↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第一章 我の学校生活編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/100

第17話 我、謝罪 (10/16書き直し)

 電車を降りたマオとユウは、駅から中学校に向かって歩いていた。


 小学校へ通っていた頃とは違う道。春の柔らかな陽光が降り注ぎ、学校へ続く桜並木では、満開の花が風に揺れている。時折、枝を離れた花びらが二人の前を横切り、歩道に静かに舞い落ちていった。


(うむ。実に美しい)


 昨日は入学式。そして、今日から本格的な学校生活が始まる。新たな門出には、よく似合う光景だった。


 もっとも、学校に近づくにつれ、マオの気分は少しずつ変わっていくことになる。


「マオ。これって……」


「うむ。入学式よな」


 二人の前を歩いているのは、真新しい制服に身を包んだ生徒たち。その隣には、我が子の晴れ姿を見守る保護者の姿もあった。


 その光景を目にして、昨日の自分たちの入学式が自然と思い出された。


 ただし、決定的に違うことが二つある。


 一つは、その人数。


 昨日のダンジョン科とは比べものにならないほど、多くの新入生と保護者が学校に向かっていた。


 そして、もう一つ。


 周囲の新入生たちは、皆きちんと制服を着ている。


 対して、マオとユウは――。


 ジャージ姿だった。


「…………」


(目立つ。非常に目立つ)


 すれ違う度に、新入生や保護者の視線が二人に向けられる。中には、こちらを見ながら小声で何かを話し合う者までいた。


 何を言っているのかまでは聞こえない。だが、好奇の目を向けられていることくらいは、マオにもわかる。


(我、居づらい!)


 もちろん、間違った服装をしているわけではない。


 昨日、千葉から送られてきた予定表には、確かに『動きやすい服装』と書かれていた。だから、ジャージを選んだ。ユウも同じ。何一つ間違えてはいない。


(間違えてはおらぬのだが……周囲との落差が酷いの)


 改めて周囲を見回す。


 綺麗に整えられた制服。スーツや礼装姿の保護者。その間を、ジャージ姿の少女二人が歩いている。


 しかも、二人揃って。


(…………むぅ)


 今さらながら、もう少し別の服装でもよかったのではないかと思えてきた。だが、今から着替えに戻るわけにもいかない。


 マオは前方に続く人波を眺めた後、校庭の方に視線を向けた。


「ユウよ。校庭を回って行こう」


「うん。その方がよさそう」


 二人の意見は即座に一致した。


 正面から一般校舎を通るのは諦め、新入生たちの流れから外れる。校庭の端に沿って歩き、建物や木々に人の視線を遮られながら、S組の専用校舎を目指した。


 別に、悪いことをしているわけではない。それなのに、いつの間にか人目を避けるような道を選んでいる。


(何故、我らがこそこそ登校せねばならぬのだ?)


 少々納得がいかない。だが、奇異の目を向けられ続けるよりは、遥かにましだった。


 そうして、ようやくS組の校舎まで辿り着いた。


「やれやれ。これで一安心よな」


「結構見られたね」


「うむ。明日からは問題なかろう」


 周囲に一般生徒や保護者の姿はなく、遠くからは入学式の音楽が微かに聞こえてくるだけだった。


 マオは小さく肩の力を抜いた。


(まったく。朝から妙な疲れ方をしたものよ)


 ようやく落ち着いて登校できる。


 そう思い、校舎に向かおうとした――その時だった。


「待てよ!」


 背後から荒々しい声が飛んできた。


「む?」


 マオが足を止めて振り返ると、少し離れた場所に男子生徒が二人立っていた。


 一人は短く刈り上げた黒髪の少年。苛立たしげに頭を掻き、眉を吊り上げながらこちらを睨んでいる。


 もう一人は、前髪が目元まで伸びた少年だった。髪の隙間から覗く目には険しい光が宿り、こちらを責めるような視線を向けている。


(誰だ?)


 どこかで見たような気はする。だが、すぐには思い出せなかった。


「誰だ? おぬしら」


「てめぇ! 昨日はよくも恥をかかせてくれたな!」


「そうだ! 龍雅君に謝れよ!」


「龍雅?」


 その名前を聞き、ようやく記憶が繋がった。


(ああ。佐々木殿か)


 佐々木龍雅。


 昨日、新入生代表として壇上に立っていた少年である。入学式では妙にスーツが汚れており、何故かマオを何度も睨んでいた。


 今日の服装はマオたちと同じジャージ姿。


 だが、何より違うのは髪型だった。


 昨日は綺麗に整えられていた黒髪が、今日は随分と短く刈り込まれている。坊主頭とまではいかないものの、それに近い長さになっていた。


(なるほど。道理でわからぬはずよな)


 昨日とは印象がかなり違う。しかも、今朝はジャージ姿なのだから、余計に気づきにくかった。


(しかし、髪型まで変えたのか。何かあったのかの?)


 少し気になったが、それよりも先に確かめなければならないことがある。


(で、何故怒っておる?)


 マオは隣のユウに顔を向けた。


「ユウ。我は佐々木殿に何かしたのか?」


「マオ。本当に覚えてなかったんだ……」


 ユウが呆れたように息を吐いた。


「む?」


(何故、そんな顔をする?)


 マオには、本当に心当たりがない。何か迷惑を掛けた覚えもなければ、喧嘩をした記憶もない。


 少なくとも、本人はそう思っていた。


「てめぇのせいでな! 俺は入学式で恥かいたんだよ! 髪までひどく汚れたから、いっそ切ったんだ!」


「我のせい?」


「そうだよ!」


 佐々木の隣にいた少年が、一歩前に出た。伸びた前髪の隙間から、怒りを含んだ目が覗く。


「聞いたぞ! 昨日、龍雅君がお前に声を掛けただろ! なのにずっと無視してたから、気づかせようとして肩を掴もうとしたら、お前がいきなり投げ飛ばしたんだ!」


「…………」


 マオの動きが止まった。


(我が?)


 ゆっくりと隣を見る。


 ユウと目が合った。


 問いかけるように見つめると、ユウは力強く頷いた。


 しかも、一度ではない。


 何度も、念を押すように。


(…………我、失態)


 言われてみれば、確かに記憶がある。


 昨日、クラス分けの掲示板を眺めていた時のことだ。何故S組だけ二人なのか。何故H組ではなくS組なのか。そんな疑問が頭を占め、周囲の声などほとんど耳に入っていなかった。


 その最中、背後から何者かが近づき、肩に向かって手を伸ばしてきた。


 そこで、身体が反射的に動いたのだ。


 伸びてきた手首を掴み、相手が踏み込んできた勢いを利用して投げた。


 確か――。


 植え込みに。


「そうか。あの時、我が投げたのは佐々木殿だったのか」


「今さら思い出したのかよ!」


「うむ」


「うむじゃねぇ!」


 佐々木の怒声が響いた。


 だが、マオとしては本当に今思い出したのだから、そう答えるしかなかった。


「あの時は考え事に集中しておってな。声を掛けられていたことにも、相手が佐々木殿だったことにも気づいておらなんだ」


「だからって人を投げ飛ばすか!?」


(…………投げたな)


 間違いなく投げた。


 相手の手が伸びてきた瞬間、身体が先に動いてしまったのだ。長年の経験から身についた反射的な動作だったとはいえ、相手を確認する余裕がなかったわけではない。


 しかも、問題はそれだけではなかった。


(我、そのまま置いてきたよな)


 植え込みに突っ込んだ少年を見た後、何事もなかったように立ち去った。ユウからも『あれ、ほっといていいの?』と聞かれた覚えがある。


 あの時は別のことを考えていたため、深く気にしなかったのだが――。


(あの時、もう少し確認しておれば……)


 いや、そもそも投げ飛ばした時点で問題だった。


 その結果、佐々木は土まみれのスーツで新入生代表として壇上に立つことになったのである。


(…………これは、我が悪い)


 少なくとも、今聞いた話では、佐々木は声を掛け、肩に手を伸ばしただけらしい。それを、相手が何をしようとしているのか確かめもせず、反射的に投げ飛ばした。その後も怪我をしていないか確認せず、そのまま立ち去っている。


(うむ。弁解の余地はないの)


 ならば、やることは一つ。


 マオは姿勢を正し、佐々木に真正面から向き直った。


「事情は理解した。佐々木殿、申し訳なかった」


 そう告げると、素直に頭を下げた。


「なっ……」


 佐々木の声が止まる。


「考え事に集中するあまり、おぬしの声を聞き流していた。さらに、何をしようとしているのか確かめもせず投げ飛ばし、そのまま立ち去った。弁解の余地はない。すまなかった」


(我はかつて一国を治めた王ぞ。己の過ちを認められずして、何が王か)


 自分に非があるのなら、認めて謝る。相手が誰であろうと、それだけのことだった。


 しばらくして、マオは顔を上げた。


「…………」


 佐々木が目を見開いたまま、こちらを見ている。


 どうやら、素直に頭を下げられるとは思っていなかったらしい。


 やがて佐々木は気まずそうに顔を逸らし、舌を鳴らした。


「チッ。なんなんだ、てめぇは。それに、その変な喋り方」


(あ)


 その瞬間、マオは隣の気配が変わったことに気づいた。


 ユウの肩が僅かに動く。眉が寄り、口が開きかけた。


 だが――何も言わなかった。


 握り締めた拳に力が入っているものの、どうにかその場で踏みとどまっている。


 昨日、千葉に対して怒鳴ってしまったことを思い出したのかもしれない。


(うむ。よく堪えたぞ、ユウ)


 マオは内心で頷くと、改めて佐々木に向き直った。


「我の喋り方は昔からだ。悪いが、今さら変えるつもりもないし、変えられるものでもない。慣れてもらうほかあるまい」


「……知らねぇよ。お前の事情だろ」


「ならば、今知ったであろう。すまぬが覚えておいてくれ」


「お前! ……本当に調子狂うな!」


 佐々木が苛立たしげに顔を歪めた。


 だが、マオには何がそこまで気に入らないのか、よくわからない。


(我は、ただ事実を伝えておるだけなのだがの)


 これ以上考えても仕方がない。


 マオは小さく首を傾げると、ふと思い出した疑問を口にした。


「それより佐々木殿」


「なんだよ」


「昨日、我になんぞ用でもあったのか?」


「は?」


「何度も声を掛けておったのであろう?」


 考えてみれば、そもそも何故、佐々木が自分に声を掛けてきたのかを聞いていない。


 単に挨拶をしようとしただけなのか。それとも、何か用件があったのか。


(何度も呼び掛けておったというのなら、それなりの理由があったのだろうが……)


 マオは答えを待った。


 だが、佐々木は口を開きかけたまま、何故か言葉を詰まらせた。そして、隣に立つ少年に視線を向ける。


 少年も困ったように佐々木を見返すだけで、何も言わない。


(む?)


 先ほどまでの勢いは、どこへ行ったのだろうか。


 マオが不思議に思っていると、佐々木は乱暴に頭を掻いた。


「もういい!」


 それだけ吐き捨て、勢いよく背を向けた。


「龍雅君。いいの?」


 隣の少年が戸惑ったように声を掛けたが、佐々木は振り返らない。


「いい!」


 そのまま、自分のクラスがある校舎の方に歩いていった。


 少年もマオたちを一度睨んだ後、慌ててその背中を追っていく。


「…………」


 マオは遠ざかっていく二人を見送った。


(本当によかったのか?)


 結局、昨日何のために声を掛けてきたのかは、わからないままだ。もっとも、本人がもういいと言うのなら、追いかけてまで尋ねることでもないだろう。


(まあ、用があるなら、また話し掛けてくるであろう)


 そう考え、マオは校舎に向き直ろうとした。


 ところが――。


「あいつら、許さない」


「…………」


(ユウよ)


 隣から聞こえた低い声に、マオは小さく息を吐いた。


 見れば、ユウが遠ざかる二人の背中を睨んでいる。握られた拳には、かなり力が入っていた。


「もうよい」


「でも、マオの喋り方を変だって」


「それくらい、我は気にせぬ」


 名前や話し方について何か言われる度、ユウは自分が侮辱されたかのように怒る。小学校の頃から、ずっとそうだった。マオ自身は気にしていなくても、ユウだけは決して見過ごそうとしない。


(まったく。仕方のない奴よな)


「ほれ」


 マオはユウの頭に手を伸ばし、髪を乱さない程度にゆっくりと撫でた。


「よしよし。落ち着け」


「……子供扱いしないで」


「我らは同い年だがな」


「だったら撫でないでよ」


 そう言いながらも、ユウはマオの手を振り払わなかった。先ほどまで険しく寄っていた眉も、少しずつ元に戻っていく。


(うむ。こちらの方がよい)


 マオは最後にもう一度だけ優しく撫でると、手を離した。


「それより、中に入ろうぞ」


「うん。……ごめんね、マオ」


「謝るでない」


 マオはユウの顔を見上げ、僅かに笑った。


「我のために怒ってくれるのは、嬉しいぞ」


「マオ……」


「ただし、少しは受け流すことも覚えよ。おぬし自身が疲れてしまうからな」


「……うん。気をつける」


 ユウの表情が、ようやく柔らかくなった。


(やはり、ユウは笑っておる方がよいな)


 これで、ひとまず騒ぎは終わりだ。


 マオは気持ちを切り替え、改めて校舎に向かった。


 入口に到着すると、ジャージの内側に手を入れ、首から下げていた専用ケースを取り出した。中には、昨日渡された認証プレートが収められている。


(さて。これでよかったはずだの)


 入口脇に設置された認証装置に、ケースをかざす。


 すると、短い電子音に続いて、扉の内側から施錠が解除される音が聞こえた。


「おお。開いた」


「昨日説明された通りだね」


「うむ」


 マオは認証プレートを再びジャージの内側に収め、扉を押し開けた。


 まだ千葉の姿もなく、校舎内は静まり返っていた。外の喧騒も扉が閉まるとほとんど聞こえなくなり、廊下には二人分の足音だけが響いている。


(随分と静かな校舎よな)


 先ほどまで聞こえていた入学式の音楽も、今ではほとんど届かない。


 その静けさの中を歩きながら、マオは隣のユウに声を掛けた。


「さて。今日は何を教わるのかの」


「予定表だと、まだ説明だったよね」


「うむ。だが、昨日だけでも随分と変わったものを見せられたからな」


 認証プレート。ハンタースマホ。スマートウォッチ。さらには、拳銃とナイフを携行したS級ハンターの担任。


 普通の中学校では、まず目にしないものばかりだ。


(今日は何が出てくるのやら)


 マオは期待を胸に階段を上がり、昨日と同じ二階の教室に向かった。


 そして、扉を開ける。


「…………む?」


 その足が、ぴたりと止まった。


「なんぞ、これ」


 昨日まで何もなかった壁際。


 そこに、大量の武器が並べられていた。


 木刀。薙刀。片手で扱えそうな剣に、マオの身長を優に超える大剣。小型の盾から、人の身体をすっぽりと隠せそうな大楯まである。さらには、長い鞭まで用意されていた。


 形も長さも、種類もばらばら。壁に立て掛けられているものもあれば、専用の台に整然と並べられたものもある。


(我、驚愕)


 昨日まで普通だった教室が、一晩で武器庫のようになっていた。


「わあ……すごいね!」


 後ろから入ってきたユウも、目を輝かせながら壁際を眺めている。


 マオは鞄を自分の席に置くと、武器の並ぶ場所まで歩み寄った。


(ほう。なかなかの品揃えではないか)


 かつて魔王国を治めていた頃には、兵士たちが様々な武器を使って訓練する姿を見てきた。剣に槍、斧や盾。魔族の中には、人間では扱えないほど巨大な武器を振るう者もいた。


 それらを思い出しながら、マオは目の前の武器を一つずつ観察していく。


(……いや。実戦用ではないの)


 近くで見れば、どれも訓練用に作られたものだった。剣や薙刀には人を斬るための刃がなく、鞭も先端まで安全性を考慮した造りになっている。大剣も見た目こそ重厚だが、実戦用の武器とは明らかに違った。


 それでも、これほど大量に並んでいると迫力は十分である。


(教室というより、訓練場に併設された武器庫よな)


「マオ。これ、授業で使うのかな?」


「今日はまだ説明のはずぞ。予定表にも、実技を行うとは書いておらなんだ」


「じゃあ、何でこんなに置いてあるんだろう?」


「さての」


 これから扱う武器の説明だろうか。あるいは、自分に合った武器を選ぶための見本かもしれない。いくつか考えられるが、答えは出ない。


 ただ、一つだけ確かなことがある。


(…………気になる)


 これほど多くの武器が目の前に並んでいるのだ。見ているだけでは、どうにも物足りない。


 マオは辺りを一度確認すると、壁際に置かれていた木刀に手を伸ばした。


(少しくらいなら、よかろう)


 そっと持ち上げる。


「ほう」


 見た目より軽い。


 柄には特別な加工もなく、一般的な木刀に見える。片手で支え、僅かに傾けて重心を確認する。続いて握り直し、柄の感触を確かめた。


(ふむ。特に変わったところはないな)


 マオの手には、少々長く感じられる。だが、重量も重心も素直で、扱いにくさはなかった。


「うむ。ただの木刀よな」


「こっちは、ちゃんと剣の形になってるよ」


「む?」


 隣を見ると、ユウが木製の剣を手にしていた。


 木刀とは違い、両刃の直剣を模した形状になっている。鍔があり、柄は両手で握れる長さ。剣身に刃はないものの、見た目は元の世界で見慣れた剣に近かった。


「へえ。これ好きかも」


 ユウは興味深そうに眺め、軽く片手で動かして感触を確かめた。


 そして――。


 自然な動作で、両手を柄に添える。


 片足が僅かに前に出た。


 腰を落とし、身体の向きを変える。


 剣先が持ち上がった。


「…………む?」


 マオの表情が固まった。


(ユウよ)


 その構え。


 知っている。


 というより、忘れられるはずがない。


 足の位置。腰の落とし方。剣を構える高さ。そして、無駄なく安定した立ち姿。


 まだ中学生になったばかりの少女が、訓練用の木剣を手にしているだけ。


 それなのに――。


(…………おい)


 マオの脳裏に、かつての勇者が重なった。


 魔王城の玉座の間。


 剣を構え、真っすぐにこちらを見据える少女。その目に迷いはなく、向けられた剣先は常にマオの首を捉えていた。


 右から。


 左から。


 そして上から。


 どれだけ避けても、次に振るわれる剣が狙う場所は同じ。


 首。


 首。


 また首。


(我、首が寒い)


 無意識に、マオの手が自分の首元に伸びた。


(……いや。落ち着け、我)


 目の前にいるのは、今のユウだ。本人には、あの頃の記憶もない。


 それは十分に理解している。


 理解しているのだが――。


(何故、その構えまで同じなのだ!?)


 しかも、あまりにも自然だった。考えて構えたというより、身体が覚えている動作を、そのまま再現したように見える。


(勇者の力だけでなく、剣術まで残っておるのか……?)


「ユウよ」


「何?」


「その剣先を、我に向けるでない」


「え? 向けてないよ?」


「僅かにこちらを向いておる」


「そう?」


 ユウが不思議そうに剣先を見下ろした。


 悪気がないことも、木剣に刃がないこともわかっている。それでも、マオはそっと半歩だけ横にずれた。


(…………嫌なものは嫌なのだ)


「マオ。この剣、すごく持ちやすいよ!」


「……うむ。そうか」


「マオも持ってみる?」


「遠慮しておこう」


「えー。何で?」


(おぬしが持っておるからだ!)


 もちろん、口には出せない。


 マオは何食わぬ顔で木刀を元の場所に戻し、ユウから僅かに距離を取った。


 その様子を見たユウが、不思議そうに首を傾げる。


「マオ?」


「気にするでない」


(我、警戒中)


 昨日は拳銃。今日は大量の訓練用武器。いよいよ本格的なハンター教育が始まるのだろう。


 そのこと自体は、実に楽しみだった。


 ただし、一つだけ。


(先生よ。できればユウに、我の首を狙わぬよう教えてやってくれ)


 元魔王にとっては、切実な願いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。