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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第一章 我の学校生活編

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第22話 我、先走る

 地下へ向かうエレベーターも、認証プレートをかざさなければ動かぬのか。


 うむ。


 抜かりないの。


 しかし、随分と広いな。


 このエレベーター。


 大人数を一度に乗せられるよう、このような造りになっておるのか?


 それとも、重量のある荷物や大型の機材を運ぶためだろうか。


 我とユウ、千葉先生の三人だけでは、内部にかなりの余裕がある。


 エレベーターが地下へ到着し、扉が静かに開いた。


「まずは地下一階。トレーニング室だ。置いてあるのは、最新のトレーニング機器ばかりだぞ」


「我にはよくわからぬが、随分と充実しておるの」


「多すぎでしょ」


 扉の向こうには、中規模のジムに匹敵する広さのトレーニング室が広がっておった。


 ダンベルやランニングマシンくらいなら、我にもわかる。


 だが、それ以外は、身体のどこを鍛えるための機械なのかすら見当がつかぬ。


 椅子のような部分から幾つもの棒が伸びたもの。


 重りと紐のようなものが複雑に繋がった機械。


 身体の一部だけを動かすらしき、用途不明の機械。


 見渡す限り、我の知らぬ道具ばかりよ。


「ここにある機器を使う時は、事故が起きないよう、必ず俺がいる時にしろ。勝手に触るなよ」


「先生は、トレーナーの資格があるんですか?」


「ああ。ハンターになる前は、スポーツトレーナーをしていた。指導に必要な資格も持ってる」


 千葉先生は、どこか懐かしそうな目で並んだ機器を眺めた。


「その後、ダンジョンで一攫千金を狙ってハンターになった。まあ、トレーナーの資格を持っていたから、学校側から『生徒の担任にならないか』と声をかけられたんだがな。他のクラスの担任も似たようなものだぞ」


 なるほどの。


 ハンターであれば誰でもよいと、無作為に選ばれたわけではなかったのか。


 それぞれが持つ資格や経験を見た上で、担任を任されておるのだな。


 我、納得。


「よし。次に行くぞ」


 …………。


 あっさりよな。


 もう少し機器の説明をしてもよい気がするが、今は校舎内を見て回っておるだけだ。


 ここで一つずつ説明を受けていては、いつまで経っても終わらぬからな。


 大人しく従うとしよう。


 我らは再びエレベーターへ乗り、今度は地下二階へ向かった。


 扉が開いた先に広がっていたのは、広い板張りの空間。


 正面には何も置かれておらず、壁際には教室で見たものと同じ木製の武器が整然と並べられておる。


「……実に、道場よな」


「うん。漫画で見たことがあるやつだ」


 我も同じぞ。


 板張りの床。


 木製の武器。


 広く何もない空間。


 まさに、漫画の修行場でよく見る光景ではないか。


 それにしても、壁に立てかけてある、あの大きな板はなんぞ?


 ただの板には見えぬが、何に使うのだろうな。


「ここでは各種武器の扱いを学んでもらう。それと、ダンジョン内での立ち回りもだな」


「立ち回りですか?」


「ああ。狭い場所もあれば、広い場所もある。ダンジョンには様々な種類があるからな。内部の環境に合わせて、どう動くかをここで訓練するんだ」


「そうか。ダンジョンにも種類があるんだ」


「その辺りは、授業でおいおい説明する」


 二人の会話を聞きながら、我は僅かに首を傾げた。


 我のダンジョンでも、内部には様々な環境を用意できた。


 狭い通路。広い空間。森や洞窟のような場所。配置する魔物や階層ごとの難易度まで、ある程度は自由に設定できた。


 だが、我自身は一度も中へ入ったことがない。


 どのような場所を作れるかは知っていても、そこで実際に動く者が何を感じ、どのような苦労をするのかまでは、よくわからぬのだ。


 何せ、我は魔王。


 我、強いからな。


 わざわざダンジョンで己を鍛える必要などなかったのだ。


 兵士たちの訓練用として用意してはいたが、実際の運用は部下たちへ任せきり。


 そのため、部下たちからは随分と文句を言われたものよ。


『魔王様も一度くらい入って、我々の苦労を知ってください』


 などと、何度言われたことか。


 …………。


 今思えば、一度くらい見ておくべきだったかもしれぬの。


「よし。最後、地下三階に行くぞ」


「うむ! 待ちに待っておったぞ!」


「マオ。そんなに嬉しいんだ」


 無論。


 地下三階は射撃場。


 先ほどから、我はずっとここへ来ることを楽しみにしておったのだ。


 我、期待。


 誰よりも早くエレベーターへ乗り込むと、地下三階のボタンへ指を伸ばす。


 押す。


 もう一度押す。


 さらに押す。


「マオ。連打しても早く着かないよ」


「わかっておる」


「子供みたい」


「子供よ」


 そう。


 我はまだ子供。


 何も間違ってはおらぬ。


 ユウよ。


 そのようにため息を吐くでない。


 少しくらい楽しみにしても、よいではないか。


 やがてエレベーターが止まり、扉がゆっくりと開いた。


「地下三階、射撃場だ。ただし、今日は見るだけだからな」


「それでもよい!」


 我は扉が開ききるのを待つと、射撃場へ向かって駆け出した。


「走るな!」


 千葉先生の声が後ろから飛んできたが、我の足は止まらぬ。


 入口を抜け、その先に広がる光景を見る。


 幾つもの射撃区画。


 奥へ向かって真っ直ぐ伸びる射線。


 距離を置いて並ぶ人型や円形の標的。


 壁や天井も厚く造られており、他の階とは空気まで異なるように感じられた。


「おお~~。見事な設備よな!」


「そう?」


「まあ、射撃場としては普通なんだがな」


 …………。


 普通とな?


 これが?


 ユウも千葉先生も、何故それほど冷静でいられるのだ。


 我にとっては、初めて目にする本物の射撃場ぞ。


 我、感動。


「ここも、俺がいない時は使用できない。そこの壁にある保管庫には、訓練用の銃火器が収められている。弾薬は内部の別区画だ。どちらも俺の認証がなければ取り出せない」


 む!


 後ろにある、壁一面を覆う大きな保管庫よな。


 扉には、認証プレートをかざすための読み取り機がついておる。


 なるほど。


 あの中に銃が収められておるのか。


 どれ。


「だから、駄目だと言っているだろ! それに、お前のプレートじゃ開かないぞ」


 む。


 認証プレートをかざそうとしたところで、千葉先生に止められてしもうた。


 どうやら、我のプレートでは開かぬらしい。


 流石に、少しはしゃぎすぎたか。


 ユウよ。


 我を見て笑うでない。


「この保管庫は、俺の認証プレートでなければ開かない。理由は、天神みたいな奴がいるからだ」


「だって、マオ」


「うむ……何も言えぬの」


 我自身が、目の前でその理由を証明してしもうたからな。


「流石に危なすぎる。もう勝手に触ろうとするなよ」


「あいわかった」


 我、反省。


 銃を見てみたい気持ちはあるが、弾丸まで収められているのだ。


 扱い方も知らぬまま触れてよい物ではあるまい。


「まあ、今日はここまでにしようか」


 む?


 もうそのような時間か?


 壁に掛けられた時計へ目を向ける。


 チャイムが鳴るまでには、まだ少し時間がありそうだが。


「今日は、ここで終わりだ。明日から徐々に本格的な訓練へ入っていくから、覚悟しておけよ」


「うむ」


「はーい」


「よし。じゃあ、二階へ戻って軽く終礼をしたら解散だ」


 うむ。


 今日は、ここまでか。


 銃へ触れることすらできなかったのは残念ではあるが、仕方あるまい。


 明日からは身体能力テストや適性検査も始まる。


 その時になれば、銃も持たせてもらえるのだからな。


 …………。


 撃てぬとしても。


 我、楽しみ。


 そして、翌日。


 我はユウと共に、ダンジョン科の校舎へ向かっておった。


 昨日とは違い、今日から身体能力テストや適性検査が始まる。


 少しばかり楽しみにしながら、認証プレートを取り出して校舎へ入ろうとした――その時。


 我、視線を感じる。


 背中へ突き刺さるような視線。


 我は僅かに足を止めた。


 振り返らずとも、誰なのかは何となく察しがつく。


「マオ。いいから無視して入ろう」


「……うむ。謝罪は昨日したからな。もうよいだろう」


 昨日のことについては、我なりに謝った。


 それでもまだ言いたいことがあるのなら、普通に声をかければよいではないか。


 ユウに急かされ、我も校舎の中へ足を踏み入れる。


「……チッ」


 背後から、小さな舌打ちが聞こえた。


 うむ……。


 佐々木殿よ。


 我になんぞ用があるのなら、睨むだけではなく言ってほしいのだがな。


 まあ、よい。


 我から再び声をかけたところで、話がややこしくなるだけかもしれぬ。


 今は、今日の身体能力テストと適性検査の方が大事ぞ。


「それよりもユウ。どうして、そんなに鞄が膨らんでおるのだ?」


 そう。


 我は朝から気になっておった。


 ユウが肩に掛けている大きなスポーツバッグは、普段よりも明らかに膨らんでいる。


 今にもファスナーが弾けそうというほどではないが、教科タブレットやノート、筆記用具だけが入っているとは思えぬ厚みよな。


 とはいえ、人前で鞄の中身を尋ねるのは無遠慮かと思い、ここまで聞かずにおったのだ。


「ああ、これ? ママからマオに渡してほしいって」


 愛殿から、我に?


 何やら、少し嫌な予感がするの。


 いや。


 嫌というわけではない。


 ただ、以前にも似たようなことがあったからな。


「最新の運動着だって。私のが青で、マオのが黒」


 ユウはそう言いながら、鞄から綺麗に畳まれた黒い衣服を取り出した。


「ほう」


 我は渡された運動着を広げ、生地の表面へ指を滑らせる。


 うむ。


 今着ておるジャージよりも薄く、柔らかい。


 それでいて、軽く引っ張ってみると、指へ吸いつくように伸びてからすぐ元の形へ戻った。


 伸縮性は十分。


 生地は薄く見えるが、簡単に破れそうな頼りなさも感じぬ。


 以前貰ったラッシュガードと同じく、ダンジョン素材を使用しておるのだろうか。


「これが上半身用のスポーツインナー。こっちがTシャツとレギンス。それから、レギンスの上に穿くオーバーショーツ」


 ユウは鞄から次々と衣服を取り出し、我へ渡してくる。


 まだあるのか?


「後はスポーツパーカーとスポーツシューズ。最後に手紙」


 …………。


 随分と多いの。


 最新の運動着というから、一着か二着程度だと思っておった。


 だが、これでは運動用の一式ではないか。


 どれも黒を基調としており、組み合わせて着られるよう統一されておる。


 我の分だけでもこれだけあるのだ。


 青を基調としたユウの分まで入っていたのなら、鞄が膨らむのも当然よな。


「またか……。嬉しくはあるが、これほど貰ってよいのであろうか?」


 以前のラッシュガードも、かなり質のよい品だった。


 実際に着てみると軽く、動きやすく、日差しから肌まで守ってくれた。


 以前のラッシュガードもそうだが、今回の運動着も、見るからに普通の品ではない。


 これだけの物を二人分となれば、それなりの値段がするのではなかろうか。


「ママが言うには、着てテストしてほしいんだって。後で感想を聞かせてって。それと、手紙は読んでも読まなくてもいいって言ってたよ」


 読んでも読まなくてもよい、とな?


 そのように言われると、逆に気になるではないか。


「……少しだけ見てみようか」


 我は手紙を受け取り、折り畳まれた紙をゆっくりと開いた。


 どれどれ……。


 …………。


 うむ。


 この流れ。


 以前にもあったよな。


 まず書かれていたのは、運動着に使われているダンジョン素材について。


 実際の運動や訓練で着用し、動きやすさや耐久性、着心地を確認してほしいらしい。


 ここまでは、我にも理解できる。


 愛殿の会社が新たに開発した製品ならば、使用者から感想を集めることも必要なのだろう。


 そして、その下。


 母上への仕事の依頼。


 やはり、そこへ繋げてきたか。


 愛殿よ。


 我を経由して母上へ仕事を持ちかける手法、随分と気に入っておるよな。


 だが、一度は我から母上へ話を通してやった。


 その結果、最初のコラボは無事に実現した。


 我としては、それで話は終わったものと思っておったのだが……。


 我は手紙を読み進め――。


 …………。


 第四弾とな?


 一度どころではない。


 我が知っている最初のコラボ以外にも、二度目と三度目が行われておったということか?


 母上も愛殿も、その二つについては我へ何も言っておらなんだぞ。


 いや。


 もしかすると話していたのに、我が聞き流していただけか?


 …………。


 それは、少しあり得るな。


 母上たちが仕事の話を始めると長くなるため、我は途中で漫画を読みに行くことも多いからの。


「我の知らぬ間に、第四弾の話まで進んでおるとは……愛殿は、やはり侮れぬな」


 二度目と三度目は、我を通さず、直接母上と話を進めておったらしい。


 だというのに、第四弾では再び我を使うつもりか。


 愛殿よ。


 我を経由して母上へ仕事を持ちかける手法、やはり随分と気に入っておるよな。


 商機を見つけたら逃さず、使えるものは何度でも使う。


 実にしたたか。


 我、何度も言うが、嫌いではないぞ。


「ママが、ごめんね」


「よい。その代わり、我も良い物を貰っておるからな」


 それに、これは一方的に貰っているわけではない。


 我らが実際に着て感想を伝えれば、その意見が今後の製品へ活かされるのだろう。


 ならば、遠慮して使わぬ方が失礼よな。


 我は手にした黒い運動着を、もう一度広げて眺めた。


 軽い。


 動きやすそうで、見た目も悪くない。


 今日から身体能力テストが始まることを考えれば、試すにはちょうどよい機会ではないか。


「ユウ。せっかくだ。今日はこれを着てみるとしよう」


「うん。私もそうする」


 うむ。


 愛殿よ。


 着用テストについては、我らに任せるがよい。


 ただし。


 次に母上へ頼み事をする時は、我を経由せず、自分で伝えてほしいの。


 …………。


 いや。


 直接話せるにもかかわらず、今回はあえて我を使っておるのか。


 愛殿。


 やはり、侮れぬ。

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