第3話 女装初登校した時の同じクラスの美少女の反応
「諸事情によって、今日から雲雀さんはこの格好で生活することになりました。最初は慣れないと思うけど、みんなも理解してあげてね」
その言い方だと俺が突然女装趣味に目覚めて学校側に迷惑をかけているみたいじゃないか。あくまでも、陽弦の頼みでスカートを履くようになってしまったことを伝えて欲しい。
だが、担任もそこまで悪く言っているつもりもないのだろう。だからこそタチが悪いのだけども。
色んな視線が突き刺さる。好奇の目も、訝しんだ瞳も、無関心の瞳孔も、そのすべてが教卓側からは窺えてしまう。当然、その中には良くは思わない不快の募った視線もあるわけで、思うところがないわけではないが仕方のないことだと割り切れる。
尤も、こんな仕打ちをしてきた陽弦にはなるべく苦しんでからくたばって欲しい気持ちが強い。本当に、俺が心の底から笑えるほどの絶望に歪んだ顔をしながら苦しんでくれ。
俺の女装について説明が終わると席に戻され、担任が簡単に今日の日程について話をすると朝のホームルームが終了した。
一限が始まるまで十分ほど時間がある。どこか適当な場所に身を潜めてやり過ごすとしよう。
……と脳内シミュレーションまで済ましたはずなのに。
「雲雀さん可愛いね!」
「女装ってことはメイクしてるのかな」
「してるでしょー、ってよく見たらノーメイクじゃん!」
「肌きれい。女装する前から手入れとかしてたり?」
とクラスの女子からは肌の綺麗さを褒められ、男子からは
「いやぁ、陽弦から聞いてたけど似合ってんな」
「だよなー。バカにしようと思ったのに」
「これが男の娘ってやつか」
「本当はもう女の子だったりして」
朝から下の話をするなよ。あと、男の娘だったら前から騒がれてなかったらおかしいだろ。俺のはただの女装だ。俺のように女装して可愛くなった奴なんかと一緒にしないで欲しい。あの人たちは元から可愛いんだから。
ふと隣の席を見ると、終始ニヤニヤしながらこちらを生暖かく眺めている奴がいたので、ひとまず右手をチョキの形にして目潰しさせてもらう。
「いったぁ! が、あぁ……ッー!」
何か騒いでいるが知らない、俺は悪くない。だって俺は悪くないんだから。女装を強要してくる方がダメ。
ふん、と鼻を鳴らし腕を組むとすぐさまそいつは復活しやがった。
「痛いじゃねえか」
「自業自得だろ」
「お前が目潰ししなきゃ済んだことだろうが」
「だって、陽弦が悪いんだから」
「愁が女装せずに来れば良かっただけだろ」
「何を言ってんだ?」
「いいか? 俺は女装する許可は得たと言ったが、絶対にしろとは一度も言ってない」
「屁理屈じゃねえか!」
「ちゃんと理解してないお前が悪い」
なんだ、なんだよその理屈は! それだとまるで、俺が好きで女装していますと宣言しているようなものになってしまう!
いやまあ? 確かなこの姿の俺は美少女で? 誰よりも可愛いという自負はありますが? だからってそれとこれは違う話だ。
「まあいいじゃないか。晴れてモテモテ生活、女子からも男子からも」
「後半いらん。女子からモテれば十分」
「えー、男子からもモテれば金を騙し取り放題じゃん」
「おまっ、サイテーだな」
コイツ、そういう目的で俺を女装させようとしたのか。いつか務所に入れ未遂犯罪者。
ジトっとした目で陽弦を睨むと、ギクリと全身を震わせて気まずそうに立ち上がって「ちょっとトイレ行ってくるわ」と教室から出て行った。
なんなんだアイツ。
取り残された俺は、対して仲良くもない奴らの質問攻めをされるばかり。聖徳太子じゃないから全員の言葉を聞き取れるわけではなく、俺を囲うように群がってるため暑苦しさと息苦しさがいっぺんに襲って来る。
窒息するんじゃないかと、次第に頭がくらくらし始めたときだった。煩い声ばかりが耳に届く中、コツコツと打ち消されてもおかしくないはずの足音がやけに鮮明に聞こえた。
足音なんて誰でも大差ないのに、なぜか近づく人物が脳裏に浮かんだ。
「雲雀さん、少々いいかしら」
その声は俺の予想通りの人の声で、群がっていた皆もモーゼの海割りのように彼女が通れるだけの幅を開けていく。
本当なら俺を妹なんてものにさせて少々腹が立っているのに、今だけは救世主だと思えてしまう。まあ、その救世主様は声だけはいつも通りを装いながら、心底不愉快そうな表情を俺にだけ見えるようにしているのだけど。
俺の前にまで着くと、蕾は顔を近づけて来た。もしかして、俺は蕾のものだとみんなに知らしめるためにキスでもするつもりなのか。そう思うと顔がボンッと破裂するように紅くなり、咄嗟に目を瞑ってしまう。
彼女の顔が近づく気配を感じながら構えていると、一向に唇は何の感触も与えられない。不思議に感じ目を開けると、蕾の顔は耳の横にあった。キスじゃなかったことに安堵と同時に残念に思いながら顔を振り向かせようとすると「そのままでいて」と言われた。
「お昼休み、お弁当持って昨日と同じ場所に来て」
「……へ?」
彼女はそれだけ言うと顔を離し、自分の席へと戻ってしまった。
周囲に居た人は蕾から何を言われたのか気になった様子で喚き散らかしているがそのどれもが耳には届かず。ただ彼女のささやき声がこびりついて落ちそうにない。
そんなことならLINEで伝えればいいのに。と思いながらアプリを開いて気付いた、そういえば連絡先を交換していなかったことを。クラスのグループに俺も蕾も入っているけど、恐れ多くて登録していなかったのを思い出した。
これからさっきと同じようにされては毎回騒がれて困るから、言ったら交換してくれるのだろうか。
わずかな期待を胸に秘め、一限の始まりを告げるチャイムが鳴り響く中、今日の昼休みがいつもよりも楽しみに思えた。
次回昼休みにてお送りいたします。
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