奇跡の快楽
「お前ら...知り合いなのか?世界とかどうとか....お前らは一体....」
「...話すと長くなるので省略すると、彼女は私を人以下の扱いをしてきた内の一人です。大した抵抗が出来ない私を....私にとって永遠に許すことの出来ない人です!」
声を荒らげ、感情に任せてボロボロの仮面をサチコは捨てて睨みつける。彼女の目つき、そして表情はアカネを圧倒させ、縮こませる。まるで自分がイジメているかのような彼女の反応にサチコは苛立ちを覚えるのであった。
「何ですかそれ...何で私がイジメてるみたいになるんですか!?貴女達が私にしたことを考えてれば、拒絶されるのは当然でしょ!?」
「そうだよね...どんなに謝っても信じられないよね。いいの...それでいいの委員長。私は本当に後悔してる...それを行動で証明出来ればいい。だから...だからもっと私を....」
声を低くしながら意味ありげな言葉を言うアカネ。表情が暗くなっていくのと同時に、アカネから魔力を感じる。敵意と受け取ったサチコは臨戦態勢になるが、対峙する彼女の顔からは暗さはなくなり、逆に目元がとろけた甘い表情へとなる。
「あぁ〜これこれ〜。委員長ぉ〜、そんなに警戒しないでよぉ〜。そんなに拒絶されたら私悲しいよぉ〜。」
「な、何?一体何をしてるの!?」
「委員長ぉ〜、私ね〜、この世界に来てから委員長の苦しみを身をもって体験したんだよぉ〜?
委員長が飛び降りてから凄い頭痛がして〜、気がついたら砂漠のど真ん中!そこで運良く人と会えたんだけど〜、運が良かったのはそこだけ〜。」
まるで天国にいるかのように口も目元も緩み、だらだらとヨダレが垂れる。次第に右手をローブの中に入れ、自分の股を弄る。くちゃくちゃと水気のある音と共に、ヨダレや涙とは異なった透明な体液が太腿を伝って床に流れる。
「その人達にね〜?私、強姦されたんだぁ〜。人攫いだったみたいでね〜、無理矢理されたんだぁ〜。その時、委員長の感じてた哀しみを本気で理解したよぉ〜。日本にいた時から悪いなぁ〜って思ってたけどぉ〜、こんなに苦しいんだってぇ〜。」
「だ、だから許してって言いたいんですか?」
「違う、違うよぉ〜。その時に感じた悲しみ、それでこの力に気が付いたんだぁ〜。凄いよこれ!信じられない力が沸き起こるし、何より気持ちいいんだぁ〜!日本にいた時に使ってたからかな〜?これが私の魔法!弱者を救う奇跡の快楽なのぉ〜!」
魔力が上昇すると共にアカネの茶髪がみるみると緑色へと変化していく。綺麗な黒目も絵の具のように緑色へと変化し、見開いているのに焦点が合っていないような雰囲気。
外に流れている麻薬の煙、彼女の反応と魔力、サチコは彼女に全ての原因があると察したのと同時に魔法の性質を理解する。
――魔力発動の条件は悲しみ....そして、性質は麻薬。外の中毒者を見るからに、かなり強力そう...だけどそんな事よりも....発動条件が悲しみなら、今これ程大きな魔力を練れているって事は、あの謝罪は本心って事?本当に私の事を....
この世界だからこそ証明出来るアカネの真意。彼女の魔力の大きさがそのままサチコに対する想いと拒絶に対する悲しみを表し、サチコの胸はズキズキと痛み始める。
本当に反省しているなら許してあげたいという気持ちもあるが、あの地獄を思い出すとそう踏み切れない。
顔色の悪いサチコの表情を見たアカネは更に口角を上げ、涎と体液をボタボタ流しながら酔っ払いの千鳥足のように近付いてくる。
「委員長大丈夫ぅ〜?そうだよねぇ〜?私なんか許せないよねぇ〜。でも良いの〜、さっき言ったようにさぁ〜行動で示すからぁ〜。」
「行動で....示す?」
「そう!ほら委員長ぉ〜、私の手から出てるこの緑色の煙、吸ってみてぇ〜?すっごく気持ち良くなれるんだよぉ〜。委員長が抱えてる悩み、苦しみ、痛み、そんな事なんか全部吹き飛ばす極楽の快楽!最高だよぉ〜?セックスの百倍気持ちいいんだよぉ〜?」
アカネは両手でお椀を作り、そこから緑色の煙が溢れ出てくる。床に垂れ流しながら、アカネはサチコの前に立って彼女に差し出す。
「ほら、吸ってぇ〜?大丈夫だよぉ〜。怪しくなんか無いし〜、怖く感じるのなんか最初だけだからぁ〜。吸ったら沸き起こる快楽に身を任せればいいの〜。それで委員長は救われるよぉ〜。」
「す、吸えるわけないじゃないですか。外の人達はこの煙を吸った影響でどれ程酷い目にあってると思ってるんですか!?」
「外の人〜?んふふふ〜、何を言ってんのか私分か〜んない〜。取り敢えずぅ〜、吸って〜?吸ってから話しよ〜?ほら〜?ほらほらほら〜!」
アカネは更に両手をサチコに近付ける。彼女の鼻に目掛けてジリジリと寄ってくる悪魔の煙、咄嗟にサチコは彼女の両手首を掴んで抵抗する。
しかし魔力を得たアカネの力は凄まじく、その機械のような力にサチコは抵抗出来なかった。その間サチコは何度も拒否するがアカネの耳には何も入っていない様子であり、サチコはすかさず短刀でアカネを切った。
アカネの両手を振り払うように振った短刀は彼女の手では無く、身体の方を切った。
「キャッ!!」
「や、辞めてって言ってるじゃないですか!!日本にいた時もそう!私の意思なんか関係なしに色んな事を無理強いしてきた!!貴女は反省してるかもしれないけど、根本的には」
腰が抜けてしまいそうな恐怖を感じつつも、それに対抗するようにサチコは叫ぶ。しかしアカネの様子を見てその言葉はピタリと止まった。
アカネは下をジッと見つめていた。先程の頭が完全におかしくなり、キマっている様子だった彼女は何かを凝視していてピクリとも動かなかった。
アカネが見ていたのは自分の足元に落ちていた銀色のペンダント。逆さの十字架で杭で貫かれているという悪趣味なデザインのペンダント。元々アカネの首にかけていたのがサチコの短刀でペンダントの繋ぎ部を切って落下していた。
膝を落としてその場でペンダントを取ったアカネは、両手で大事そうにそのペンダントを包む。それと同時に彼女の魔力が急激の増大した。圧倒的な圧力に間近にいるサチコは勿論、少し距離を置いているヨノンとバドーですら気が飛んでしまうような絶大な魔力。
アカネの変貌に目を丸くしていると、アカネはゆっくりと顔を上げた。彼女は涙を流しながらもサチコを睨みつけていた。ギリギリと擦り潰れそうな程力の籠った歯軋りをしており、今にでも飛びかかってきそうな雰囲気を感じる。
「何で...何でこんな事するの!!??こんな酷い事!人としてやっちゃいけない外道じみたゴミ屑行動を!!自分で何やったか分かってるの委員長!!最低!!本当に最低ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「な、何なんですか!?一体何の事ですか!?そのペンダントが何だって言うんですか!?」
「このペンダントォ!?そんな事も分からないの!!?本当に有り得ない!これは!!
...これは........
ん〜〜?」
怒りに満ちた怒号と迫力はテレビのチャンネルを切り替えたかのように消えた。激高の目が急にとろけ、ボーッとしながらそのペンダントを見て首を傾げた。
まるで彼女自身そのペンダントを初めて見るかのような反応だが、先程までの発言を考えるとあまりに不自然な反応。
魔法で頭が駄目になっているとはいえ、それとは関係無いとサチコは直感していた。
不思議そうにペンダントを見ていたアカネは、切れてしまった繋ぎ部を自分の握力で無理矢理付けさせ、自分の首に再びつけた。大きな胸の間にペンダントをしまい、ホッとしたような顔をすると、サチコから背を見せて駆動魔機へと向かった。
余りに不自然、不可解な彼女の反応と行動にサチコは思わず呼び掛けるが、アカネの耳にサチコの言葉は伝わらなかった。
アカネは駆動魔機へ辿り着くと、駆動魔機に向かって魔力を伝える。すると駆動魔機正面に何かのレバーが発現し、アカネは予告無しにレバーを下げる。
すると駆動魔機だけでなく、隣接している他の機械も異音を鳴らし始める。今にも煙を出して爆発しそうな負荷を感じさせる大きな異音が部屋を包み、駆動魔機内の液体にも変化があった。




