表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/5

第三話 止まった時間

高校の入学式まで、あとニ日。

「陽向ー、ご飯できたわよ。」


朝、母さんの声で目が覚めた。

「今行くー。」

リビングへ行くと、食卓にはいつもの朝ご飯が並んでいた。


「最近、毎日出かけてるわね。」

「まあね。」

「拓真くんと?」

「いや。」

陽向は牛乳を飲みながら答える。

「結衣。」


その名前を口にした瞬間だった。

母さんの箸が止まる。

ほんの一瞬だけ。

「……そう。」

「昨日も秘密基地見に行ったんだ。」

「そうなの。」

「なくなってたけど。」


母さんは小さく笑った。

「時間が経てば、変わるものもあるわ。」

「まぁ、そうだよな。」

「……でも。」


母さんは何か言いかけて、

「ご飯、冷めちゃうわよ。」

そう言って話を終わらせた。

陽向は特に気にしなかった。

昼過ぎ。

いつもの公園。

「陽向!」


結衣がブランコの前で手を振る。

「今日は遅かったね。」

「母さんに捕まってた。」

「ふふっ。」

「掃除ちゃんとしなさいって?」

「なんで分かった。」

「顔に書いてある。」

二人は笑う。

ベンチに座る。

「そういえば。」

陽向はスマホを取り出した。

「せっかくだし写真撮ろうぜ。」

「え?」

「久しぶりに会えた記念。」

結衣は少し困ったように笑う。

「えー。」

「いいじゃん。」

「今日はちょっと髪ぼさぼさだから!」


「十分普通だけど。」

「今日はダメ!」

「明日は?」

「……明日も。」

「じゃあ明後日。」

結衣は少しだけ黙る。


それから、

いつもの笑顔で言った。

「思い出は、写真がなくても忘れないよ。」

「結衣らしいな。」

陽向は笑ってスマホをしまった。

「そういえば。」

結衣が立ち上がる。

「久しぶりに遠回りして帰ろ!」

「いいけど。」

二人は住宅街を歩く。

昔、学校帰りによく通った道。

「ここさ。」


陽向が笑う。

「結衣、自転車乗れなくてさ。」

「やめて!」

「補助輪外した日に泣いてた。」

「泣いてない!」

「泣いてた。」


「……ちょっとだけ!」

「あはは。」

「陽向だって転んでたじゃん!」

「俺は泣いてない。」

「強がってただけ!」

二人で笑う。

歩いていると、

前方の交差点が見えてきた。

結衣の足が止まる。

笑顔が少しだけ消える。

「……結衣?」

「陽向。」


結衣は無理やり笑った。

「今日は向こうの道から帰ろ!」

「え?」

「ほら、近道あるし!」

「でもこっちの方が──」

「お願い。」


その一言だけ少し真剣だった。

陽向は不思議に思いながらも、

「分かった。」

そう言って歩き出そうとする。


その時だった。

交差点の電柱の根元に、

白い花束が置かれているのが目に入る。

「……あれ?」

陽向は立ち止まる。

「ここで事故でもあったのかな。」


その瞬間、

ズキッ――

鋭い痛みが頭を走った。

「っ……!」

目の前が揺れる。

何かが頭の中に浮かぶ。

ブレーキの音。

誰かの叫び声。

赤いランドセル。


でも、

次の瞬間には消えていた。

「陽向!」

結衣が駆け寄る。

「大丈夫?」

「……あ、あぁ。」


頭を押さえる。

「なんだ今の……。」

「疲れてるだけだよ!」


結衣は明るく笑った。

「今日はもう帰ろ!」

「……うん。」

陽向はもう一度だけ花束を見る。

誰に供えられたものなのか。

どうしてこんなに胸が苦しいのか。


分からないまま、

結衣の後ろを歩き始めた。

結衣は一度だけ交差点を振り返る。

どこか寂しそうに微笑むと、

何も言わず前を向いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ