1-11 続モレニドの戦い キリュウ少尉視点
キリュウ少尉視点
「「「ギャアアアーーー!」」」
眼前で対戦車ロケットランチャーを構えていた革命軍の歩兵たちがもがき苦しんでいる。
「確かに、有効ではあるな」
私は独り言をつぶやく。
……果たして、私は言葉を口にしたのだろうか?
確実なことは、生身の口が動いていないということ。
アートマンシステムに接続されていると、ユキカゼに搭乗している生身の私というものを意識することはほぼない。
言葉を口にした気がするのに、口は動いていないし、通信もしていないし、スピーカーも起動していないことは確認できる。
やっぱり、独り言を口にした気がするだけ。
「警告、発砲炎を感知」
距離は約一キロ。
発砲炎は対物ライフルのもの。
革命軍の兵士による長距離狙撃。
ユキカゼなら、対物ライフルで狙撃されてもほぼ無意味だけど、例外もある。
貴重な複数のセンサーの塊でもあるユキカゼの頭部が、対物ライフルの銃弾が命中したら破損の可能性は否定できない。
だから、避ける。
いくら、第三世代アサルトのユキカゼでも、対物ライフルの音速をこえる銃弾よりも速く動くことはできないけど、これだけの距離があれば着弾までに銃弾の軌道からズレることは可能だ。
ユキカゼを捉えられなかった対物ライフルの銃弾は近くの建物のコンクリートを破壊する。
アサルトにとって脅威度は低いけど、歩兵の火力として対物ライフルの火力はなかなかのものだ。
少し遅れて、対物ライフルの音が届く。
銃弾は音速をこえるから発砲音を聞いて対処することは難しいけど、発砲炎は光だから銃弾よりも早く検知できる。
まあ、距離によっては対処不可能だけど。
狙撃手に向かいユキカゼの手を向ける。
「警告」
私の術式構築を人工精霊が邪魔をする。
でも、私が非殺傷術式であると説明すると人工精霊は簡単に黙ってしまう。
「この程度で黙るなら、最初から邪魔をするなよ」
内心の吐露と同時に、術式が完成。
全方位じゃなくて、狙撃手に向かって円錐形に広がる光の魔法。
まあ、ようするに閃光による目潰しだ。
この術式に狙撃手を殺す威力はない。
けど、直視したら失明の可能性は十分にある。
敵がどうなるかなんて、どうでもいい。
人工精霊に止められない、この戦場で有用な歩兵への対象法が提案できる。
すぐに、この情報は部隊で共有された。
「はあ、なんで、私は戦場で殺し合いしてるのかな?」
自問自答のようで違う。
答えはわかっている。
ここが私の居場所だからだろう。
私にはやる気も使命感もない。
そんな私でもここは居心地がいい。
アマネと違って私はイジメられたことがなかった。
ただ、孤立してただけ。
全力を出さないのに、文句だけは言う連中。
努力を笑い嫌うクセに、結果は欲しがる連中。
そんな連中と私は慣れ合わなかった。
空気も読まないし、合わせもしない。
だから、周囲に人はいなくなり、孤立した。
「バカにするな?」
「見下すな?」
「調子に乗るな?」
バカバカしい。
そう思うのは、バカにされていると、見下されていると連中が自覚しているから。
そもそも、連中なんて私の眼中にはない。
無能と怠惰を振りかざしてみっともない連中に、関わりたいと思うはずがない。
ただ、私は必要なときに必要な努力をして結果を出しただけ。
けど、凡庸でも集団は強い。
学校のクラスという集団から除外されたのは私。
後にはなぜか、私が悪者にされていた。
そして、努力して結果を出して孤立し続けて、世界に失望していたら、私はここにいた。
私にとってアイナは、今でも理解できない存在だ。
劣等感や悪意を向けることも、善意や偽善で手を差し伸べたりもしない。
常に、面倒そうでやる気もないのに、小隊長としてアイナは建前を使わないで淡々とそばにいて私を孤立させない。
気づいたときには、アイナは私の居場所だった。
他人に無関心でやる気のない小隊の他の二人のメンバーも一緒にいて悪くはない。
私が口にしてしまう皮肉も大きく反応しないし。
それでも私は、前向きじゃなくて、やる気もないけど、アイナがやるなら一緒に命令違反くらいやれるようになった。
リアルタイムで更新される情報を確認。
住民の避難状況。
王国軍の状況。
革命軍の状況。
……違和感がある。
革命軍は部隊間の連携がまるでない。
ほとんど素人のようでもある。
でも、ところどころで、部隊間のタイミングを合わせたり、苦戦している部隊の救援に動いているようにみえないこともない。
目の前の装甲車の機関砲の砲身をつかんでへし折り、車体を横転させながら、革命軍の通信に意識を向ける。
「…………これは……こちらガーゴイルセブン、革命軍はリアルタイムでデータリンクしています」
常時、ユキカゼが電子、魔力などの妨害をしているのに、革命軍のデータリンクは健在。
防御的電子、魔力戦を革命軍がしている?
革命軍が運用しているアサルトの性能で、ユキカゼの妨害に対抗?
ありえない。
電子戦に強い指揮通信車でも配備されてる?
でも、それなら革命軍の通信の流れでわかるはず。
それはそれとして、目の前のテクニカルという脅威にも対処はしていく。
革命軍のテクニカルの膝を、私は横から踏みつけるように蹴って脚部を破壊、機関砲を保持している腕をつかみ捻り、火花と黒い循環液を撒き散らしながら破壊して無力化する。
地上を醜く溺れるようにしか動けない鈍足のテクニカルに、わざわざ脆い振動剣で攻撃する必然なんてない。
効率的に、テクニカルの四肢を破壊していく。
まあ、革命軍のパイロットも死んでいないし、本国が望む人道的な戦闘だろう。
「革命軍の通信の流れが、モレニドの外につながっている?」
モレニド全体に網のように広がっていると思っていたのに、革命軍の通信はモレニドの外へと集中している。
なにかはわからないけど、電子戦が可能な何かがいるのだろう。
かなり目障りで邪魔だ。
さっさと潰した方が、こちらの作戦はスムーズに進む。
けど、モレニドから離れて、電子戦を実行している奴を潰すわけにはいかない。
その判断は、軍事的に、戦術的に正しくて、クビ皇国的に間違いだ。
現状の私たちの暴走は、モレニドを住民を助けるためにという理屈で見逃されている。
だから、私たちはモレニドからの撤退以外で離れるわけにはいかない。
結果的には、一番効率的に多くの住民を助けることになるとしても、認められないのだ。
たかが、解釈。
されど、解釈だ。
「チッ」
実際に、私が物理的に舌打ちしたのかわからないけど、気分は舌打ちしたくなる。
革命軍の増援だ。
それも空から。
とはいえ、それは飛行機でもヘリでもない。
視界一杯の無数のドローンだ。
ほとんどが軍用のドローンじゃない。
大半が民間の物を改造してるだけ。
その改造もドローンに手榴弾を括り付けただけの雑なものだ。
私たちが搭乗するアサルトであるユキカゼにとっては、まったく脅威じゃない。
でも、モレニドの住民にとっては?
王国の住民は、政治的な理由から大半がダンジョンで日常的に食料を確保していた。
結果として、クビ皇国の一般人よりも、魔物を倒して多くの魔力を吸収したことで王国の住民の平均保有魔力量は高く、身体能力も強化されている。
けど、それだけだ。
白兵戦なら大きな影響が出るだろう。
でも、その程度の魔力や身体能力は、テクニカルに通用しない。
それどころか、銃弾や手榴弾に対しても気休め程度の効果しかないだろう。
つまり、この鬱陶しいドローンは、避難中のモレニドの住民にとって脅威。
空中のドローンの大群に手を向けて、適切な術式を検索して修正して構築。
広範囲に爆風を撒き散らす魔法の炎弾を連射する。
蝗害や畑を野生動物の群れから守るために考案された術式の応用。
殺傷能力は低いが、民間のドローンを墜落させるぐらいのことはできる。
なにより、術式が単純で必要な魔力が低いのもいい。
炎弾の爆風に耐えた少数の軍用ドローンがこちらを指向する。
あのドローンが抱えているのは、対戦車クラスの爆弾だろう。
直撃すれば、ユキカゼでも無傷というわけにはいかない。
だから、
「盾になれ、テクニカル」
四肢を破壊したテクニカルを爆弾を抱えて突っ込んでくるドローンにぶつける。
「ギャアアァァーーー! 内臓が! 痛い! 助けて、母さん、痛いよ……」
盾にしたテクニカルの外部スピーカーがオンになったのか、不快なノイズをばら撒く。
「悪いけど、脅威じゃないテクニカルに攻撃はできない」
一応、ユキカゼの外部スピーカーをオンにして告げたけど、テクニカルのパイロットに聞こえているかどうかはわからない。
あるいは、介錯の必要もなく死んでいる可能性も十分にある。
重傷で苦しむ敵兵を、楽にするための攻撃は許可されていない。
本国とユキカゼに搭載されている人工精霊の解釈だと、それは不必要に残虐なオーバーキルらしい。
けど、四肢の壊れた革命軍のテクニカルを盾にすることを静止されることはなかった。
本当に、人工精霊の判断基準が意味不明だ。
その後、ドローンの増援はなく、順調に革命軍の脅威を減らし、モレニドの住民を避難させている。
さらに、数時間が経過して、アイナ、私、キリナ、アマネの四人の小隊は健在。
損害も軽微。
でも、小隊各機の残された武装は振動剣がそれぞれに一つだけ。
四機の振動剣を構えたアサルトのユキカゼが立ち塞がる光景は、古の戦場の武士のように見えたかもしれない。
とはいえ、状況がよくないのは確かだ。
大隊規模のテクニカルと、中隊規模のアサルトを失っているのに、革命軍に撤退の兆しはない。
愚直に攻め寄せてくる。
残骸と化した王国軍と、私たちのユキカゼの小隊くらいあと少しで倒せると革命軍の連中は夢想してるのかもしれない。
一応、私たちが、モレニドの住民の避難を支援するのは、あと一時間だけ。
それはアイナ、シラカミ大尉、王国軍の指揮官の話し合いで決定している。
もちろん、モレニドは大都市で、残った住民の避難が完全に終わるわけがない。
でも、切り上げる。
多くのモレニドの住民を見捨てることになるだろう。
けど、永遠に住民の避難を支援するわけにもいかないし、私たちで革命軍を消耗させて撤退させるのも現実的じゃない。
だから、現実的なラインを設定して妥協するしかないだろう。
アイナは相当嫌がっていたけど、最後までわがままを言ったりもしなかった。
アイナもわかっているんだ、一個小隊でモレニドの住民すべてを助けることはできなって。
今から憂鬱になる。
帰還したら、色々なところからモレニドの住民を見殺しにしたって、私たちは非難されることになるだろう。
たとえそうなっても、アイナは無言で言い訳しないだろうな。
……でも、アイナの繊細な心は傷つく。
そうなるとわかっている未来に向かって、モレニドという地獄で頑張る。
ああ、実に、最高にクソな現実だ。
そんな私の心境を嘲笑うような展開が起こる。
それは、単純で、わかりやすくて有効な戦術。
それこそ、連携と練度がゴミな革命軍の低能どもでも実行可能な手段。
眼前に強力な第三世代アサルトのユキカゼが四機、この場合に革命軍のとるべき行動として正しい。
革命軍の連中は徹底的に、避難する住民を狙い出した。
王国軍の歩兵でも、抵抗するレジスタンスでもない。
ただ、無力に命がけで逃げるモレニドの住民だ。
赤子を抱えた親子を歩兵が撃ち殺し、泣く妹を励まして手を引く兄の二人をテクニカルの砲弾がミンチに変え、避難の住民の列を戦車の放った榴弾が吹き飛ばす。
脳が極限まで煮えたぎって、一切を停止させるように冷たくなる。
私にとって、モレニドの住民なんてどうでもいい……はずなのに。
……ああ、本当に、目の前の光景が、どうしようもなく不快だ。
敵、味方、避難民の位置と、脅威度の判定。
この状況に対する戦術プランを人工精霊に要求。
優先順位を修正、再度策定させる。
戦術プランが構築されて理解するまでにかかった時間は、一秒。
四機のユキカゼがタイミングと方向を調整して、指向性の閃光で革命軍のアサルト以外の視界を潰す。
一瞬の革命軍の停滞。
アイナの指示で、キリナが数秒だけ革命軍の通信とデータリンクを妨害する。
長時間の革命軍の通信を妨害をしようとすると、キリナのユキカゼは動くことができなくなり、危険だから現実的に可能な数秒の妨害だ。
たかが、数秒だけど、閃光で視界を奪われた連中にとっては、そこで通信が途切れるのは革命軍にとって不安が増大するだろう。
アイナのユキカゼが、一番危険なところに切り込む。
温存していたと思われる第二世代アサルトの中隊を革命軍が投入してきたのだ。
分散しているならともかく、集団で一定の連携をみせる革命軍の切り札のアサルトの中隊を、アイナのユキカゼ単機で相手するのは危険すぎる。
けど、援護する余裕が私たちにもない。
テクニカルに、戦車に、歩兵も相手にしているのだ。
そして、少しの油断でも見せれば避難民を攻撃される。
現状と戦術を理解した上で、私は感情で反対したかった。
ただ、アイナの身を案じて。
でも、杞憂だった。
まさしく、アイナは獅子奮迅の活躍をしてみせる。
わずか数分で革命軍のアサルトを半壊させた。
しかし、そこでアイナのユキカゼが使用していた振動剣が折れてしまったのだ。
問題はない。
私は建物の隙間から確認できるアイナのユキカゼに向かって、自分のユキカゼが装備してた振動剣を数十メートル投げて渡した。
同時に、革命軍のアサルトの中隊長機に横から襲い掛かり、両足と頭部を破壊すると機関砲を保持するアサルトの腕をつかみ、ハッキングをしかける。
通常なら難しいが、革命軍が使う機関砲の火器管制システムの暗号は、鹵獲品を解析してわかっているから問題ない。
革命軍のアサルトに機関砲を保持させたまま、近寄ってくる革命軍のテクニカルに向かって機関砲を発砲。
革命軍の機関砲を鹵獲して使用するのは許可されていないが、ハッキングして同士討ちさせることは禁止さていない。
周辺の脅威は排除完了。
局所的な勝利で、モレニドに展開している革命軍はまだまだいる。
ただ、連中が集結する前に、私たちは撤退だ。
王国軍と避難民の殿を私たちはつめることになっているけど、わざわざリスクをおかしてまでモレニドから離れる私たちに攻撃を仕掛けるバカはいないだろう。
だから、それは、私たち小隊の心の安堵であり、緊張の弛緩であり、愚かな油断だ。
建物残骸の下敷きになって壊れたように偽装していた革命軍の主力戦車が動き出す。
モレニドから避難するために待っている数百人以上の住民の列を、その戦車の主砲は狙っている。
どう考えても、発砲を許すことなく戦車を沈黙させることはできない。
戦車が発砲。
しかし、住民に死傷者はいない。
アイナのユキカゼが砲弾を振動剣で防いぎ、振動剣の切先が砕けた。
私はハッキングしていたアサルトを即座に無力化して、戦車に向かってユキカゼを全速力で走らせる。
「警告」
人工精霊がノイズのような警告をしてくるけど、瞬時に黙らせる。
人工筋肉が切れる?
骨格が壊れる?
循環液を消耗する?
だから、どうした、どうでもいい、ユキカゼの全部を使って、アイナを攻撃している戦車を止めることより優先されることなんてない。
戦車が発砲。
アイナのユキカゼが折れた振動剣で防ぎ、振動剣が柄だけになる。
戦車に一番近いのは私のユキカゼだけど、どうしても数秒かかってしまう。
武装がないことは問題じゃない。
後ろからアマネのユキカゼが高速で投げた振動剣を、私はユキカゼの足を止めることなく受け取る。
戦車が発砲。
アイナのユキカゼは左腕を犠牲に防ぎ、二の腕部分から黒い循環液と人工筋肉が不気味に垂れ下がる。
アイナが戦車を無力化するだけなら、簡単だった。
アイナならノーダメージで倒せただろう。
けど、その場合は戦車の砲弾で数十人の住民が無残なミンチになっていた。
だから、アイナはユキカゼの足を止めて、縁もゆかりもない住民を守ることを選択したのだ。
私はユキカゼを全力で跳躍させて、上から戦車に振動剣を突き立てた。
おそらく、戦車の砲手と車長がいそうな場所を狙って。
二度と砲撃することなく、革命軍の戦車は沈黙した。
戦車の砲塔から振動剣を引き抜くと、循環液とは違う赤い液体が付着してた気がするけど、無感動に私は無視する。
ただ、私はアイナのユキカゼを守るように、振動剣を構えて撤退に備えた。
次回の投稿は8月12日水曜日1時を予定しております。




