ナポリタン
お上品なナポリタンなんて認めない!
麺にコシなど要らぬ。
茹でてサラダ油かなんかをまぶして冷蔵庫に入れておいた太麺がいい。
具材はピーマンと玉ねぎとウィンナー。
そして下品なほどにべっちょりと絡みつくケチャップ。
食べると口の周りがケチャップで赤く染まるようなのがいい。
最近はナポリタン食べたい病が発症すると、とても大変である。
かつては古ぼけた喫茶店だったはずが、久しぶりにナポリタンを食べに行ってみると、そこにあるのは小洒落たカフェである。
ミートソースはラグーソースなんて洒落た言葉に言い換えられ、ナポリタンに至っては影も形もない。
飢えた私は、ゾンビのように街を彷徨う。
ナポリタン。
ナポリタン。
胸中には焦りが湧く。
ナポリタン。
もしや知らぬ間に君は絶滅危惧種になってしまったのか。
レッドデータブックに君の名を見つけたらどうしよう。
誰か、ナポリタンを知りませんか?
ナポリタン、君は今は何処に……。
そんな私がやっと巡り会えたナポリタンは、すっかり冷たくなっていた。
久しぶりに会えた喜びに、構わず私はナポリタンに駆け寄る。
「こんな……こんなところで君に会えるなんて思ってもみなかったよ」
スーパーマーケットの冷凍食品の中にナポリタンはいた。
最近の冷凍食品は、すっかりかつてとは様変わりしていた。
ナポリタンは、なんと、皿に入ったままでレンジでチンできるというのだ。
もう半分以上ナポリタンを諦めていた枝鳥は、迷いなくカゴの中にナポリタンを迎え入れる。
足取りも軽く家へと急ぐ。
外装を外してそのままレンジでチン。
高まる期待。
仄かな光に照らされるナポリタンをじっと見つめる。
チン。
火傷をしないように気をつけて食卓へと運ぶ。
そしておもむろにフィルムを剥がした。
白い麺の中央に赤いソース。
いや君、これ違うでしょう。
君はこんな姿じゃ完成ではないはずだ。
ぐっとフォークを握りしめて、ソースと麺をかき混ぜる。
白い麺が赤く染まっていくと、そこにはナポリタンがいた。
会いたかった愛しのナポリタン。
クルリとフォークに巻きつけて口にする。
ああ、これだ。
ケチャップの甘酸っぱさ。
トマトソースとは違うのだ。
ベチャベチャとしたソースをたっぷりと絡めた麺、合間にピーマンと玉ねぎとウィンナー。
微妙に何か違う気がしなくもないが、やっと巡り会えたナポリタンなのだ。
そこは考えないようにして、ケチャップ塗れの麺を黙々と食べる。
「いつでもナポリタンに会えるような時代になるなんてな」
空になった皿を前にしてつぶやく。
喫茶店はナポリタンと共に消え、生まれ変わったナポリタンは家で食べられるようになった。
いい時代だ。
膨れたお腹でそんなことを考える。
だけどそう、こんなこと言うのは間違っている。
枝鳥が悪い。
このナポリタンに罪は無い。
ただ、枝鳥は思ってしまったのだ。
このナポリタンに入っているウィンナーが、美味すぎると。
もっと残念な感じのウィンナーが入っていればよかったのにと。




