↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/13

第6話 二つ隣のクラスの美少女には仲良くなりない人がいるらしい

 一つだけ言っておくが、俺の交友関係は実に乏しい。一年の頃、ちょっとした風邪だったのに拗らせてしまい入学式を欠席。それから数日もずるずると引きずらせてしまった結果、俺に友達呼べる存在は一人しか出来なかった。それが陽弦だ。

 だが、友達ではなく顔を合わせて挨拶やちょっとした会話を出来るような知り合いと呼べる存在なら二人いる。一人は女装姿の俺を見て妹にさせようとしてきた、というかそういう契りを結んでしまった小鳥遊蕾という誰の目から見ても凛とした姿勢に憧れを抱いてしまうクールビューティー(だと思ってた)。


 そして、もう一人は昼休みになったら教室に訪れ、大声で俺の名前を叫んで目が合うと友達を見つけた小学生が手を振り上げるように自身の方へ手招きをし、屋上へ続く階段の踊り場まで連行してきた桃色のショートカットがイヤでも目立つ二つ隣のクラスに在籍する蕾と同じ美少女と謳われている美凪詩みなぎうただ。一年の頃、同じクラスだったので授業でのグループ学習やペア活動をしたことがあるおかげで、日常的に顔を合わせれば挨拶をするくらいには浅い関係の人物。違うクラスになってからは会話をすることもないんだろうな、と嬉しくも寂しくも感じてはいたのに、まさか彼女の方から呼び出されるとは思わなかった。

 彼女に言われるがままに教室から連れ出される瞬間、蕾がジッと真顔で俺のことを見ていたのが何だか気になったが、今となってはもう後の祭り。


 さて、美凪は人影の少ない場所に可愛い俺を連れ込んでいったい何をシようというのか。


「ねえ、雲雀くん」

「なんでしょう、美凪さん」

「わたしね。どうしても気になってしょーがないの」

「えっと、な、何が?」


 小首をかしげると、美凪さんは一歩ずつ俺に詰め寄り壁際に押し寄せると顔の横、左右のどちらにも彼女の手で塞がれてしまう。蕾といい詩といい、学園の美少女が女装男子に壁ドンするのでも流行っているのだろうか。

 彼女の顔が近い。獲物を見つけた狩人のような瞳に荒い息遣いと蕩けた唇。頬を滴る汗がより彼女の火照った身体を誇張し、ゆったりと過ぎる時間がまどろっこしく感じる。


 唾を飲みこむ音がする。目の前を覆う彼女だけが五感のすべてを持て余すほど支配してしまい、後になってそれが俺のだったのだと知った。


「こんな気持ち、初めてだから……」

「初めて、って」

「気付けばずっと目で追っかけちゃって。我慢しようと思っても、出来なくて」

「え!? あ、あの、俺と美凪さんってちょっと会話したことがあるだけでそこまで仲が深いというわけではないと言いますか、もっとお互いを知ってからそういうことをするべきといいますか――」

「どうやって小鳥遊ちゃんと仲良くなったのか教えてぇ!」

「……うん、そうだよね。そういうことだよね」


 勘違いした俺がバカだった! というか勘違いしてる時点でバカだよ俺は!


 そうだよね。仲が深いわけではないと自分から言っておいて期待しちゃった愚か者だよ。前に陽弦からモテモテだとか言われて調子に乗っていたのかもしれない。ここは気を引き締めないといけないのかも。

 ――いや、俺って女装してから振り回され過ぎだろ!


「何か言った?」

「いえ、何も言ってないです」

「なぜに敬語?」

「深く聞かないで……!」


 もうやだ泣きたい。恥ずかしさのあまり顔を手で覆っているから涙の一粒くらいなら流してもいいかな。

 夢見たっていいじゃん、俺男子高校生。思春期真っ只中なの。ロクに友達を作れない人からしたら、そういう妄想をして胸を躍らせたってしかたないでしょ。これ以上俺をいじめないで。


「そういえば、その恰好似合ってるね。全然違和感ないよ!」

「そうかよっ!」


 ……一瞬でも嬉しいと感じてしまった自分を殴りたい! そして悲しくもある!

 本当に涙が出てきそうなくらい自分に悲嘆していると、詩は一度首を傾げたがすぐにあっけらかんとした態度に戻り、俺を呼び出した本題について話し始めた。


「最近の雲雀くんって小鳥遊ちゃんと仲良いと思うのです」

「あ、うん。なぜに敬語?」

「ちょっと真似を。あと仲良くなる秘訣なのかと!」

「そういうのではないからもとに戻して」

「わかった。それで、どうして?」

「どうしてって聞かれても、うーん……成り行きでとしか?」


 曖昧な回答に詩は頬を膨らませてむくれた顔を見せてくる。俺だって答えられるのならそうしてる。でも、どう考えても成り行きとしか言えないのだ。


 きっかけは陽弦だったけど、偶然蕾が被服室に訪れたことで俺たちの関係が始まったわけだし。振り返ると幸運の連続で成立していたのだと思い知らされる。

 なるほど、そう考えると陽弦には今度お礼としてコスプレさせてあげよう。もちろん、女装姿を。


 詩は最後の賭けに縋るように俺のところへ来たようで、何も得られなかったと知ると目の縁から涙が零れだした。申し訳なさが膨れ上がる。せめてもの気持ちとしてハンカチを差し出すと、彼女は受け取って涙だけを拭った。

「明日……は無理か。明後日には洗って返すよ」と俺は遠慮したはずなのに決定事項のように進んでしまい、彼女はハンカチをスカートのポケットに入れてしまった。


 彼女がどういう理由で蕾と仲良くなりたいと思っているのか、何が彼女をそうさせるのかわからない。でも、諦めて戻ろうとする詩の背中が酷く小さく感じて、本当にこれでいいのかと俺の中で何かがせめぎ合う。

 胸の前でぎゅっと拳を作る。俺は何か案を考えるよりも先に「美凪さんッ」と彼女の名前を呼んでいた。ゆっくりと振り返り、目が合う。宛てもなく彷徨う迷子のような瞳が突き刺さる。


「だったらさ、三人で仲良くなろうよ。俺だってまだ、小鳥遊さんとは友達になれてないからさ」


 気が付けば口をついて出ていた。こんなものは気休めかもしれない、その場凌ぎにしかならないかもしれない。言った後で気付いたがもうすでに遅く、取り下げることが出来ない言葉たちは宙を彷徨い、行き場のない恥ずかしさとむず痒さがどっと体にのしかかる。

 自然と顔は俯いていて、詩の表情を知ることが出来ない。怒っているだろうか、それとも軽蔑しているのだろうか。喜んでるところは思い浮かばないのに、どうして嫌なことだけは実際に体験したかと錯覚するほどの鮮明な映像となるのだろうか。幻覚の彼女の冷ややかな視線が突き刺さる。


 何を言われるのかプルプルしながら身構えていると、やがて詩は口を開いた。


「そっか! じゃあ、二人で小鳥遊ちゃんと友達になろう!」


 俺の予想に反するかの如く、彼女は俺の腕を掴んで天高らかに拳を振り上げた。なんとも勇ましく頼もしい味方が出来たものだ。クスっと笑みを零しながらやる気溢れる彼女を眺める。

 とりあえず、どうやって親睦を深めていくか決まるまでは二人切りでの話し合いとなるのかな。


 ――なんて思っていたら、三人での会合はその日の放課後に起きてしまった。

お久しぶりです


◇感想などもらえたら嬉しいです◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。