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その引き金は重く  ささやかなゴーレム戦争  作者: アーマナイト


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1-10 モレニドの戦い   アマネ少尉視点

 アマネ少尉視点





 ボクの正直な感想をいうなら、どうでもいい、だ。


 同情や哀れみがなくもない。


 けど、どこまでも対岸の火事。


 ボクにとっては他人事だ。


 もちろん、人を守ろうとする命がけの挺身に心が揺れて、無慈悲な殺戮に気分は悪くなる。


 でも、それだけ。


 ボクのなかに一歩踏み出す動機がない。


 ……皆無と言っていいだろう。


 このフェネック王国の住民に手を差し伸べるほどの思い入れがない。


 ……訂正。


 恨みや憎しみなら私のなかを探せば見つかるだろう。


 住民たちの見下すような視線と言葉の数々。


 はっきり言って、守る理由も動機もない。


 むしろ、見捨てる理由しかない。


 大都市モレニドが戦場となって心が多少は痛むけど、搭乗している第三世代アサルトのユキカゼで戦場に乗り込む理由がないのだ。


 そもそも、命令は撤退する侯爵一行の殿をすること。


 モレニドや住民の生命を守ることは命じられていない。


 だから、ボクはこのままモレニドが地獄になるのを他人事として傍観していれば、数時間後には帰還できると考えていた。


 これはボクだけじゃなくて、ユキカゼに搭乗している大半が同じだろう。


 けど、一人だけ、この状況を否定する者がいた。


 アオイケ中尉……アイナだ。


 そう、ボクたちの敬愛する小隊長殿。


 アイナはやる気と使命感はないのに、不器用で優しすぎる。


 だから、見捨てていい立場なのに、彼女は目の前で失われていく命に手を差し伸べてしまう。


 後で責任問題で集中砲火にさらされる未来が目に見えているのに、アイナは火中の栗を拾おうとしている。


 動いたのがシラカミ大尉なら、ボクは動かなかっただろう。


 でも、動いたのはアイナだ。


 だから、ボクも動く。


「警告」


 搭乗しているユキカゼの人工精霊から、無粋な警告がきたけど、


「黙れ」


 の一言で黙らせた。


 人工精霊に従う気はない。


 アイナからの命令はない。


 そう、先陣を切って命令違反をしているアイナも、ボクやキリナたち小隊メンバーにも続けと命令していないのだ。


 なぜか?


 簡単だ。


 アイナは命令違反をしているという自覚がある。


 だから、ボクたちに、自分に続いて命令違反をしろとは言わないのだ。


 でも、だからこそ、ボクはアイナの背中に続く。


 自分の意志で命令違反をする。


 自覚するとなかなか不思議な気分だ。


 学校でイジメられて、家族にも失敗作と言われて引きこもりになったボク。


 他人なんてどうでもよくて、自分はもっとどうでもよくなっていた。


 変な法律のせいで国防隊に放り込まれて、適性があるからとナノマシンを注入されて新型アサルトのパイロット。


 嬉しくも楽しくもない。


 国防隊の一員であるという自覚とやる気がボクにはない。


 反発して抵抗するのも面倒だから、国防隊の命令には従っていた。


 けど、そんな投げやりな態度が気に入らない国防隊員たちもいて、ボクはイジメられるようになる。


 またかと、ボクが絶望しながら諦めていたけど、アイナが迅速に動いてくれた。


 面倒そうに、つまらなそうな表情でアイナは、ボクをイジメていた連中の証拠を集めて、すぐに状況を改善してくれた。


 涙が出るほど嬉しくて、自分という存在が許されたような気になったのを覚えている。


 でも、ボクをイジメから救ったアイナの瞳に、ボクは映っていない。


 アイナのそれは、まるで奈落のような空虚な瞳。


 善意じゃなくて、面倒を回避したかっただけというアイナの言葉に嘘はないのだろう。


 けど、だけど、アイナにボクが救われたのは事実なんだ。


 黒く粘りつくような絶望と諦めに満たされた、やる気なんてとっくに摩耗しているアイナ。


 なのに、目の前で困った人がいたら、無意識に自動で助けるアイナ。


 そんな、ボクを救い、ボクにとっての光のアイナが動くなら、抗命だろうが国家反逆罪だろうが、自分から同道する。


「こちらガーゴイルリーダー、第二小隊、今すぐ止まれ」


 ガーゴイルリーダー、シラカミ大尉から通信が届く。


「こちらガーゴイルスリー、ガーゴイルリーダー、私は現地住民の救助を行います」


「積極的な交戦許可は……」


 シラカミ大尉の通信を、アイナが遮る。


「住民を救援中に、自衛のための反撃は事前に許されているはずです」


「しかし……」


 言い淀むシラカミ大尉に、アイナが淡々と現実を提示する。


「なら、ガーゴイルリーダー、命令できますか? 目の前で殺される住民を見殺しにしろと。救える命が目の前にあるのに、遵守すべき法とは? それは、住民の命よりも大切ですか?」


「…………積極的な交戦は認められない」


 シラカミ大尉の言葉は、住民の救助を優先して交戦を避けろという消極的な容認。


「了解」


「私たちで住民の脱出地点を確保する。第二小隊で、住民を救助しつつ、避難誘導をしてみせろ」


 シラカミ大尉たちが確保する脱出地点と簡易的なプランを、八機のユキカゼに共有された。


「任務了解」


「ガーゴイルフォー、了解」


 ガーゴイルフォー、キリナが言う。


 実のところ、ガーゴイルフォーというコールサインは別のメンバーが予定されていた。


 けど、キリナが絶対にガーゴイルフォーじゃないと嫌だとわがままを言って決まった事実がある。


 別に、キリナはガーゴイルフォーというコールサインにこだわりはない。


 単純に、キリナは大好きなアイナのコールサインがガーゴイルスリーだから、次の番号のガーゴイルフォーは自分が良いという下らない理由だ。


 キリナのこういうところは子供だと思ってしまう。


「ガーゴイルセブン、了解。結局、こうなるなら、早く決断すればいいのに」


 コールサイン、ガーゴイルセブンのキリュウ少尉が皮肉交じりに言う。


 皮肉屋のキリュウは、今日も平常運転のようだ。


 他の部隊なら、キリュウの発言は問題になりそうだけど、シラカミ大尉とアイナが気にしないから見逃されている。


「ガーゴイルエイト、ボクも了解した」


 命令がなくても動いたけど、今は命令になった。


 ボクが搭乗するユキカゼの出力を戦闘出力に上げる。


 相変わらず火器はない。


 支援砲を持ち出すことは可能だけど、発砲できなければ振動剣以下の鈍器でしかないから、任務で装備する者はいなくなった。


 振動剣と背中にマウントした投げ槍が数本。


 これで、テクニカルだけじゃなくて、アサルトや戦車とも戦うことになる。


 どう考えても愚行だ。


 あまりにも危険で、どこまでも無謀。


 でも、自分の体だと錯覚してしまうユキカゼの走りに迷いや躊躇いは微塵もない。


 それは、ボクだけじゃなくて、キリナやキリュウも同じだろう。


 ボクたち三人は性格や好みとか全然違うけど、やる気に使命感、行動力や自己肯定感が低いのは共通している。


 簡単にいえば自分が嫌いなどうしようもない人生の敗北者。


 自発的に誰かを助けたいなんて思わないし、そもそも自分にすら価値があるとは思えないうつむいた卑屈な者たち。


 けど、アイナが動くならボクたちは動く。


 劇的な理由じゃない。


 ありふれた話。


 ボクたち三人は、アイナに救われた。


 だから、なにがあっても力になる。


 客観的に考えれば、実にチョロい。


 自分にも他人にも興味を失いやる気もなかったのに、助けられただけで心酔してしまう。


 まあ、でも、不都合はない。


 ユキカゼの人工筋肉を反応させて疾走する。


 まるで、自分の体で走っていると錯覚してしまう。


 そして、アイナから概略が伝えられ、各機のセンサーが捉えた情報を元に、物事の優先順位と脅威の排除する展開を議論する。


 でも、そこに言葉なんて不完全で曖昧な情報は使用されない。


 自分の思考したことが誤解なく他者に伝わり部隊間で共有される。


 これが第三世代アサルトであるユキカゼに搭載されているアートマンシステム。


 その恩恵は大きい。


 実際、機体のスペック差は小さいのに、第二世代と第三世代のアサルトだと勝負にならない。


 アートマンシステムによる搭乗者の情報処理能力の向上と、各センサーを自身の感覚のように理解して、部隊間の情報の共有ができる。


 第三世代アサルトの情報処理とデータリンクは圧倒的で、わずか数秒で濃密な情報のやりとりが行われた。


「邪魔」


 恐怖で動けない住民に機関砲を向けて遊ぶ革命軍のテクニカルの胴を振動剣で切りつける。


 一瞬、金属製の簡易的な装甲が火花を散らして抵抗するけど、そのまま切断してテクニカルから黒い循環液を血のように撒き散らせながら一気に胴を輪切りにした。


 センサーに付着した循環液と人工筋肉の破片が不快だから、クリーン系の術式で綺麗にする。


 殺したパイロットの命にも、助けたモレニドの住民の命にも関心がなから、ボクは殺人の罪悪感に苛まれることも、人助けで自己肯定感が上がることもない。


 重要なのは、アイナの役に立つこと。


 それ以外はどうでもいい。


 ……自分の命ですら。


 小隊のユキカゼは、四機がバラバラに動いている。


 相手が連携のとれた正規軍ならともかく、練度の低い革命軍なら個々が散開して動いたほうが効率的なのだ。


 一機目のテクニカルを撃破してから、約一分間でボクたちの小隊は中隊以上のテクニカルを撃破した。


 積極的に交戦しないはず?


 そう、ボクたちは積極的じゃない。


 目的は殺されるモレニドの住民の救助だ。


 殺される住民を助けるためには、殺す革命軍を潰すのが最適解なだけ。


 数時間前まで、内戦中とは思えない平穏で綺麗な街並みだったのに、光学センサーが捉えるのは都市の残骸。


 都市を二度と照らさない折れた街灯に、交通安全に寄与しない砕けた信号機。


 ここはもう、人が暮らす場所じゃない。


 ボクの心に少しノイズが走るけど、あえて無視する。


 だって、自己満足のような同情なんて、無意味だ。


「アサルト、確認」


 革命軍のアサルトをユキカゼの各センサーが捉える。


 無骨な角ばった人型のシルエットをした猫人民共和国製第二世代アサルトの炎牙、性能としては微妙だけど、生産コスト、整備コスト、維持コストに優れているらしい。


 人民共和国が海外に輸出するために、生産しているテクニカルの設計と運用データを参考に、歩兵やテクニカルと戦うことを前提に設計されたアサルトだそうだ。


 つまり、炎牙はアサルトとの戦闘をあまり考慮されていない。


 まあ、見当外れの考えでもなかったりする。


 なにしろ、世界的に見てアサルト同士の交戦はかなり珍しい。


 これは、世界的に運用されているテクニカルと違って、アサルトを本格的に採用している軍が先進国以外だと少ないから仕方がない。


 お金のない国だと、高級なアサルトを一機用意するよりも、十機の安いテクニカルを用意したほうが実用的だ。


 とはいえ、炎牙はそれでもアサルトだから、装甲、各センサー、出力でテクニカルを上回っている。


 センサーが捉えた炎牙のこちらへの照準が、テクニカルより速い。


 うん、並みのテクニカルよりは速い。


 ユキカゼ基準だと、欠伸が出る速度だけど。


 炎牙の機関砲が放った砲弾は、こちらの動きに追従できずに周囲の都市を破壊するだけ。


 ボクの操縦するユキカゼが、脇を通り過ぎるときに炎牙の胴に振動剣を振るい両断する。


 抵抗がテクニカルより強くて、炎牙を両断したときに、甲高い音と共に振動剣が折れてしまった。


 まあ、この振動剣も、災害時などに倒壊した建物や倒木を切るための土木用で、装甲に叩きつけるような戦闘用に作られた物じゃないから、壊れてしまうのも仕方がない。


 でも、振動剣は残り一つ。


「こちらガーゴイルエイト、炎牙を一機無力化。振動剣を一つ失いました」


 ボクの報告に、キリュウのバカするような調子で続けられた報告が続く。


「こちらガーゴイルセブン、主力戦車を四両無力化。装備の損失はない」


 アートマンシステムによって、第三世代アサルトの機体の制御系と自分を接続できる弊害で、通常の通信で行う言葉なら伝わらない曖昧で微妙なニュアンスも、ユキカゼと接続している状態だとわずかな勘違いや誤解をすることなく理解できてしまう。


 利点であり、難点だ。


 今回でいえば、振動剣を失ったボクをキリュウが間違いなくバカにしているとわかってしまう。


 だから、相手の本心がわかってもスルーする技術が必要になる。


 まあ、ある意味でボクたちの得意なことだ。


 ボクへの他人の反応なんてどうでもいい。


 大切なのは、ボクがアイナの役に立てるかどうかだけ。


「こちらガーゴイルフォー、歩兵を殺せないんだけど」


 キリナの通信で、キリナの状況も理解できた。


 キリナが操縦するユキカゼは、負傷兵を背負って逃げる王国軍の兵士たちの盾となっている。


 攻撃している革命軍は、歩兵だけでテクニカルや装甲車もなし。


 最大の脅威は、歩兵の担いでいるロケットランチャー。


 ユキカゼの機動力と運動性なら回避は容易。


 でも、守る対象がいると、自由な回避が制限される。


 ユキカゼへの被弾も困るけど、負傷兵たちが狙われた元も子もない。


 なら、先手必勝で、革命軍の歩兵を無力化すればいい。


 けど、それができないようだ。


 試しにボクは近くいる革命軍の歩兵に、簡単な攻撃魔法を撃とうとするけど、


「警告、その行為は許可されていません」


 ユキカゼに搭載されている人工精霊が告げた。


 要するに、テクニカル、アサルト、戦車は攻撃していいけど、生身の歩兵は攻撃するなということか?


 しかし、現状がかなり怪しい法律の曲解の上で成立しているのだとしても、自衛のための反撃が許されない理屈はなんだ?


 支援砲の火器管制システムが法的にロックされて使えなかった以前とは違い、歩兵へのいかなる反撃も許されていない。


 すぐに、人工精霊が解答してくれた。


 自衛のための反撃とは、対象が脅威であることが前提であり、革命軍の歩兵は人工精霊の基準だと脅威ではないらしい。


 歩兵の使うロケットランチャーでも、当たり所によってはユキカゼは大破する可能性が十分にある。


 しかし、人工精霊によれば回避可能だから、脅威じゃないらしい。


 間違いじゃないけど、王国軍の撤退する負傷兵をかばって、自由な回避が制限されている現状だと、革命軍の歩兵はユキカゼにとってそれなりに脅威だ。


 でも、ユキカゼに搭載された人工精霊は納得してくれない。


 キリナの通信から、ここまで一秒以内のできごと。


 自己が拡張されて、これほどの高速での情報処理ができると、万能の天才になった気分になる。


 そのとき、一つのアイデアが浮かんだ。


 歩兵への攻撃はできない。


 ……正確にいうなら、人工精霊が攻撃と認識することはできない……だ。


 通常の使用法じゃないからセンサー機器の負荷が気になるけど仕方がない。


 レーダーの周波数を人体に一番干渉できるように調整、出力を限界まで上げて革命軍の歩兵に向かって照射。


 すぐに、革命軍の歩兵たちが倒れてのたうち回る。


 けど、人工精霊はなにもいわない。


 つまり、人工精霊にとってさっきのレーダーの使用は、歩兵への攻撃じゃないようだ。


 歩兵を疑似的に電子レンジで加熱したようなものなんだけど。


 ボクの感覚だと、普通に攻撃するよりも、レーダーで加熱とかえげつないと思うんだけど、人工精霊は問題にしない。


 そういう、疑問や不満は置き去りにして、歩兵を無力化する方法を部隊で共有する。


「こちらガーゴイルセブン、感謝する。歩兵を潰せなくて困ってたから。まあ、ガーゴイルエイトみたいに性格が悪いからこんな方法思いつくのかな?」


 キリュウの皮肉に、ボクも皮肉で応じる。


「こちらガーゴイルエイト、すでに持っている知識の応用だよ。もっとも、頭が固くて視野が狭いと思いつかないかもね」


「そこまで。こちらガーゴイルスリー、目の前に任務に集中して。レクリエーションは帰還してから」


 淡々としたアイナの通信に、ボクは即座に応じるけど、


「「了解」」


 返事がキリュウと同時になって微妙な気分になる。

次回の投稿は8月11日火曜日1時を予定しております。

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