1-16 足掻きと救援 ミケ中尉視点
ミケ中尉視点
大小様々な大きさの岩山が点在する荒野をタマ大佐が搭乗する猫人民共和国製第三世代アサルトの焼牙と、オレの搭乗する地上管制用試作実験テクニカルの光爪が慎重に夜の闇に包まれながら行軍する。
目指す場所は、合衆国の連中が待ち伏せしているはずのポイント。
隠密性を高めるために、各センサーはパッシブで、機体の出力を抑えた静音機動を選択。
ユトナ王女より先に、待ち伏せする合衆国の連中を確認。
戦場になるであろう地点を俯瞰できる小高い岩山の頂上から、推定中隊規模の合衆国のアサルトを観察する。
なぜ、推定合衆国なのか?
連中の機体が猫人民共和国製第二世代アサルト炎牙だからだ。
「ミストリーダー、あれは炎牙です」
オレはタマ大佐の機体に触れて、周囲に傍受される可能性の低い接触回線で通信した。
「ミストツー、そのようだな」
「合衆国に、炎牙を売ったという記録は?」
人民共和国と合衆国は戦争状態ではない。
毎年、かなりの規模の貿易もしている。
だが、自国で生産している兵器を輸出するほど仲がいいかと言われれば疑問だ。
もちろん、人民共和国は歩兵の銃から、アサルトのような兵器まで世界中に輸出している。
それでも、売る相手を選んでいるはずだ。
そもそも党が、歩兵用の小物ならともかく、炎牙のような現役の兵器を合衆国に売ることを認めるだろうか?
ありえない。
つまり、あの連中が運用している炎牙は、正規ルートで購入された物ではないということだ。
「ないな。メーカーの横流しか、購入した国による転売だな」
タマ大佐の言葉に、冷徹な呆れと突き放すような侮蔑がふくまれている。
「アサルトの転売は禁止されているはずでは?」
「目先の欲に我慢できなかったのだろう。こうなると、一機でいいから、あの炎牙を回収したいな」
タマ大佐の言う通り、物的証拠である目の前の炎牙を確保できれば、愚か者たちの販売ルートも割れるだろう。
「クビ皇国の奮戦に期待しましょう」
「そうだな」
「ミストリーダー、クビ皇国のアサルトが駐屯している基地から出撃しました」
クビ皇国の部隊と基地との通信を拾った。
当然だが、暗号化されているので通信の内容はわからない。
しかし、通信の有無だけでも、場所、人、時間を考えれば色々と見えてくる。
この状況でクビ皇国のアサルトの部隊が基地と通信するとすれば、出撃のための通信だろう。
タマ大佐は感心したように応じた。
「ほう、早いな」
ここまでは予定通りではある。
しかし、不思議なことに、基地から出撃したクビ皇国の四機のアサルトは各アクティブセンサーを切っていない。
アクティブセンサーは敵を捉えることもできるが、自分の存在を周囲に教えることにもなる。
だから、アクティブセンサーを使用しているというだけでもわかることはあるのだ。
クビ皇国の連中は、自分たちの存在を隠すよりも、ユトナ王女と合衆国の連中を見つけることを優先している。
そして、自分たちの存在を誇示することによる合衆国の連中に対する牽制もあるかもしれない。
「ユトナ王女も、出撃。単独ではありません」
オレの搭乗する光爪が、ユトナ王女と護衛する者の二機が出撃を伝える通信を捉えた。
「ほう、あの王女にも共に死ぬ忠臣がいたか」
「二機は予想通りの動きをしています」
オレたちの予想通り、ユトナ王女たちは事前の夜間偵察ルートを外れて、合衆国の連中が待ち伏せしているポイントを奇襲するルートで進軍する。
「上手くいきそうだな」
「そのよう……待ってください。クビ皇国の小隊の動きが」
光爪の各センサーは、クビ皇国の連中がユトナ王女たちから離れるような動きをしているのを捉えたので、急いでタマ大佐とアートマンシステムで情報を共有した。
「これは、クビ皇国の連中、ユトナ王女から予定の偵察ルートをもらっていない?」
タマ大佐が、少しだけ焦っている。
「まさか……ありえなくはないですね」
オレは否定したかったが、今回の作戦の状況を考えると可能性は十分にある。
オレたち人民共和国、ユトナ王女たち、クビ皇国の小隊ともユトナ王女の暗殺を阻止したいという利害は一致しているが、連絡を取り合って連携しているわけではない。
当然だが、お互いに相手がどの情報をどれくらい把握しているのかわからないのだ。
クビ皇国の小隊が、ユトナ王女たちの偵察ルートを把握していないということもありえる。
「このままだと、クビ皇国の連中、ユトナ王女が死んでから現場に到着することになるぞ」
「こちらで、クビ皇国の小隊をユトナ王女たちの方へ誘導しましょう。よろしいですか?」
オレは光爪の能力を使う許可を、タマ大佐に確認した。
「……光爪の能力の一端が、クビ皇国の連中にバレるかもしれないが、それでもユトナ王女が暗殺される方が面倒だ。特に、人民共和国の兵器でユトナ王女の暗殺など、党の逆鱗にふれるかもしれん」
「できる限り自然な形で誘導します」
「ミストツー、クビ皇国の連中は?」
タマ大佐に、オレは即座に応じる。
「あと、数分で到着します」
「ギリギリだな」
タマ大佐の言葉通り、ユトナ王女と護衛の二機の動きは悪くないが、そう長くはもたないだろう。
それこそ、平時であれば短い数分という時間も、死地にいるユトナ王女たちにとっては絶望的に長い。
「介入しますか?」
「我々二機で? リスクが高すぎる。残念だが、ユトナ王女をそこまでして守る理由が我々にはない。その場合、クビ皇国は、出撃したのにユトナ王女を守れなかった道化として世界中の紹介されるだろう」
タマ大佐が冷めた口調で淡々と告げる。
光爪の性能の一端をみせるくらいの協力はしても、ユトナ王女は我々が命を懸けて守る対象ではないのだろう。
冷たいようだが、オレたち二機で援護するといわれなくてよかった。
「しかし……閃光弾?」
ユトナ王女の護衛機と思われるカグツチが機関砲を上空に向けて撃ち、直後に夜の暗闇を拒絶するような光が一瞬だけ広がる。
「ほう、クビ皇国に自分たちの位置を知らせたか」
「ユトナ王女たちは、クビ皇国と連携していないのでは?」
上空に閃光弾を撃って自分たちの位置を知らせるというのは、悪くない手段だろう。
だが、それもユトナ王女たちが、事前にクビ皇国側と話し合いをしていればだ。
そうではないのなら、あれは虚しく夜を刹那の時間だけ光らせたことになる。
「連携はしていないさ。あのユトナ王女の護衛は、クビ皇国なら来てくれると信じているのだろう。詳細はわからんがな」
「クビ皇国の小隊、交戦地点に向けて、さらに速度を上げました」
閃光弾の光でクビ皇国の小隊も、すでにユトナ王女たちが合衆国の連中と交戦を開始したと気づいたのだろう。
「タイミング的に、ギリギリだな」
間に合うか、間に合わないか。
しかし、オレの温度を失った心は、ユトナ王女たちが死ぬ前提でこれからのことを考え始めている。
現在進行形で文字通り命懸けで理不尽に抗っているユトナ王女たちをみながら、小石のような同情と哀れみは抱いても、二人の極限の努力が報われることはないと割り切ってしまう。
一生懸命に頑張って努力した者が、醜悪で無常な不条理に蹂躙されるたびに、何度も見捨ててきた。
どうせ、今回も救いや奇跡は間に合わない。
「ユトナ王女と護衛の二機は無力化されました」
四肢を失った二機のカグツチは合衆国の連中に取り囲まれ絶体絶命。
急激にオレの中から色と熱が零れ落ちていく気がしてしまう。
「間に合わないか」
タマ大佐の声に失望の色が含まれていると思ったのは、オレの気のせいだろうか?
だが、そのことに意識を割くとはできない。
なにしろ、オレの搭乗する光爪の各センサーが、異常な反応を捉えたから。
正体はわかっている。
しかし、オレの理性がセンサーの捉えた現象を否定しようとしてまう。
現象だけを言葉にするなら、クビ皇国の四機のアサルトが行軍しているだけだが、その移動速度が異常だった。
現在、タマ大佐が搭乗している猫人民共和国製第三世代アサルトの焼牙では、クビ皇国のアサルトの機動は絶対に再現できない。
確かに、クビ皇国製第三世代アサルトのユキカゼのカタログスペックと周辺の地形情報を照らし合わせれば、低確率だが理論上なら成立はするだろう。
そう、理論上なら、だ。
これは机上の空論を無理矢理現実にしたようなもの。
オレの全身を駆け巡った電流のような震えの正体は?
わき立つような歓喜か、敬服するような畏怖だろうか?
わからない。
胸が高鳴り、このこみ上げてくる感情はなんなんだ。
小隊長機と思われるユキカゼが投槍器で槍を放ち、ユトナ王女のカグツチに機関砲を向けていた炎牙の両腕を吹き飛ばす。
直後に、他の三機も槍を投げ、それぞれ別の合衆国の連中が操縦している炎牙の四肢や頭部を破壊していく。
光爪の光学センサーが暗視モードでクビ皇国の四機のユキカゼを捉える。
全身から淡い魔力の光と蒸気をまとうユキカゼは、どこか神秘的でありながら狂気じみた暴力性を感じてしまう。
一目でわかる。
最大出力で限界機動を続けた結果だ。
人工筋肉を極限まで酷使したせいで、通常の冷却では追いつかずに、循環液を強制的に消費して強引に冷却させているのだろう。
あれでは、戦闘後に、循環液と人工筋肉はすべて交換する必要がある。
ユキカゼの骨格や関節にも異常があるかもしれない。
それだけの無理を重ねて、あのクビ皇国の四機は、この場に現れた。
「こちらクビ皇国の第二護衛小隊、ユトナ王女殿下を救出する。脅威は排除させてもらう」
クビ皇国のユキカゼが、スピーカーで淡々と告げる。
しかし、オレにはそれが勝利宣言のように聞こえた。
「はあ? クビ皇国だ? てめぇら、合衆国に、ケンカを売る気か!」
合衆国の連中が、スピーカーで騒ぐ。
こいつらは自分たちの所属を隠す気があるのだろうか?
選挙のアピール材料のために、暗殺をするような連中だ。
ユトナ王女の暗殺を、小国の暴君や独裁者を排除する正義と認識しているのかもしれない。
暗殺に成功すれば合衆国の功績。
暗殺に失敗したら、それを革命軍の卑劣な行いと、合衆国は自分の罪を他所に押し付けて、他人事のように非難するのだろう。
「……それは、自分たちの所属が合衆国だという自白か?」
あきれたようなクビ皇国の隊長機の問いに、合衆国の隊長機はやる気なさそうに応じる。
「クソっ、なにを言ってんだ? 俺たちは革命軍の所属だ」
「偽装をするなら、もっとしっかりしろよ。革命軍で使用されているアサルトやテクニカルの機関砲は人民共和国製だ。合衆国製の機関砲なんて保有していない」
クビ皇国の隊長機の言葉に、内心で同意する。
任務は扱い慣れた装備で遂行したいのかもしれないが、合衆国製の機関砲を使用するのは、どうにも偽装が中途半端だ。
「それは……」
「それに、革命軍の機関砲の火器管制システムの暗号セキュリティは、ほぼ同一のゴミみたいなものだ。間違っても、お前たちの使っている合衆国製の機関砲の火器管制システムの暗号セキュリティみたいに複雑じゃない」
「黙れよ、クビ皇国のザコが! たかが、てめぇら四機のアサルトで、十二機の俺たちに勝てると思ってんのかよ!」
合衆国の機体が喚くが、オレは内心であきれてしまう。
十二機のうち一機は両腕を破壊されて、他の三機も四肢や頭部を損壊している。
つまり、合衆国側で十全に戦えるのは、あと八機。
八機の炎牙で、四機のユキカゼを撃退できると考えているなら、合衆国の連中はクビ皇国の連中をなめすぎだ。
オレは、合衆国の連中とユトナ王女たちの交戦データや通信記録から、合衆国側の中隊長機と小隊長機がどの機体か割り出し、クビ皇国の四機に共有した。
一瞬だけ、クビ皇国の小隊長機が、こちらに頭部を向けたがそれだけだった。
勝手なことをするなとタマ大佐から叱責されるかと思ったが、とくになにもない。
とりあえず、現状は見逃されたようだ。
それは、戦闘と呼べる代物じゃなかった。
クビ皇国の小隊四機による合衆国の中隊の蹂躙。
合衆国の連中は弛緩して舐めた動きをするかと思ったが、油断なく連携していた。
公平に判断して、合衆国の連中の操縦や連携にミスはない。
ただ、相手にした四機が圧倒的な格上というだけのこと。
初手で、中隊長機と小隊長機の四肢が切り落とされると、もはや戦いにすらならない。
「なんでだ!」
「俺たちは中隊で!」
「合衆国なんだぞ!」
現実が理不尽だとでもいうように、合衆国の連中は操縦する炎牙の四肢と頭部を失いながら叫ぶ。
慌ててユトナ王女を人質にしようと最後の一機が、機関砲を向けようとしたときには駆け抜けるユキカゼに四肢を切り落とされていた。
ここまで、クビ皇国のユキカゼが槍を投げて、ユトナ王女の機体に機関砲を構える炎牙の両腕を破壊してから、二分以内のできごと。
合衆国の連中は全機四肢を失い戦えないが、死者はいない。
政治的な配慮なのか、合衆国の連中の機体のコックピットはすべて無傷だ。
その後、四機のユキカゼは、二機の四肢を破壊されたカグツチを抱えてフェネック王国の王都へ向かい移動した。
「ミストツー、黒豹に多脚輸送車と人員の要請だ」
「了解しました」
ユトナ王女とクビ皇国の小隊が、こちらの各センサーの探知範囲から十分にはなれてから、タマ大佐の焼牙とオレの光爪の二機は、四肢の破壊された炎牙に乗る合衆国の連中の前に姿をみせた。
「てめぇら、革命軍か? ……いや、その機体は猫人民共和国製第三世代アサルトの焼牙。人民共和国の連中か!」
合衆国の連中が、稼働する炎牙のスピーカーで喚く。
「貴様らには、利用価値があるからな。あまり下手なことをするなよ。その炎牙の出所など、聞きたいことが色々ある。態度次第では、捕虜として扱ってやるが?」
熱を感じさせない声色でタマ大佐が告げる。
合衆国の連中に選択肢などない。
合衆国の連中は全員が生存しているが、炎牙のコックピットから降りて歩兵として、焼牙や光爪に立ち向かい逃亡するなど不可能。
合衆国の捕虜と、炎牙を転売か、横流ししたルートが分かるのだから、党にとってプラスでしかないだろう。
次回の投稿は8月16日日曜日2時を予定しております。




