呪いと快楽②
二人は同時に床を蹴り上げ、お互いが急接近。二人とも両腕を前で重ねて衝突。お互い強い衝撃を感じるが、身体が飛んだのはサチコ。アカネはよろよろと後ずさるだけで、サチコの身体は宙に浮く。
衝突の衝撃で身体が痺れ、上手く着地出来なかったサチコ。痛みで怯みそうになるが、すぐに立ち上がる。しかしそれでも遅い。アカネは既に接近し、サチコの顔に右手を伸ばしていた。
気が付いた時にはサチコは口元を捕まれ、大男のような膂力で身体を浮かされ、床に叩き付けられる。背中を思い切り床にぶつけ、衝撃で怯む。だがそんな暇はない。アカネは床に叩きつけた直後、右手から煙を発現させた。
「ほらほらほら〜?気持ちイイでしょ〜?天国みたいでしょ〜これぇ〜?」
勝ちを確信したのかアカネの掴む力が弱まり、サチコはすぐさまアカネの顔を蹴った。顎が跳ね上がるのと同時に右手を払い、爪でその右手を引っ掻いた。
「へ、|拘束の呪い《ヘイトリストレイント!」
傷口からすぐにサチコの魔法が発動され、アカネを拘束しようとする。が、アカネは魔力を込めて右手を強く振り、サチコの魔法の拘束を力づくで振り払う。
「あれぇ〜?吸った筈なのに〜何か平気そぉ〜。ま、何度もやるからいいけどぉ〜。」
アカネは左手をサチコに向け、緑色の煙を噴出。サチコは避ける暇もなくその煙に包まれてしまう。が、サチコはすぐにその煙から出て一直線にアカネへ向かう。目も麻薬の虜になっている訳でもなく、憎しみの形相。魔力を込めた両腕でアカネの身体を切り裂こうとする。
アカネは両腕を重ねてサチコの攻撃をガード。サチコの両手の指はアカネの腕に深々と刺さるが、貫通とまではいかなかった。
すぐに指を引っこ抜こうとするが、アカネは指が刺さった瞬間に膨大な魔力にものを言わせて瞬時に傷を回復させる。
結果、サチコの両手の指はアカネの腕に取り込まれたかのような形になった。しかしそれは一体化という訳では無い。指を動かせばアカネの肉が傷付くだけであり、すぐにサチコはそうした。無理矢理引き抜こうと力を入れると、グチャグチャと生々しい音と血が噴き出る。
まともに見る事が難しい光景だが、それでもアカネの快楽はそれを勝り、舌なめずりをして必死に引き抜こうとしているサチコを見る。
「あははぁ〜、大丈夫ぅ〜?ほら〜、早くしないとぉ〜直接いっちゃうよ〜?」
そう言ったアカネは両腕を自分の方へと引き寄せる。まだ指が抜けきっていない為、サチコの身体もアカネの方へと引き寄せられる。
そして近付いたサチコに対してアカネは顔を近づけ、彼女の唇に自分の唇を合わせた。
「んッ!」
「ん〜、くひあへてぇ〜?ふはりでひもちよくなろぉ〜?」
顔を逸らして逃れようとサチコはするが、アカネは引き寄せた両手をサチコの頭へ移動させ、ガッシリと掴んだ。塞ぎ込んでいたサチコの唇をアカネの舌は強引に入り込んで隙間を開け、そしてアカネの魔法が口から放たれてサチコへと伝わる。
煙をサチコの口内に送りながら、アカネの舌は彼女の舌を捉えてぴちゃぴちゃ音を鳴らしながら絡ませる。
「はぁ.......あ......んっ....ん〜............ん!?」
気持ち良さそう目をつぶっていたアカネは異変を感じて目を見開く。まるで食べていた小さな魚の骨を見つめ方のように目を丸くしながらもごもごしていると、同時にサチコは指をようやく抜き取り、両拳でアカネの胸を殴った。よろよろと後退りしていたアカネは、サチコの余裕のない顔を見てニヤッと笑い、その口からはボタボタと血が流れていた。
「あは...はにふんのぉ〜?ふほくひもちよはったのに〜。」
ダラダラ血を流しながら笑うアカネを睨みながらサチコは口に残っている肉片を床へ吐き捨て、その固形をウザったく踏み潰した。
――気持ち悪い!なんで....なんでよ!私の方が恨みが強い筈なのに!地獄以上に苦しかった私の恨み以上の感情なんてアイツが持ち合わせるわけないのに!なんで私が劣ってるの!?なんで好きにされなくちゃいけないの!?
サチコは両手に魔力を込め、そして解き放つ。ただ破壊を目的とした魔力の塊がアカネに向かい、それを真似するかのようにアカネも魔力の塊を飛ばす。
二つとも衝突するが、サチコ側が少しの抵抗だけ見せて弾かれ、サチコは向かってくる魔力の塊を辛うじて避ける。
「くッ!....うぅ!うわぁぁぁぁぁ!!!」
心が折れそうになるのを感じつつもサチコは大声で吠えながらアカネに斬りかかっていく。
この世界でも滅多に見ることが出来ない強大な魔力の持ち主同士の衝突。二人の身体がぶつかる事に発生させる衝撃は大気を震わし、離れて様子を伺っているバドーとヨノンにも伝わる。
二人にとっては正に神域の決闘。魔力は勿論の事、二人の動きでさえ正確には見切れない、彼らの動体視力以上のスピードで二人は動いていた。
だがそれでも二人ともサチコの危機を感じていた。雲行きが悪くなっていく一方であり、バドーは歯を食いしばりながら二人の間に入ろうと向かうが、すぐのヨノンに止められる。
「辞めろバドー!こんなボロボロな俺達が行っても無駄だ!いや、全快だったとしてもだ!次元が違う!」
「だ、だからってこのまま指をくわえて見てろって言うんスか!?このままじゃサチコさんは!」
「分かってる...サチコは勝てねぇよ。あんな化け物とはな...黒爪が守ろうとするわけだ。」
アカネの魔力を練る条件は悲しみ。それに反して現れる魔法の性質は麻薬であり、怒りや悲しみも快楽へ変えてしまう。故にアカネの魔力は増大しにくく、彼女に憎しみを感じ続けているサチコの方が本来有利である。
しかしサチコは自分の魔法が彼女より劣っているという現時点に心が折れかけていた。自分の感じている憎しみは相手の悲しみ以下、それを自覚してしまうと憎しみよりも悔しさが発生してしまう。
魔力の性質上、いずれサチコの魔力はアカネを超える。だが今のサチコはそんな事を考えられず、自分の力が通用しないという現実しか感じられていない。
そうなるとサチコの魔力は止まる。単純な魔力勝負で敗北必至、そう遠くないこの未来を二人は察していた。
「惜しいな....サチコは何故かあの麻薬の煙が効かない。魔力さえ上昇していけば勝てるかもしれないが...」
「違うッス。サチコさんはあの魔法をモロに喰らってる。単純に憎しみで紛らわせながら我慢してるだけッス。近しい程の膨大な魔力を持っているからなんでしょうが、それもサチコの魔力精製の妨害になってしまう。
何とか....何とか手を打たないとサチコさんは....」
「気持ちは分かるが...今の俺達は身体はボロボロ、魔力だって無いに等しい。俺達が行ったら返ってサチコの邪魔になる。」
ヨノンの言う事はバドーも痛い程に理解していた。血が滲むくらい歯を食いしばり、好きな人に対して何も出来ない自分の情けなさを痛感する。
諦めるしか無かった。今の自分には何も出来ないと認める他無かった。そう諦めかけた時、サチコの声が聞こえる。
アカネの攻撃に苦しみ、それでももがき続けるサチコの声と姿、黒い魔力に包まれて見てるだけで恐怖さえ感じそうな彼女の後ろ姿をバドーには輝いて見えた。
サチコはアカネの攻撃に苦しめられる。魔力による身体能力差の暴行は勿論だが、何より彼女の麻薬の魔法が辛かった。接近戦となると麻薬の煙の中に身を置く事になる。サチコの煙も多少アカネには影響しているが大した効果はなく、逆にサチコは麻薬の快楽に徐々に侵されていく。




