第11話 女装男子が美少女の仲間入りをしてしまったようです
一人きりの放課後というのが久しく感じた。蕾は教師に呼ばれていないし、詩も今回は友達の誘いを断れないとのことで先に帰ってしまった。
蕾からは待っててと言われたけれど、放課後の教室は誰もいないので暇を持て余してしかたがない。予習復習や課題をやれと言われるかもしれないが、面倒なのでやりたくない。明日陽弦に写させてもらうとしよう。
スマホゲーだって周回するようなイベントはないし、かと言って暇つぶしになるものが何も無いので手持ち無沙汰もいいところ。
ぼうっと誰かの席に座って太陽がゆったりと遠く離れていく様を眺めていると、ガラララと立て付けの悪い扉の音が響く。蕾が戻ってきたのだろうか。
顔を向けると、誰か知らない男子生徒が俺のことをジッと見つめながら立ち尽くしていた。
クラスメイト、ではないよな。他のクラスか他学年だろう。何にせよ、いったいこのクラスにどのような用があって来たのか。
頬杖をつきながら男子生徒を観察していると、やけに乱れた息遣いが聞こえてくる。不規則なリズム、よく見たら頬は赤く斜光による錯覚なのではないかと思ったら違う。たどたどしく口を開けては閉じて、何かを言いたいけれど言えない様子で金切り声だけが響く。
そこまで緊張するほどの大事な用があるのか。
もしそうだったらさすがに自分の態度は悪いなと思い、姿勢を正して向き直る。
「誰もいない教室に何か用でもあるの?」
「あ、えっと。雲雀に話したいことが……」
「俺?」
「うん」
俺に用があるって何なんだろう。陽弦にパシらされて俺を呼びに来てくれたとか?
いや、アイツはそういうことに関しては自分から動くタイプだ。だとしたら、彼は彼自身の用事で俺に話したいことがあるのだろう。
俺は席を立ちあがり、彼の前に立つ。近づけば近づくほど、彼は耳の先まで朱色に染まり、段々と俺から視線を外して俯いてしまう。ジッと我慢できないのか、後ろ手を組んでは足を適当に動かして気を散らしたいように見えた。
言いづらいこと、なのかな。
「とりあえず落ち着けよ」と言って彼の肩を叩く。男同士でバカやる時みたいに軽い接触のつもりだった。触れた瞬間、彼の肩がビクリと震える。それは気になってる人に声を掛けられた時のような、そんな淡い期待を抱いた青少年らしい反応。
――もしかして。
何となくわかってしまった。彼が何の用があって俺のところに来たのか。
わかりたくなかった。何か別の理由でもあるのではないかと現実逃避したくて、戸惑うことしか出来ない。
後ろめたい気持ちがあって俺も彼から視線を逸らすと、おもむろに息を吐く声が聞こえた。
「雲雀、付き合って欲しい」
「……ッ、俺男なのわかってんのか?」
「だから告白してんだろ」
「え、いや、は? ちょ、ちょっと待って。どゆこと?」
今コイツ変なこと言ったよな。俺が男だからいい? なにトチくるったことを……。女装が原因なのか? いや、それ以外考えられないか。
「お前のせいで性癖がくるったんだよ。前は年上の巨乳お姉さんが好きだったのに、お前が女装するようになってから男の娘しか愛せないようになって……」
「いや知らねえよ! 俺何も悪くないじゃんか!」
「責任取ってくれよ」
「お前が言うな! それ、こっち側の言葉だから!」
もう信じられない。俺が女装したからって、それなら元凶である陽弦に文句を言ってよ。
腕を組んでため息を吐くと、彼は縋るような瞳を向け、ヘラヘラとした表情を浮かべながら口を開く。
「それで、返事の方は……」
「断るに決まってるだろ! 俺の恋愛対象は女子だ!」
「つまり自分のことが好きだと」
「そうだ――違うよ!? 俺男だって何度も言ってるよね!」
「そうは言っても、完全に女子にしか見えないし。ファンクラブだって出来てるし……あっ」
「おい待て、ファンクラブってなんだ」
恐ろしい言葉が聞こえたぞ。
俺のあずかり知らぬところで不穏なことが広まっていそうだな。
「いや、今のは聞かなかったことに……」
「なるわけないだろ。吐け、お前の知ってることをすべて」
胸ぐらを掴んでガンつけると、彼は親切にすべてを教えてくれた。どうやら俺が女装をしてからファンクラブが設立されたようで、発足者にして会長は陽弦らしい。アイツのことだ、面白がってやったんだろう。後日絞めるから覚悟しておけ。
そしてもっと衝撃だったのが、学園の美少女たちが会員ナンバーが一桁とのこと。つまり蕾も詩も俺の非公式ファンクラブに入っているということで、あの二人も何をやってるのか。
おかげで俺は不名誉なことに学園の美少女入りを果たしてしまった。何とも望まぬことを勝手にやるものだ。この可愛さを認めてくれるのはありがたいが、それはそれとして嫌なことに変わりない。
そんでもって、ファンクラブ会員には厳密なる掟があるようで、俺と二人だけで会うとか告白するとか会話は三十秒までとか、俺はアイドルなのかと驚きを通り越して呆れて何も言えなくなっていた。しかも、学園の美少女には掟が適用されないというガバガバルール。こんなんで成立するのだろうか。
彼はファンクラブに入る前に告白をしようとしたようで、そう考えると色々と納得出来た。ファンクラブ会員はこうやって二人切りで会うのはダメだからな。
はあ、頭が痛い。この学校は頭のネジが二、三本失くしてる奴しかいないのか。
自然と眉間に皺が寄り、ほぐすように額に手を当てる。
「話てくれてありがとう。とりあえず陽弦には今度倍で何かお返ししないとな」
「僕はまだ諦めないから、また今度告白しに来るよ」
「あ、うん。しなくていいから」
彼は「じゃあまた」と言って俺の話を聞かずに去ろうとして、教室の扉が開き蕾が姿を現した。
「雲雀さん、取り込み中でした?」
「いや、今終わったところだから大丈夫」
蕾は中に入ろうとし、俺の前にいる男子生徒を一瞥する。
彼女ならこいつがどこの誰か知ってるかもしれないな。まあ、また話す機会があるかなんてわからないからいいけども。
扉の前から蕾が離れるが男子生徒は動く気配がなく、どうかしたのかと顔を覗くとポツリと言葉を零した。
「会員ナンバー1の小鳥遊さんが目の前に……」
「お前が1なのかよッ!?」
作者が一番やりたかった回(違います)
◇感想など貰えたら嬉しいです◇




