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その引き金は重く  ささやかなゴーレム戦争  作者: アーマナイト


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12/17

1-12 総評   ミケ中尉視点

 ミケ中尉視点




 民間軍事会社白虎のために用意された建物のブリーフィングルームで、タマ大佐、ニャーン大尉と、オレの三人でモレニド攻略戦後の話し合いが行われている。


「革命軍が戦勝祝いをしているそうですね?」


 オレは忌々しい思いを隠すことなく口にした。


 あの無様な地獄を生み出した革命軍は、自分たちの悍ましい所業から目をそらすように、勝利という結果だけを受け入れている。


「アハハハ、アレが勝利? 大都市のモレニドを瓦礫の山に変えて、革命軍は重装備をかなり喪失したのに勝利と?」


 先端が折れ曲がった白い猫耳の優男のニャーン大尉が、腹を抱えて笑う。


 革命軍への皮肉じゃなくて、連中の態度と状況が滑稽だとニャーン大尉は笑っているのだ。


 ニャーン大尉の言葉に内心で同意しながらオレは、


「しかし、革命軍の我々に協力的ではない連中が減ったのは悪くない。革命軍がリーダーの元で意思統一されるのは、我々にとっては朗報かと」


 というように、自分の見解を述べる。


「その革命軍だが、リーダーのエパノワ殿の発言力が低下している」


 タマ大佐がさらりと告げたことに、オレは首を傾げながら応じた。


「なぜです? 今回に関しては、エパノワの失点ではないでしょう? まあ、組織をまとめきれていないというのは問題ですが」


「生き残った革命軍内部の強硬派の声が大きくなっていることが問題だ」


「革命軍を消耗させただけのあいつらがですか?」


 オレとしては、タマ大佐の言葉に納得できない。


 モレニドの攻略を主導した革命軍の強硬派は、軍事的にみて革命軍を無駄に消耗させただけだ。


 革命軍内部で糾弾されるならともかく、発言力が大きくなる道理がない。


「そういえるのは、多少なりとも、軍事や革命軍の内部をミケ中尉が理解しているからだ。なにも知らない連中には、強硬派がモレニドを攻め落としたという事実しか見えない」


「陥落されただけです。革命軍に、モレニドのまともな占領など不可能です」


 革命軍がモレニドでまともな行政サービスを行う人的物的リソースなどあるわけがない。


 そもそも、荒廃したモレニドを統治するためのノウハウが革命軍にあるか疑わしい。


「だが、それでも、勝利だ。ここのところ大きな戦果のなかった、革命軍の上げた大戦果だからな」


「内実は、革命軍を疲弊させただけです」


 実際、革命軍の内情は悲惨だ。


 人的喪失も大きいが、それ以上に先程ニャーン大尉が言ったように、アサルト、テクニカル、戦車などの重装備の大半を失っている。


 モレニドの守備隊との戦力差を考えれば、戦った革命軍の損害は異常だ。


 はっきり言って、あれだけ革命軍を損耗させたクビ皇国のアサルトの小隊は化け物としかいいようがない。


 しかも、それだけのことをクビ皇国のアサルトは火器を使用しないで成したのだから理解不能だ。


「革命軍の連中と支持者は、勝利に酔って見たいものだけ見ているのさ」


 淡々と告げるタマ大佐の言葉に、内心で勝利という痛み止めで現実逃避する革命軍の連中にオレは嫌悪しながら、口調に出ないように注意して応じた。


「連中が酔いから醒めたら、辛く冷たい現実しかありませんよ」


「そう、現実だ。エパノワ殿からさらなる支援の要請がきた」


 タマ大佐が告げたのは、ある意味で予想通りの内容だった。


 重装備の大半を失った革命軍。


 では、どうするか?


 損失して不足した分は、補充するしかない。


 当然、革命軍が頼るのは、猫人民共和国だ。


「党はなんと?」


「予定通りの支援は約束している」


 タマ大佐の言葉が意味するところは、人民共和国から革命軍への追加の支援はないという意味だ。


 重装備がなく、それ以外の物資も資金もない革命軍が、瓦礫となったモレニドを統治できるか?


 不可能だ。


 革命軍をモレニドに駐留させ続けることすら難しいだろう。


 それぐらい、革命軍にはあらゆるものが足りていない。


「…………モレニドは放棄ですか?」


 オレは暗澹たる気持ちで言った。


 革命軍がモレニドで虐殺と破壊の限りを尽くした結果がこれか。


 残ったのは、革命軍の醜悪な自己満足だけだ。


「それがな、革命軍の強硬派を中心とした連中が、西獣連合の色々な組織に声をかけている」


 ため息交じりに告げられたタマ大佐の言葉に、オレは困惑して首を傾げながら応じた。


「……はあ? 党は、革命軍にそんなフリーハンドを?」


 革命軍が西獣連合の協力を得るということは、人民共和国に対する明らかな裏切りだ。


 面子を気にする党が、それを革命軍に許すとは思えない。


「与えているわけないだろう。強硬派の暴走だな」


「エパノワは?」


 あの革命軍のリーダーのエパノワは、英雄と呼べるほど優秀ではないが、最低限の良識と状況判断力と行動力はあったはずだ。


 そんなエパノワが、西獣連合に協力を得ようとする革命軍の動きを放置するほど無能ではない。


「エパノワは強硬派の動きを把握できていない。おそらく、強硬派がそんなことをしているとは夢にも思っていないだろうな」


 タマ大佐の意見に、オレは同意してうなずく。


 そうでなければ、人民共和国に支援を求めたエパノワの行為は煽りや挑発の意味になってしまうが、そこまで彼は愚かではないと思いたい。


 そもそも、


「不快で、無礼な話ですが、強硬派の働きかけで西獣連合が動きますか?」


 そこに疑問がある。


 この国は、国土、資源、地理、あらゆる面で微妙なのだ。


 リスクしかないこの国に、経済的文化的先進国を自称する西方の獣人の国々の集まりである西獣連合が協力するとは思えない。


 なにしろ西獣連合の国々には、メリットがない。


 人民共和国にしても、短期間の革命の支援をローリスクローリターンだから行うと決めたのだ。


 まあ、結果は、不幸にも泥沼の内戦になってしまっている。


「そこが、問題だ。はっきり言って、この国は不良債権だ。まともな国家なら、わざわざ手を貸す利益も意味もない……はずだった」


 タマ大佐が言い淀む。


「それは?」


「モレニド攻略戦が影響している」


 タマ大佐の予想外の言葉に、オレはわけもわからず首を傾げながら応じた。


「はあ? モレニド攻略戦がですか?」


 あの地獄でしかないモレニド攻略戦のなにが、西獣連合の感心を引いた?


 多くの人々が犠牲になったから、西獣連合特有の良心が刺激されて押し付けがましい人道支援でもするつもりか?


 それでも、疑問がある。


 モレニド攻略戦は最低の地獄だが、現在世界各地で発生している戦争の被害として特別に突出しているわけでもない。


「ミケ中尉は鈍いな。今、業界じゃ、アサルトとテクニカルへの注目が熱いんだよ」


 ニャーン大尉が絶妙にムカつく笑顔で意味不明なことを言う。


 そもそも、どの業界の話だ。


 そして、誰がアサルトとテクニカルに注目しているのか、ニャーン大尉の言葉だけだとわからない。


「どういう意味です?」


 オレの質問に答えてくれたのは、ニャーン大尉ではなくタマ大佐だった。


「ある意味で、我が国と同じだ。よくわからない陸戦兵器のアサルトやテクニカルに可能性や危機感を覚えたが、西獣連合にはそれらの兵器のデータを収集する手頃な戦場がない」


「だから、西獣連合が革命軍に手を差し出す可能性はあると?」


「表向きの軍事支援はないだろうが、いくつかの民間軍事会社が出向いてくるだろう」


 タマ大佐が言い切った。


 つまり、時期は未定だが、西獣連合か、西獣連合に加盟している国の影響力のある民間軍事会社が、この国に出てくるのは既定路線。


 なかなか面倒な話だ。


 革命軍の行いは、外交的にいえば不義理というしかない。


 西獣連合に声をかける前に、人民共和国に一度確認していればよかったが、それもなかった。


 革命軍への支援は不良債権で、西獣連合が革命軍の支援に動いたところで、人民共和国の実利そのものは大きく変わらない。


 だが、人民共和国、特に党の面子は潰された。


 現状、党が革命軍への支援を打ち切るとは思わないが、将来的に強硬派の連中にはなんらかのペナルティがあるだろう。


 もっとも、西獣連合が動くのはデメリットばかりじゃない。


 運が良ければ西獣連合が運用するアサルトや、対アサルト、対テクニカルのドクトリンの一端がわかるかもしれないのだ。


 しかし、それはこちらの情報を西獣連合奪われる危険もあるということ。


 戦場で情報を集めながら、こちらの情報を与えないようにしないといけない。


 なかなか難しい話だ。


 オレが西獣連合関連で発生するであろう面倒ごとに悩んでいると、ニャーン大尉が別の面倒ごとを嬉しそうに口にした。


「しかし、クビ皇国のアサルトは化け物だね」


 確かに、クビ皇国の第三世代アサルトのユキカゼは、どこかおかしい。


 単純に高性能という言葉では言い合わらせない不気味さがあるのだ。


 なにしろ、クビ皇国だけではなく、猫人民共和国、白熊帝国、合衆国、西獣連合でも第三世代アサルトは開発されて配備されている。


 だが、断言できてしまう。


 クビ皇国の第三世代アサルトだけ、他国の第三世代と異質だと。


 それでも、ユキカゼの装甲、出力、機動性は常識の範囲にある。


 通常の表に出てくるカタログスペックに異常はないのに、実物のユキカゼは化け物という事実。


 モレニド戦でみせたユキカゼの戦果や戦術は、それくらいおかしいのだ。


 猫人民共和国の第三世代アサルト焼牙で、ユキカゼと同じことをしようとしても不可能だと断言できてしまう。


「オレの搭乗していた試作実験テクニカル光爪に、電子戦で対抗していたな」


 革命軍の連中は気づいてもいなかったが、オレの搭乗する光爪がモレニド攻略戦では、革命軍のデータリンクと通信を維持していた。


 お互いにジャミングを行う現代戦で、機体や部隊間の通信やデータリンクを維持するのは必須だ。


 なのに、革命軍の連中はまったく対策をしていなかった。


 テクニカルよりはましな、アサルト数機を部隊間の通信の中継やデータリンク維持に活用することすらしていない。


 ……いや、そもそも、革命軍の連中は通信やデータリンクの重要性を理解していない可能性がある。


 だから、オレの光爪でそれらを行った。


 なかなか重要な運用データを収集できたといえる。


 今までは、偵察機的なイレギュラーな運用をしていたので、本来の光爪の有用性が確認できた。


「データを見たよ、相手のユキカゼは効率よく省エネで、光爪の構築した革命軍のデータリンクを妨害してたね」


 ニャーン大尉の言葉に、オレは顔をしかめながら応じた。


「光爪は電子戦用の機体ではないが、通常の機体相手に電子戦で負けるとは思わなかった」


 光爪は地上を歩いて移動する管制機というコンセプトの機体だ。


 電子戦が専門の機体というわけじゃない。


 だが、通常のアサルトより光爪は、その分野で強化されている。


 第三世代のユキカゼとはいえ、単機に電子戦で光爪が負けたというのがショックだった。


 テクニカルがアサルトに電子戦で負けるのは当然だけど、光爪は少し事情が違う。


 一応、機体の構造から光爪はテクニカルに分類されているが、電子機器やセンサー類ならユキカゼに劣るものではないはずなのだ。


「負けてはいないよ。クビ皇国のユキカゼにできたのは、短時間のデータリンクの妨害。まあ、それを効率的にやったから凄いんだけど」


 ニャーン大尉の言葉は正しい。


 モレニド攻略戦で、ユキカゼによる妨害が効果を発揮していたのは合計でも十分前後。


 ユキカゼは短時間の妨害しかできなかったといえるが、革命軍に対しては実に有効だった。


「対抗策は?」


「うーん、なくないけど、正規軍ならそこまで致命的な問題じゃないよ。連携と練度が終わってる革命軍だから、妨害の影響が大きかっただけ。普通の軍隊は、あの程度の妨害で連携を乱したりしないよ」


「それは、確かに」


 普通の正規軍なら、数分通信やデータリンクが妨害されたとしても、各機が臨機応変に対応するから、効果は限定的となる。


 どちらかというなら、この程度の妨害でダメになる革命軍の練度が問題だ。


「しかし、貴重なデータだったよ。光爪の有用性を軍の上層部も理解してくれるかもね」


「軍の上層部? 党の上層部ではなく?」


「…………うーん、地上の管制機の重要性って、軍人以外だと理解してもらいにくいんだよね」


 笑いながら肩をすくめるニャーン大尉に、ムカつきながら気持ちを抑える。


 ニャーン大尉の言うように、管制機の有用性を軍事の素人説明するのは難しい。


 電子戦機でも、偵察機でもなく、テクニカルの試作実験機である光爪は管制機。


 役割は敵味方の位置と戦場の情報をリアルタイムで味方に共有する管制だが、素人に戦場の管制の重要性を理解させることはなかなか難しい。


 もちろん、言葉として説明することは可能だが、感覚としてその重要性を理解してもらうことはできなだろう。


 だから、ニャーン大尉の言っている理屈はわかるが、オレの心が妙にゆらゆらと落ち着かない。


 オレにとって光爪はただの道具だ。


 党と軍の命令で、光爪のテストをしているだけで、特別な愛機というわけではない。


 …………なのに、光爪の凄さが党に伝わらないと思うと、どうしようもなく腹が立つ。


 だが、それをオレが口にすることはない。


 どんなにささいなことでも、党への不満と解釈されかねないことを口にしたら、いつか呪いのようにオレを党が突き刺すだろう。


 だから、沈黙が正解なのだ。


「それと、もう一つ懸念事項がある」


 タマ大佐の言葉に、オレの警戒心が刺激される。


 さらなる懸念事項?


 オレには、思い当たることがない。


 もしかしたら、モレニドで行った革命軍の虐殺行為を、国際社会が戦争犯罪と認定するかもしれないが些細なことだ。


 仮に、革命軍の行為を戦争犯罪と認められたとしても、オレたちにとって実害にはならない。


「懸念事項ですか? 革命軍の行為が戦争犯罪かということですか?」


「違う。問題なのは、モレニドから逃げ出した領主だった男だ」


「領主だった男? 爵位は侯爵で、名前はプルピジュラでしたか? そいつがなにか? 領地のモレニドを失った貴族に力があるとは思えません」


 プルピジュラ侯爵、領地と領民を盾にして逃げ出したクズ、それ以上でも以下でもない。


 経済と権力の基盤である領地を失ったクズの領主になにかできるとは思えないのだ。


「このプルピジュラ侯爵はな、領地の奪還を他の貴族派に求めるのではなく、フェネック王国を民主主義の国にするのに力を貸してくれと、泣きついている」


 ため息交じりに告げられたタマ大佐の言葉に、オレは意味がわからず首を傾げながら応じた。


「泣きつく? 誰にです? 領地を失ったから、民主主義ですか? プルピジュラ侯爵はなかなか愉快な信念をお持ちのようですが、そんな戯言に力を貸す勢力なんて……まさか?」


「合衆国のエルフたちが、動きをみせている」


 タマ大佐が言うということは、推測ではなく事実なのだろう。


「意味が分かりません。合衆国に、メリットなどないでしょう? あの国なら世界中で、一方的な正義の押し売りをしていくつもの戦場を生み出しています。アサルトやテクニカルの実戦データの収集にも困らないでしょう?」


「半年後に選挙がある」


「はあ? 選挙ですか?」


「だから、現政権にとって、国民にアピールしやすい結果は欲しいのだろう。混乱する王制の国家に助力して民主主義の国家の誕生に貢献できると計算しているのだろう」


 タマ大佐の言っていることを否定するつもりはないが、納得できないことがあるのでオレは口を開く。


「しかし、相手はプルピジュラですよ? モレニドの領民を見捨てて我先に逃げ出すクズが、まともな国家運営などできるとは思えません」


 合衆国が選挙に勝ちたいからと、この国に介入するにしても、プルピジュラのようなクズを支援するとは思えない。


「だろうな。プルピジュラが、民主主義となったフェネック国のトップになったとして、国がまとまることなどありえないだろう」


「では、合衆国の意図は? どう考えても、プルピジュラは百害あって一利なしです。権力を与えるべき相手ではないでしょう」


「はあ、若いな、ミケ中尉。合衆国はな、フェネック王国の人々の生活など、どうでもいいのだ。悪しき王制の国を破壊して、正義の民主主義の国家の樹立に貢献できたと、アピールできて選挙に勝てればそれでいい。それにな、合衆国を嫌う清廉潔白な英雄よりも、合衆国に無条件で媚びへつらう暗愚を、合衆国は是とする」


「しかし、合衆国の国民は?」


 仮に、合衆国の政治家の思惑がそうなのだとして、あの国は民主主義だ。


 国民が冷静に判断すれば、クズのプルピジュラを支援するなど認めないだろう。


 しかし、


「よく知りもしない、他国の国民の生活など気にもしないさ。合衆国の国民の感心ごとは、失業率と物価と給料くらいだ」


 というように、タマ大佐はオレの希望を打ち砕く。


「民主主義は無条件に正義と?」


「思い込みとレッテル張りは得意だから、連中」


 タマ大佐の言葉に、それはうちのも党も同じではと言いたくなったが、懸命に沈黙する。


「どうしますか?」


「合衆国の動きと、党の意向しだいだな」


「それはそうですね」


 国家とは吐き気を催す邪悪だ。


 革命軍、西獣連合、プルピジュラ、合衆国をオレは不快に思うが、結局のところ同族嫌悪でしかない。


 党には党の思惑があり、優しさや思いやりなどあるわけがないのだ。


 そして、軍の命令で民間軍事会社白虎の一員であるオレも、内心がどうであれ党の走狗でしかない。

次回の投稿は8月13日木曜日1時を予定しております。

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