第12話 美凪詩は女装男子を撮りたい
「雲雀くん! わたしは怒ってます!」
休み時間になり、教室に入って来た詩に呼ばれて階段の踊り場まで移動するといつの時かと同じように壁ドンをされていた。さすがに二度目ともなればもう慣れた。
彼女は頬を膨らませて、あまり怒っているとは思えないほど柔らかい眼光を浴びせられる。
「えっと、今度は何用でしょうか」
「雲雀くんは小鳥遊ちゃんと仲良いですよね!」
「まあ、それなりに?」
「ズルいです! わたしも仲良くしたいのに!」
「この流れ前にもやらなかったか?」
「それで、放課後遊びに行こうと誘いました」
「行動力すごっ。それで結果は?」
「……聞かないでください」
断られたのかよ。蕾は基本丁寧に頼めば断らないと思うのだけど。そういえば前に二人は言い争いをしてたな。なぜか俺についてのことで。
呼ばれた理由は愚痴を聞いて、もしくはなんとか取り持ってという感じだろう。
自分で頑張れとしか言いようがない。
「そこで雲雀くん!」
「うん、自力でファイト」
「君にはわたしに付き合ってもらいます!」
「そうなる理由がわからんのやけど」
「というわけで写真と動画を撮りましょう」
「教室に帰らせてもらうわ」
付き合ってられないと思い教室に戻ろうとすると肩をガシッと掴まれた。なんとも薄気味悪い笑みを浮かべ、ポケットから何かを取り出してチラつかせる。
それは考えたくもない忌々しいもの。俺のファンクラブ会員証にしてナンバー3と記されたもの。
「ふっふっふ。君がこれに弱いのも把握済みなのだよ」
「やめろ! 戻せ! なんなら捨てろ!」
「それは無理だけど、取り引きをしないかい?」
「……言ってみろ」
「お主も悪よのぉ」
「そういうのはいいから早く言え」
「イタタタタ! わかった、わかったから耳から手を離して! 千切れる!」
詩の耳から手を離す。
彼女は掴んだ場所を抑え、涙目になりながら睨んでくる。
さっさと言わない方が悪い。
「取り引き内容だけど、ファンクラブ会員は雲雀くんのアイテムを求めてるの。だから写真と動画を撮る代わりに、小鳥遊ちゃんと三人で遊びに行こ?」
釣り合ってない。と言いかけたけど、考えてみたら学園の美少女二人と遊びに行くなんて貴重な機会だ。今後もそう簡単に訪れるとは思えない。
魅惑的な提案に心がぐらつきかけ、折れてしまった。
ため息を吐き、両手を上げて降参したポーズを取る。
「わかった、それで飲もう」
「やった! それじゃあ早速写真を撮っちゃいますか」
「何かポーズでも取った方がいいか?」
「……なんでちょっとノリいいのさ」
そんなつもりはないのだけれど。でも、俺がどういう風に写真うつりするかは気になるし……ほら、女装姿の俺って可愛いからさ。
普通のピースだと物足りないよね。だとしたらギャルピース? いや、もっと可愛いやつがあるでしょ。
あ、いいの思いついた。
俺は口許に右手を当て、小首を傾げてニコっと微笑んだ。
「……やっぱノリノリだし、しかも可愛いし。なんか、言動が矛盾してるよね」
詩は呆れながら俺を連写する。
そう言いつつも自分に素直なのは嫌いじゃないよ。
それからもう少しだけポーズを変えて写真をもう何枚か撮り、次は動画撮影に。
踊って欲しいものは決まっているようで、お手本となる動画を見せてもらったけどそれほど難しくはなさそう。
……ただ。
「最後のこれ、あざと過ぎない?」
「一枚目の写真の方が十分あざといよ?」
いや、そんなことはないと思うのだけど。
俺は疑惑の目を向けつつ、言われた通りダンス動画も撮った。実際に踊ってみてもあまり疲れないというか、動きの幅が大きいのに移動がないから楽に感じるのかもしれない。
そんなこんなで三回くらいで撮り終わった。
満足したのか、詩は手でオーケーサインを作る。
「じゃあ帰るか」
「その前に、わたしとも写真撮ってくれない?」
「……一枚だけなら」
「やった! それじゃあ画面に映って!」
詩は内カメにして俺たちを映すと写真をシャッターボタンを押す。撮れたものを見てみると!心なしか詩より俺の方が可愛く見える。
え、誰これ。めっちゃ美少女いるんだけど。俺、俺なの?
「なんか、悔しさ通り越して自慢出来そう」
それはないから安心しろ。
そんなこんなで無事に撮影会のようなものも終わり、俺は解放されて教室へと戻った。
放課後、すぐに写真と動画は出回った。恐ろしいことに、学校のコピー機を無断で使用してプリントした奴も出たのだとか。さすがにそれは怖い。
今後は安請け合いするのやめようかな。そう思った。
ファンクラブってなんだろうね
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