カレーヴルスト
かつてフェスなるものに、一度行ったことがある。
音楽にはとんと詳しくないが、昔の会社の同僚と飲んだ折に、フェスというものの素晴らしさを語り尽くされた。
ふ〜ん。
なるほど。
どうやら有名な富士のフェス以外にも、様々なものがあるらしい。
その時は酒の肴に話を聞いたものだ。
あまりに同僚が楽しそうに話していたからだろうか。
翌日にそのフェスなるものを色々とインターネットで調べてみた。
最近では町おこしのようにもなっていて、洋服や雑貨の店などの出店がたくさんあるものもあるらしい。
枝鳥が住む場所からそんなに遠くない場所で行われるフェスもあるらしい。
おや、来月の末にもあるようだ。
どれどれ、どんな店があるんだろうか。
むむっ。
飲食店もなかなかに多いじゃないか。
キッシュやパイにエスニック料理。
タコスやカレー。
いいじゃないか。
大自然の中、音楽を聴きながら屋台の珍しい料理を食べる。
さぞや美味いに違いない。
コンビニエンスストアでチケットを購入して、フェスに備える。
帽子を用意した。
何年か振りにスニーカーも用意した。
最近はなかなか歩いていなかったから、ウォーキングも始めてみた。
そして初めてのフェス当日。
普段は閑散とした田舎なのである。
よく晴れた空の真下には。
人、人、人。
「お、おおう」
田舎の町は、溢れそうな人混みだらけであった。
マップを手にして、気になっていた何軒かの飲食店に行こうにも、どの店にも長蛇の列。
出遅れた。
まさかこんなに混むものだったなんて。
長蛇の列を呆然と見送り、とぼとぼと歩く。
あんな長い行列を並ぶのは無理だ。
きっと目の前で最後の一つが売り切れてしまうに違いない。
まあ、いい。
折角チケットも買ったんだ。
今日は素晴らしい音楽を聴いてから帰ろうじゃないか。
こんな日もあるさ。
そう思い直して、フェスの会場を目指す。
てくてくてく。
どんどんと山奥に向かっている気がする。
てくてくてく。
マップも置いてある看板の矢印も合っている。
てくてくてく。
登山の様相を呈してきた。
ぜいはぁぜいはぁ。
山道の階段を登ると、そこにはフェスの運営のテントがあった。
「か、会場はまだですか?」
テントにいた若者に問いかけると、爽やかな笑顔で返された。
「あと半分ですよ!頑張って!」
…………。
氷水で冷やされていたノンアルコールビールを一つ購入する。
プハァ。
ここでアルコールを摂ったならば、枝鳥はきっともう歩けなくなる。
僅かに残った自制心でノンアルコールビールにするのだ。
しばし休憩した後に、再び山道を登り出す。
途中、小学生にも満たない幼児にも追い抜かれる。
まったく!
誰だ!
フェスになんて行こうと思った奴は!
やっとの思いで辿り着いた会場。
ステージをぐるりと囲む出店。
額からダラダラと汗を流し、枝鳥は出店を確認する。
まだ始まるには早い時間のためか、人もそんなに多くない。
だが、まずはビール。
ビールを売っている屋台に最後の気力でもって近づく。
香ばしい肉の香りもする。
なになに、カレーヴルストだと?
確かドイツ風のカレー味のウィンナーだったな。
ビールのツマミにするのに良いじゃないか。
ビールとカレーヴルストを手に、会場の隅っこの木陰に腰を下ろす。
ゴクリ、ゴクリ。
プッハァ〜。
大自然の中で疲れた体に染み込むビールが、美味くないわけないじゃないか!
そしてカレーヴルストを口にする。
プツリと歯応えのある皮を破ると、ジュワリと肉汁が染み出してくる。
肉の旨味に、カレー味のケチャップ。
モギュモギュと嚙みしめると、カレーの風味が鼻を抜けていく。
脂まみれの口中をビールで洗い流す。
ああ、とてもいい気分だ。
フェスとは美味しいものなのだな。
今までの苦労の甲斐があったものだ。
どうやら音楽も始まった様だ。
ひどく気分がいい。
またいつか、このカレーヴルストを食べに来たいものだな。
この時の枝鳥は知らない。
このフェスは春の半ばに開催されていて、やがて花粉症を患った枝鳥には、このカレーヴルストが憧れの食べ物になってしまうことを。
自宅で再現するカレーヴルストは、何だか物足りないことを。




