1-17 エピローグ ファダンシス少佐視点
ファダンシス少佐視点
フェネック王国の王都にある王城の豪華な装飾の施された広間で、多くの者たちに注目されながらユトナ王女からヒヒイロカネ製の軍刀を、鬼族の特徴である四本の角を生やしたクビ皇国のアオイケ中尉が、氷のような無表情のまま受け取る。
彼女の姿勢や作法は完璧で美しいのに、周囲を拒絶するような雰囲気を感じてしまう。
先週、暗殺からユトナ王女を救出したことにより、この国の国民たちのクビ皇国の者たちへの態度も、多少は改善されている。
ただ、式典だというのに、アオイケ中尉を祝福するどころか、この場の雰囲気は最悪に近い。
「まったく、本当に素晴らしい活躍ですね、クビ皇国の方々は」
「ええ、何度も、我が国のために、命がけで獅子奮迅の活躍をしてくれたのですから」
「それでいて、多くの報酬を求めない。実に、謙虚な方々だ」
不満そうな笑顔を顔に貼り付けて、アオイケ中尉たちを口先だけで称える貴族派の連中。
「革命軍の卑劣な暗殺者たちから、ユトナ殿下を勇敢に守ったクビ皇国の方々は見事です。同盟国として非常に心強い限りです」
「まったく、暗殺などという行為は許すわけにはいきません」
「まあ、偉大なる我ら合衆国が助力するのですから、この国は民主主義という優れた制度を導入されるでしょう」
傲岸不遜に胡散臭い笑顔を貼り付けて、堂々としている合衆国の大使たち。
「卑劣な暗殺を思いつくような連中をユトナ殿下の近くに近寄せるなど貴族たちの正気を疑う。いや、暗殺を実行したのに、この場に居るとは本当に恥を知らぬ連中だ」
「結局、自分の与えられた領地も命がけで守る気概のない腰抜けということだろう」
「まったく、貴族派は自分が国家を運営していると勘違いしている。すべての実務は我々が行っているというのに」
大使たちへ隠そうともしない殺意と、貴族たちへの不満を隠すことなく向けるフェネック王国の軍人や官僚連中。
仮面のような笑顔で機械的に拍手しながら、それぞれの集団は別れて混じり合うことがない。
まるでのこの国の縮図を見ているようだ。
だが、私にいわせれば、この場で殺意を大使たちへ向けるくらいなら、ユトナ王女を助けるために少しは行動しろよと言いたくなる。
一応、ユトナ王女の暗殺未遂と、合衆国は無関係というスタンスで、大統領が遺憾の意を表明した。
予想外の国際的な非難と、フェネック王国の国民からの強い反発を受けてだろう。
ユトナ王女がフェネック王国の国民から慕われているということすら理解しないで、邪悪な独裁者か暴君と思い込んで、彼女を暗殺すれば選挙で合衆国の国民にアピールできると早計に判断した結果だ。
まあ、ユトナ王女の実態が、合衆国内で報道されるようになると、大統領は選挙を意識して立憲君主制のように、王制と民主主義は両立するとトーンダウンしている。
だったら、良く知りもしないのに、ユトナ王女を暗殺しようとするなと強く思う。
その余波で、元モレニドの領主であるプルピジュラ侯爵を中心とした民主主義派の求心力と発言力が弱くなっている。
とはいえ、それでも、プルピジュラたち民衆主義派は、合衆国からの支援を受けて一定の力を残したままだ。
結局、貴族派はまとまりがなく、責任感と指導力のあるリーダーが不在。
だから、ユトナ王女が以前より自由に動けるようになった。
合衆国の暗殺から生き残ったというのが大きいだろう。
クビ皇国の力を借りたとはいえ、多くの貴族派たちが諦めていた死地から帰還したというのは、ユトナ王女の功績となる。
だから、ユトナ王女が、クビ皇国のアオイケ中尉に勲章や王家お抱えの職人に作らせたヒヒイロカネ製の軍刀を贈ることを、貴族は連中は止めることができなかった。
しかし、重要なのは、勲章や軍刀ではない。
今頃、クビ皇国が駐屯している基地に移送されれている剣こそ本命。
国宝にして、伝説の宝剣クニタチ。
見た目は赤い刀身の巨剣。
クニタチは、フェネック王国建国に関わる重要な宝剣だ。
間違っても、功績があったからと、他国の者に触らせる物じゃない。
通常なら。
けど、そもそも、このクニタチ、フェネック王国建国伝説において、味方の手に握られたことはない。
フェネック王国建国前のこの島で、暴走したダンジョンから出てきて複数の国を滅ぼした巨人が振り回していた剣なのだ。
宝剣クニタチは伝説の重要な国宝の剣だけど、敬わられているというより、畏怖されているという方が近い。
だから、任務でフェネック王国にいる間だけと期間を区切ることで、アオイケ中尉に宝剣クニタチを貸与することができたのだ。
これは、ユトナ王女がアオイケ中尉に褒美を与えたというだけではなく、クビ皇国の部隊は貴族派ではなくユトナ王女の味方だと周囲に認識させる狙いがある。
以前なら、貴族派の反対で不可能だっただろう。
だが、今なら、ユトナ王女の暗殺を止めるために動かなかった貴族派の発言権は大きく低下した。
もっとも、それはフェネック王国に派遣されているクビ皇国の部隊に関してだけだ。
ユトナ王女が国政を動かすような実質的な権力がないことには変わらない。
それに、クニタチに関しては色々とトラブルが起こっている。
そもそも、クニタチは全長八メートル近い巨剣とはいえ、フェネック王国の国宝だ。
クニタチがアオイケ中尉に貸与されたというのは、儀礼的かつ政治的な意味しかない。
それなのに、アオイケ中尉は淡々とクニタチをただの武器と認識して、このままだと実戦で使えないから、高周波振動機能を外付けしたいと言われたときには、意味がわからなかった。
剣とはいえ伝説の国宝を実戦で使おうとするなと思ったことが強く印象に残っている。
結局、ユトナ王女が笑顔で許可したから、これからクニタチは高周波振動機能が外付けされた実戦仕様になるだろう。
けど、冷静に考えれば悪くないかもしれない。
振動剣となったクニタチは、従来の振動剣と違って、容易に折れたり壊れたりしないだろう。
それは、つまり、アオイケ中尉の戦闘能力の強化になる。
結果的に、ユトナ王女にとって悪いことじゃない。
もっとも、全高七メートル以下のクビ皇国製第三世代アサルトのユキカゼが、全長八メートルを超える巨剣クニタチを扱えるのかという不安はある。
とはいえ、アオイケ中尉ならなんとかクニタチを使いこなすだろう。
そして、貴族派もユトナ王女を無視して、クビ皇国の部隊を動かすことに制限がかかる。
なんの後ろ盾も力もないユトナ王女にとって、クビ皇国の部隊だけが頼みの綱なのだ。
本心を言うなら、嫉妬や悔しさはある。
厳然たる事実として、ユトナ王女が頼りにしているのはクビ皇国の部隊だ。
ユトナ王女の直属で、常に忠義を示している私たち近衛部隊ではない。
完全な納得や綺麗に割り切るなどできるわけがない。
しかし、それも仕方がないのだ。
我ら近衛は弱く実績も実力もない。
弱く実力もないのに、クビ皇国の部隊に嫉妬して、ユトナ王女に頼って欲しいと願うのは甘えだ。
ユトナ王女に心から頼ってもらい、我ら近衛こそユトナ王女の力だと胸を張りたいなら、それだけの実力をつけるしかない。
中身がないのに虚勢を張っても無意味だ。
だから、現状でユトナ王女の信頼する剣が、クビ皇国の部隊だと認めよう。
でも、我ら近衛こそが、ユトナ王女の信頼すべき剣であるべきなのだ。
惨めとうつむことも、屈辱と怒る権利も、信頼されなかったと足を止めることも、我ら未熟な近衛には許されないのだから。
今回の投稿はここまでです。




