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呪いと快楽

 薄らとしか見えない視界でサチコはゆっくりと起き上がる人影を見る。魔力で埃を弾くと、頭から血をダラダラと流し、傷口を抑えているアカネが立っていた。と言っても大したダメージは負ってなく、ただ不思議そうに天井を見ていた。



「びっくりした〜。あそこから落ちてきたのかな〜?と言うか何か気持ち悪い...吐き気がする。

 ........スーッ...ハー....」



 両手から出ている緑色の煙を吸うと、アカネの顔が更にとろける。不運の呪い(アンラッキー)による吐き気や不快感を己の魔法でかき消し、痛みすらも補っていた。



 ――不運の呪い(アンラッキー)は効かない....なら、これなら!



 サチコはグッと体勢を下げると、勢いよく床を蹴りあげる。猛スピードで接近してくるサチコにアカネは抵抗することも無くただ不思議に首を傾けるだけ。

 そんな彼女の首にサチコは何の躊躇もなく短刀を切り込んだ。サチコの現在の膂力ではアカネの骨など豆腐のように柔らかく、半分以上を簡単に切り抜けた。


 アカネの背後に周り、更にサチコは短刀をアカネの背中を切った。それも深く、致命傷は間違いないと思える程であった。

 サチコは距離を離して様子を伺っていると、流石のアカネも苦痛に顔を歪めていた。半分も切られて離脱しかけている首を抑え、口から絶えなく血が溢れていた。



「な...なんでぇ....なんでこんな事をする....のぉ〜?私は....委員長を助けたくて....」

「ふざけないで!そんなの大きなお世話!今更どんな言葉をかけてももう無駄だから!!」

「なんでよ....じゃあ....私は....ど...どうすれば...」



 涙をポロポロ流しながらアカネの魔力が上昇する。するとアカネは首を抑えていた手で回復魔法を発動、瞬く間に首は治り、その要領で背中をも治癒する。



「酷い....酷いよ!私は本当に悪いと思ってたんだからさぁ!それなのに...それなのに!この仕打ちは酷い!....委員長ぉぉぉぉ!!!」



 先程までの快楽や悲しみという感情ではなく、明確な怒りの感情を顕にしたアカネはサチコに向かって走り始める。しかしサチコは何も構えない。右手に握っている短刀を今一度強く握り締め、無言で睨みつけながらアカネへと歩いていく。


 二人の距離が目と鼻の距離に達した時、アカネは右手を広げてサチコの頭目掛けて振り下ろす。しかしサチコに当たる前にその手はピタリと止まってしまう。



「へ?な、なんで?なんで止まっ....て...いう........か........喋り....づら....」

拘束の呪い(ヘイトリストレイント)。もうあなたは動けませんよ。」



 切られた箇所から黒い手のアザがまとわりついて縛り、動揺しているアカネをサチコは冷たい口調で言い放つと彼女の顔を殴った。拳が憎き彼女の頬を捉えた時、サチコは精神的な快楽を感じた。今まで手も足も出なかった憎くてしょうがない人物を攻撃している、この文言だけでもサチコは幸せを感じる程であった。

 頭の片隅ではこんな自分を嫌悪しているが、それ以上の快楽と幸福感がその想いをかき消す。


 アカネの顔、胸、腹、足、色んな場所を殴り、そして切って傷付けた。アカネは吊るされたサンドバックのようになっており、必死に拘束から逃れようとする。しかしサチコの魔法は振り払えず、無抵抗にサチコの暴行を受けた。

 自分の魔法を振り払えないとサチコは確信し、嬉しくなった。元々大きな自信はないサチコだからこそ余計に嬉しく、必死にもがくがビクともしないアカネの姿は愉快でしか無かった。



「あは!無理ですって、あなたはもう動けません。嫌ですよね?無抵抗で殴られたり蹴られたりするのは苦しいですよね?全部....全部!私が日本にいた時にされていた事ですよ!?」

「や、辞めて委員長!もう...辞めてよ。段々...痛みが....」

「痛みを感じますか?そんなの当たり前じゃないですか。いくら麻薬の魔法で和らげても、私の魔法を振り払える力がないなら私の力が勝っている。もう誤魔化せませんよ?これなら特に...」



 そう言ってサチコは短刀をアカネに向ける。刃先を彼女の右目スレスレで固定させ、睨みつけながら脅す。



「私にした事を悪いと思っていた...それがもし本心だとして、だから?って話ですよ。どれ程後悔や懺悔をした所で、貴女は私を楽しそうにイジメていた。その事実は揺るぎようが無いんですよ。

 私の受けた痛み...苦しみ...恐怖。全て...じっくりと教えてあげますよ。」



 刃を向けられていたアカネはガタガタ震えて怯えていた。緩まった目を見開き、呼吸を荒らげながらその刃先を見ており、その怯えっぷりがサチコは楽しかった。

 しかしアカネは自分に向けられた短刀に怯えていた訳でもなかった。サチコに対する恐怖があったわけでも、これから訪れる激痛に身を震わしているわけでもなかった。

 アカネは鋭く向けられた刃先を見て、過去の記憶を思い出していた。怖くて怖くて仕方がない恐怖の記憶を。



 光が届きにくい薄暗い空間、目の前の一人の人物、精一杯に伝えた己の気持ち、伝わらない思いと拒絶。

 予想にもしなかった流れ、震え、怯え、涙を流した。

 近付くその人物、大好きだった筈が恐怖の対象になったその人物、壁に背を当てて怯えるアカネに顔を近づけ、恐ろしい眼力で見つめながらボソッと一言。



『......あんたもああなりたいんだ。元友達さん。』




 振り返りたくもない嫌な思い出、あの一言を思い出した瞬間アカネの魔力は爆発的に上昇した。凄まじい魔力の上がり具合にサチコは驚愕し、次の瞬間には彼女の頬にアカネの平手打ちが当たった。


 バチィン!と通常の平手打ちとは思えない甲高い音が響き、サチコの身体は吹っ飛ぶ。何十メートルも身体は宙を舞い、ゴロゴロと転がった。

 身体の勢いが収まりサチコはゆっくりと上半身を起こすが、ダメージで視界がぼやけ、尚且つビンタされた部分の皮膚は吹っ飛び、血を噴き出していた。


 動揺していたサチコはすぐに激痛に顔を歪ませ、回復魔法で治療しながらアカネを睨む。

 アカネは身体にまとわりついていたサチコの魔法を振りほどき、更に魔力を上昇させながら叫んでいた。



「あ...あぁ...あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!辞めてよぉ!私は友達!友達だからぁ!だから私を見放さないでよぉぉぉぉ!私から離れないでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



 大粒の涙をボロボロ流しながら虚空に向かってそう訴える。彼女の感じている悲しみが絶大なのか、魔力はどんどんと上昇し続け、それと比例して彼女の麻薬による癒しも強くなる。

 麻薬による快楽を感じたことによってアカネの魔力上昇は収まったが、それでも規格外には変わりなかった。また口角が緩まってヘラヘラ笑い始めるアカネをサチコは傷付けられた頬を抑えながら睨みつける。



「なんで...なんで私がこんなに傷付けられなくちゃいけないの....散々苦しめられてきたのに!まだ私をそうやって痛めつけるんですか!!?」

「はは、ははは、あははははははははははは!!だから言ってるじゃ〜ん委員長ぉ〜?私の魔法に身を委ねればぁ〜、最高に気持ち良くなれるってぇ〜。」

「同じ事を言わせないで下さいよ!もういい!もうこんな問答はしたくなんかない!!」

「あはは〜同感だよぉ〜。委員長が何を言っても私は止まらないよぉ〜?でも〜、委員長は私に酷い事したからぁ〜、ちょっと罰を与えなくちゃ〜。」



 幸せそうなアカネを見ると憎しみが沸き起こる。魔力を上昇させながらサチコは立ち上がり、グッと体制を落とす。それに対してアカネも腰を深くする。睨んでくるサチコをとろけた目でヘラヘラしながら見つめる。



「呪い殺してやる!!」

「快楽で壊してあげるぅ〜!!」


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