58、皆の行先は
「……ぁ、あ……」
王太子は魚のように口をパクパクとさせる。今、自分がしでかしたことを理解したのだ。
想像力のない王族一家。将来を見据えることができずに、自らの利益のみを得ようと……その場の判断で意見をコロコロと変える王族。そんな者たちに誰がついてくるだろうか。
聖女が居なくなれば現在国を覆っている結界が失われ、遅かれ早かれ魔物が国を蹂躙する。そんな時に大聖女を追放したランディア王国を助けてくれる国はあるのだろうか。
……やっとそこまで考えが至ったのだろう。
そんな子供でも分かる道理を、私欲のために忘れていた。そんな自分の愚かさに、彼は今にも倒れそうだ。
フローレンスは国の行末に思い至ったらしい王太子の様子を見て、肩を落とした。ミナはそんな二人の様子を見て、教育係は何をやっていたのだろうか……不思議に思う。だって王太子妃候補であったミナでさえ、教育係はいたのだ。次期国王である王太子殿下とあろう者が、教育を受けていないはずがない。
そこまで考えて、ミナは頭を左右に振った。あとはフローレンスに任せよう、そう思う。
ただ、地面にへばりついている王太子はどうなるのだろうか、と彼女は思った。
仮にも元婚約者だ……と言っても、婚約者らしいことは全くしたことはないが。
「あの、フローレンス様」
「どうしたの、エルミナ」
少々言いにくいことだったため、口をもごもごと動かしていたミナの様子を見て、フローレンスはどうやら彼女が聞きたいことを察したらしい。彼女は右頬に手を触れながら、視線をあさっての方へと向けて考え込む。
「そうねぇ。多分このままだと破門でしょうから、頭を変えないといけないでしょうねぇ……」
「頭を……変える……」
フローレンスの言葉を反芻する王太子。そしてその意味を理解できたのか、彼の顔から表情が抜けていく。
「まあ、そのうち分かるわよ」
そう言って彼女は笑った。
翌日。
フローレンスは「やることがあるから」と王太子とバルカスを連れて馬車に乗り込んだ。これから王都へと向かうそうだ。
王太子は魂が抜けたように静かだった。一方でバルカンは、気が狂ってしまったのだろうか……上半身を縦横無尽に動かしている。逃げようとしているのだろうか……と思ったら、バルカンは執事によって縄で身体をぐるぐる巻きにされる。
「これから王都は慌ただしくなるでしょうから、お父様のお力も借りなければ」
そう意気込む彼女を見て、昔と変わらない姿にミナは思わず懐かしさを感じていた。
フローレンスは大聖女へと復帰する算段をつけているようだ。もし総本山から許可を得ることができたならば、今回の件を公表する予定らしい。
そしてミナが今まで行っていた訓練を全ての聖女たちに行わせ、教会の聖女の魔力量を上げようと画策しているそうだ。話を聞いたら、ミナが仕事と両立していた時と同じくらい……いや、フローレンスの語った訓練の方が過酷ではあるだろうが、そう指導していくらしい。
最終的には防御壁を国中に張っている水晶玉にフローレンス以外の魔力を供給できるようにしていきたいと考えているので、彼女たちは厳しく扱かれていく。
――その後、歴史上聖女の魔力量の平均が一番高い時代になるのだが、それは後々の話。




