭いからな。
というか――。
何故、我はこの暑い中、外におるのだ?
「ユウよ。何故、外に来たのだ?」
「え? プール」
…………。
待て。
我、そんな話は聞いておらぬぞ。
プール?
水に入るのか?
…………。
待て。
ならば水着が必要ではないか!
本当に、何故それを先に言わぬ!
「我、水着など用意しておらぬのだが?」
そう。
突然「外へ行こう」と言われ、半ば強引に連れ出された我に、そんなものを用意する暇などあろうはずもないではないか。
そもそも、我は行き先すら聞かされておらぬのだ。
「大丈夫。私が二つ持ってきてるから」
…………。
何故?
何故、我の分まで用意しておる?
まさか。
最初から我を連れていくつもりだったのか?
…………。
ユウよ。
恐ろしい奴。
そして、我が連れてこられたのは、市民プールという場所だった。
大きなプールを皆で利用するための公共施設らしい。
元の世界にはなかった概念よな。
そもそも、あちらではここまで暑くなる日など、そうそうなかったのだ。
我がこの世界へ来て驚いたことの一つが、こちらの夏の暑さ。
何もしておらぬのに汗は出るし、日差しは容赦なく照りつけてくる。
日陰へ入っても暑い。
夜になっても暑い。
本当に恐ろしい。
まあ、その暑さを凌ぐために、大勢で水に入って遊ぶ施設を作るという考えは悪くない。
実によく考えられておる。
我、少し感心。
「小学生二人で」
「600円です」
「ユウよ。我の分は我が出すぞ」
「いいよ。ママからマオの分ももらってるから」
ユウの母上。
白崎愛。
確か、衣服のデザインをする仕事をしていると聞いておる。
我の母上とも、とても仲が良い。
時々、我の家へ遊びに来ては、二人で長いこと話し込んでいるからな。
それに、仁殿と夫婦そろって母上の描く漫画のファンでもあるそうだ。
無論、ユウもその一人。
多くの人間を魅了する漫画。
やはり、あれは素晴らしい文化よな。
我も何冊読んだかわからぬ。
しかも、その世界に母上が関わっていると思うと、我まで少し誇らしい。
「マオ。更衣室に行こう」
「うむ。あいわかった」
ユウに急かされながら、我は受付の先へ視線を向けた。
さて。
ユウが我のために用意したという水着。
一体、どのようなものなのだろうな。
…………。
嫌な予感がするのは、何故だ?




