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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス


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第14話 我、理解する

「先生。万が一の際の身元確認ということは、在学中に命を落とす可能性がある――そう捉えてもよいのだろうか?」


 我、気になる。


 生徒手帳に幾つもの役割があることは理解した。


 校舎へ入るための鍵。


 生徒であることを証明する身分証。


 そして、万が一の際に本人を特定するための識別機能。


 だが。


 入学したばかりの説明で、命を落とした場合の話まで出てくるとは思わなんだ。


「ああ、そうだ」


 千葉先生は、教卓へ身体を預けたまま、あっさりと頷きおった。


「今すぐってわけじゃないが、課程の進み具合によっては、実際にダンジョンへ入ることもある。怖気づいたか?」


 我は静かに首を横へ振った。


「否。確認したかっただけのことよ。その辺りについては、入学前にも説明を受けておるからな」


 ダンジョンへ入れば、命を落とす可能性がある。


 モンスターと戦う以上、絶対に安全などということはない。


 その程度のことは、我もユウも理解した上で、この学校を受験しておる。


「だが、こうも軽く言われると、心配にもなろう」


 まるで、生徒手帳を忘れるなと注意するのと同じ調子で言いおったからな。


 まさか命に関わる説明まで、これほど軽く済まされるとは思わなんだ。


 もっとこう。


 厳粛な面持ちで説明するものではないのか?


 少なくとも、我が元の世界で兵士たちを危険な場所へ送り出す時には、相応の責任を持って説明しておったぞ。


 まあ。


 千葉先生なりに、余計な恐怖を与えぬようにしている可能性もあるがな。


 ちなみに、この学校を受験すると決めた時、我とユウはそれぞれの両親へきちんと話をしておる。


 母上と愛殿は、我ら二人が自分で選んだ道ならばと、最後には背中を押してくれた。


 …………。


 父上と仁殿は、かなり反対しておったがな。


『危険すぎる』


『普通の学校でもいいだろう』


『どうして、わざわざダンジョンへ入る可能性のある学校を選ぶんだ』


 そのようなことを、二人そろって長々と言っておった。


 無理もない。


 我らを心配してくれているからこその反対だということは、我にもわかっておる。


 その後、学校側から安全管理や訓練課程について詳しい説明を受け、我らも交えて何度も話し合った。


 その末に、父上と仁殿は最後まで渋い顔をしながらも、ようやく進学を認めてくれたのだ。


 もっとも、最後に二人の背中を押したのは、母上と愛殿だったがな。


 …………。


 父上。


 仁殿。


 我らを心配してくれたことには感謝しておるぞ。


 だが、母上たちにまで勝てぬとは情けないの。


「そうか」


 千葉先生は、我の答えに少しだけ目を細めた。


 そして、何やら探るような視線を我へ向けてくる。


「それと天神。その喋り方は何だ? キャラ付けか?」


「違います!」


 我が答えるより先に、隣からユウの声が上がった。


 椅子を引く音とともに、ユウが勢いよく立ち上がる。


「マオの喋り方は昔からこうです! 馬鹿にするな!」


 …………。


 ユウよ。


 いきなり怒るでない。


 千葉先生は、単に疑問に思って聞いただけではないのか?


 いや。


 少しからかうような響きがあったことは否定せぬが。


 小学生の頃に受けたいじめの件もあって、ユウは我について何か言われると、すぐに過敏な反応を見せるようになってしまった。


 我自身は、まったく気にしておらぬというのに。


 何せ、この喋り方はこの異世界に来る前から長年使い続けてきたもの。


 今さら誰かに何かを言われた程度で、変えるつもりなどない。


 だが、ユウは譲らぬ。


 我のこととなると、昔からすぐに怒りよる。


 …………。


 まったく。


 我、嬉しいがな。


「いきなり怒るな、ユウよ。我は気にしておらぬ」


 だから、まずは座れ。


 そのように机へ両手をついて千葉先生を睨んでおっては、話が進まぬではないか。


 我が服の裾を軽く引くと、ユウはまだ不満そうな顔をしながらも椅子へ座り直した。


 それでも、千葉先生へ向ける視線には警戒が残っておるな。


 我は小さく息を吐き、改めて教壇へ顔を向けた。


「先生よ。我の喋り方は昔から変わらぬ。キャラ付けというものではない」


 何せ、中身は本物の魔王だからな。


 無論、そのことをここで言うわけにはいかぬが。


「気に障ったのなら、すまぬ」


 我はそう答え、僅かに頭を下げた。


 喋り方を変えるつもりはない。


 だが、これから世話になる担任と、わざわざ初日から揉める必要もあるまい。


 我、元為政者。


 無用な争いを避けることも、王として大切な務めよな。


「そうか。すまない。ちょっと気になってな。天神、申し訳なかった。白崎にも謝る。からかうような言い方をして悪かった」


 千葉先生は、先ほどまでの軽い態度を少しだけ改め、我とユウへ素直に頭を下げた。


「いえ。私も、ついカッとなってしまって……」


 ユウも気まずそうに視線を落としながら、小さく頭を下げた。


「よい。先生よ、すまぬが我の喋り方には慣れてくれ」


「ああ、わかった。さあ、気を取り直して学校の説明だ」


 うむ。


 切り替えが早いの。


 先ほどまでの僅かに重くなった空気を引きずることなく、千葉先生はすぐに話を戻した。


 隣のユウは……。


 うむ。


 まだ少し気にしておるな。


 伏せた顔には、先生へ怒鳴ってしまったことへの後悔が浮かんでおる。


 そう落ち込むでない。


 我は気にしておらぬし、千葉先生も謝ったではないか。


 それに。


 我のために怒ってくれたことは、素直に嬉しいぞ。


 後で、もう一度そう伝えておくかの。


「さっき、万が一の際の身元確認について話したのは――これのせいだ」


 おお!


 千葉先生は左脇へ手を伸ばすと、ショルダーホルスターから拳銃を滑らかに引き抜いた。


 迷いのない動き。


 無駄がなく、銃口が我らへ向かぬよう、その角度まできちんと制御しておる。


 格好よい!


 いや。


 今は見惚れている場合ではないな。


 あれは何ぞ?


 どこのメーカーだ?


 見覚えのある形ではあるが、母上の仕事部屋にあった資料で見たものとは、細部が違っておるように見える。


「武器を扱う以上、事故は起こり得る。銃や刃物だけじゃない。課程が進めば、爆発物を扱うこともあるからな」


 千葉先生は拳銃を持ったまま、先ほどまでより少しだけ真剣な声で続けた。


「万が一、事故に巻き込まれて本人の確認が難しくなった場合、認証プレートに記録された個人認証番号を使って身元を確認する」


 なるほど。


 だから、万が一の際の身元確認にも必要だと言ったのか。


 鍵や身分証として使うだけではない。


 何か起きた時、そこにいた者が誰なのかを確認するためのものでもあるのだな。


「正式なダンジョンハンターになれば、認証プレートみたいな形じゃなくてもいい。俺の場合はこれだ」


 千葉先生が、空いている左手を持ち上げる。


 その親指には、目立たぬ色合いの細い指輪が嵌められておった。


「こういう指輪や、ドッグタグ、ピアスなんかを使う奴もいる。常に身につけられて、簡単には壊れない物なら、そこに個人認証番号を登録できる」


 うむ。


 よく見なければ、ただの指輪にしか見えぬ。


 あれが、千葉先生のダンジョンハンターとしての身分を証明し、万が一の際には本人を確認するための物でもあるのか。


 理にかなっておるな。


 だが。


 それよりも、その銃。


 格好よい!


 黒を基調とした重厚な姿。


 細部には通常の製品とは異なる加工が施され、握りも千葉先生の手に合わせて調整されておるように見える。


 母上の仕事部屋にも、銃器に関する資料は大量にあったな。


 漫画を描く際に使う参考資料らしい。


 モデルガンも、棚へ収まりきらぬほど置かれておった。


 無論、我も何度か手に取って眺めたことがある。


 実物を見るのは、これが初めてだがな。


「あいわかった。それと先生よ」


「何だ?」


「その銃はなんぞ? どこのメーカーの物だ?」


 我、気になって仕方ない。


 学校の説明も重要。


 認証プレートも大切。


 だが、それはそれとして銃の詳細も聞いておきたいではないか。


 千葉先生は僅かに眉を上げ、手にした拳銃へ視線を落とした。


「S&Wのガバナーを、俺用にカスタムしたものだ」


 うむ!


 ガバナーか!


 資料で見たことがあるぞ。


 だが、やはり細部は元の形と違う。


 千葉先生の手や戦い方に合わせ、握りや照準をはじめ、各部に細かな調整が加えられておるのだろう。


 千葉先生は銃を一度確認すると、流れるような動作でショルダーホルスターへ戻した。


 仕舞う姿も見事よな。


 引き抜く時と同じく無駄がない。


 銃を扱い慣れておることが、動作だけでもよくわかる。


「まあ、そういうわけだ。表紙から外した認証プレートは、専用ケースへ入れて首から下げろ。訓練中は服の内側へ入れておけ。生徒手帳本体は鞄の中でも構わないが、認証プレートだけは必ず身につけろ」


 拳銃を収めた千葉先生は、教卓の上に置かれていた二つの透明なケースを手に取った。


 どちらにも、首から下げるための細いストラップが取り付けられておる。


「ほら。耐衝撃性や耐熱性をはじめ、各種耐性を備えた保護ケースだ」


 そして、また投げた。


「むっ」


「わっ」


 我とユウは、それぞれ飛んできたケースを受け取る。


 先生よ。


 何故、何でも投げて渡す?


 普通に手渡せばよかろうに。


 我は小さく息を吐きながら、生徒手帳の表紙から認証プレートを外し、受け取ったケースへ差し込んだ。


 うむ。


 これを首から下げておけばよいのだな。


 それなら鞄を手放したとしても、本人確認に必要な認証プレートは身につけたままでいられる。


「それで、校舎がクラスごとに分けられている理由だが」


 千葉先生は我とユウを交互に見ながら、ショルダーホルスターへ収めたばかりの拳銃を軽く指で示した。


「こういう火器を授業で扱うからだ。校舎へ入る時に認証ロックが必要なのも、同じ理由だな」


 千葉先生は銃を示していた手を下ろし、今度は教室の壁へ視線を向けた。


「各棟は防音、防弾、防爆仕様になってる。万が一、事故が起きても、他のクラスや一般校舎へ被害が広がらないよう、棟そのものを分けてある。外に面した窓がないのも、そのためだ」


 なるほど。


 ここへ来るまでに感じていた疑問が、ようやく一つにつながった。


「うむ。確かに、一般の生徒が好き勝手に出入りすれば危ないの」


 銃。


 刃物。


 そして、爆発物。


 そのような物が保管され、実際に使用される校舎へ、関係のない生徒が自由に立ち入るのは危険すぎる。


 一般生徒の校舎とダンジョン科を分けている理由。


 八つのクラスごとに、独立した校舎を用意している理由。


 入口に認証装置が取り付けられている理由。


 そして、教室に外窓が一つも設けられていない理由。


 ようやく、少しずつ理解できてきたの。


「そうだね。先生、私たちも武器を携行できるってことですか?」


 先ほどまで落ち込んでいたユウが顔を上げ、千葉先生へ尋ねた。


 どうやら、ようやく気持ちを切り替えられたようだな。


「まだできない」


 千葉先生は即座に答えた。


「現時点では、授業中に教員の管理下で扱うだけだ。技能試験に合格すれば、まず校内での携行資格が与えられる。その後、課程が進めば、校外実習に限った仮携行許可を受けることもできる」


 そこで一度言葉を切り、我とユウへ鋭い視線を向けた。


「許可なく校外へ持ち出した場合は、携行資格を即時停止する。内容次第では停学、あるいは退学だ」


 なるほど。


 学校へ入学したからといって、すぐに武器を持ち歩けるわけではないのだな。


 まずは使い方を学ぶ。


 安全に扱えると認められ、試験に合格する。


 そこでようやく、段階に応じた携行資格や許可を得られるのだ。


 うむ。


 当然よな。


 力や武器は、持つことよりも正しく扱うことの方が重要だ。


 我の目的を考えれば、いずれ携行の許可は得ておきたい。


 だが、焦る必要はない。


 まずは、この学校で何を学ぶのかを知ることからだな。

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