1.守ってみせようじゃないか
「今日はやたらといい天気だな。そして暑い。」
俺は赤城健太。田舎の中学校に通う学生だ。人に言いたくなるようなような趣味や特技は持ち合わせていない。自己紹介で困るタイプの人間である。
「そうだねー。いいことがありそう
隣で話しているのは藤井恵留。俺と同じアパートに住む同い年。俺より頭一個小さく、陸上部。100メートルの選手だったが、3年生のため、部活を引退している。明るい茶髪をいつもポニーテールにしている。
「そうか?こんだけ空になんにもないとよくないことの前触れに感じるぜ。」
と言ったのは前を歩く小熊源樹。恵留と同じようにアパートが同じで、野球少年である。といっても部活は引退したため、現在は練習を中断している。元気でなやつである。
「そんなこと言うなよ。現実になりそうで嫌だ。」
現在は学校からの帰り道。普段は5人で歩く道だが、1人は学校に残っていて、1人は先に帰っている。用事があるらしい。
「もう明日から夏休みかー。」
しばらくしてから恵留がそんなことを言い出した。たしかに、今日は前学期の最終日だった。だからといって夏休みにやりたいことがないのが悲しいことだが。
「最近5人で遊んでなかったから久々に遊ぶのもいいね!」
最後に遊んだのは1ヶ月前くらいだったか。小学校の頃から見ればかなり頻度が落ちたように思えるが、結構最近な気もする。
「それもいいな。たまにはみんなで遊ぶのも大切だからな。」
まあ、やることも特にないしな、と心の中で付け足して、何気なしに周りを見る。
今帰っている道は田んぼの間にある一本道である。車が通れるような幅でなく、緑色の稲が辺り一面に植えられている。穂先が揺れて、風の形がよくわかる。遠くには2つの山が見え、反対側には海があるが、こちらは遠すぎて見えない。小学校の頃から通る歩き慣れた道。空は吸い込まれそうなほど青く、雲は全く見当たらない。さっき言ったように快晴である。見るたびに田舎だ、と思う風景である。
「空を見てボーッとするなんて、健太らしくねーな。なんかあったか?」
「いや、田舎だなーっておもってただけだ。」
何をいまさら、とでも言いたげな雰囲気を醸し出している源樹を横目にもう一度空を見る。いい天気だ。
そして、源樹が言ったことが早くも現実のものとなる。
空から太陽の光とは全く違う一筋の光線が降ってきた。その光は周りを真っ白に染めた。そして光がなくなった時には、眺めていたきれいな青空は白色の天井に変わっていた。
視線を前に戻してみても、そこは見知った道ではなくなっていた。そこは、周りを真っ白な壁に囲まれた何の家具もない部屋であった。広さは学校の教室ほどだろうか。前後に1つずつドアがある。押して開けるタイプのものだ。それ以外には本当になにもない。だだっ広いところにひとりぼっちである。
「ようこそ、赤城健太さん。突然連れてきてしまってすみません。しかし、そこまで時間があるわけではないのでので許してください。」
いきなり後ろから話しかけられた。声のした方を見ると、そこには一人の女性が立っていた。
長い銀髪の似合う顔の小さな美人さんだった。明らかに日本人ではない顔立ちをしている。
「あなたに頼みたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「その前に君は誰か教えてくれるか?」
そう言うと、彼女はハッとした表情を浮かべた。
「申し遅れました。私はヒカリアと言います。」
ぺこりと頭を下げて短く名乗る。余計なことを言わない主義のようである。
「ヒカリアか。それじゃあヒカリア、ここはどこでどうしてここに俺を呼んだ?」
「ここは天界という場所です。天使が集う場所となっています。そして私はここに住む使いっぱしりの天使です。」
そう言って背中から羽を出して見せた。いわゆる天使の羽というような真っ白な羽だった。
「・・・唐突だな。ちょっとびっくりした。」
「ちょっとですむのだから呼んだ甲斐があったというものです。続けますね。ここへは天界にある施設を使って来ていただきました。いわゆる転送機能です。」
便利なものである。聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず、
「ここから俺は戻れるのか?」
「はい。いつでも行き来が可能です。今はまだ、私も一緒に降りなければいけませんが。」
「じゃあ、俺と一緒に居たふたりはここにいるのか?」
「いえ、あのおふたりは来てもらっていません。あなた方が歩いていた道ににいます。あなたに話をしたかったので。」
ならやることは決まっている。
「じゃあいったんもとの場所に戻してくれ。俺じゃ判断できないから話はそっちで聞く。」
「了解です。それではさっそく戻りましょう。」
そう言って懐からバッチのようなものを出した。そして何事かをつぶやくと、周りが来たときのように白く光り始めた。
戻ってきた時、ふたりの背中が前に見え、不安そうに周りをキョロキョロと見渡していた。俺がいなくなったことに気づいてそこから動いていないのだろう場所にいた。
。
「恵留、源樹、俺はここだ。」
パッとふたりは振り返り、そろって顔を安心したような顔にした。
「よかったー!急にどっかに消えちゃうから心配したよー!」
源樹が同じ事を言いたかったという表情をしていた。その後になってから、ふたりは俺の後ろにいる人に気がついた。本人の言い分では人ではないようだが。
「一樹、そいつは・・・大丈夫そうだな、誰だ?」
源樹は最初警戒する雰囲気であったが、途中でその警戒を解いた。
「その様子だと大丈夫そうだな。まあおそらく大丈夫だと思っていたが。この人はヒカリアと言うらしい。俺たちに頼みたいことがあるそうだ。」
「それを私に聞けって言うこと?」
「そういうことだ。悪いと思ってはいるが、俺を別の場所にパッと移動させられるような奴が強制ではなく頼んでくることだ。結構な大事だと思う。できればお願いしたい。」
「わかった。一樹がこんなことを頼むなんて滅多にないからね。たまにはいいよ。」
怒った様子はなく、健太は密かに安堵した。
「だそうだから話していいぞ、ヒカリア。」
「分かりました。なかなか気になる会話でしたが、こちらは物を頼む側なので余計な詮索はしないでおきますね。」
こういう空気を読めるスキルはいいなと思う。
「私が依頼したいのは地球の防衛です。」
予想よりかなりスケールの大きい話だった。よくよく考えてみれば天使だから地球単位にならざるを得ないのか。
「質問は最後まで聞いてからでお願いしますね。
私はヒカリアという者です。天界から来た天使です。天界というのは地球を他の星から守るためにあります。地球は別の惑星からの攻撃を受けています。これまでは攻撃に私たちだけで対処できていて、地球の皆さんに戦いを認識させずにすんでいたのですが、先日の大規模な攻撃によりその防御網は崩されてしまったのです。今動ける者は破壊された防衛装置の復元に手一杯で、防衛可能な者は事実上いません。一回だけなら別口の防御法がありますが、それを除けば、現在は地球は守られておらず、敵の攻撃をもろに受ける状態、ということです。」
ヒカリアは3人を見渡す。ここまでいいですかと目で問いかけているが、あいにく俺は真偽を考えるのを止めている。源樹は内容を聞き漏らさないようにしようとしているようだ。恵留は嘘か本当かに注意して話を聞いてるはずだ。
「続けます。天使だけで守れなくなった私達は地球を防衛する人材を探すことにしました。そこで白羽の矢が立ったのがあなた方です。経緯はだいたいこんな感じです。もちろん、この時点で断ることも可能です。いかがでしょうか?」
一通り話が終わったようだ。とりあえず、
「恵留、どうだ?」
「大丈夫そう。問題なし。」
なるほど、どうやら嘘ではないようだ。
「いくつか質問していいか?」
「はい、答えられる範囲でお答えしま
す。」
「じゃあ1つ目、何で俺たちなんだ?」
連れて行かれた時点から気になっていたことだ。なぜ俺たちが選ばれたのか。
「私達が選んだのはあなた方ではなく赤城健太さん、あなたです。選んだ基準は情報処理能力、頭の回転の速さです。地球を守るといっても、物理的な力はあまり必要とされません。必要なのは作戦とそれを実行する力です。実行するのはどうとでもなると思われますが、作戦を考えるのはなかなか骨がおれます。前は作戦を考える天使がいたのですが、先の攻撃で動けなくなってしまったので、それを第一に考えました。」
「じゃあ2つ目、どうやって守るんだ?」
「基本的には宇宙空間での戦闘となります。具体的には相手の動きを止める攻撃をします。相手を動けなくするための武器は天界で代々受け継いでいるので大丈夫です。バリエーションもそれなりにあります。安全性を重視して、危険と判断されたときは天界に転送される宇宙服のようなものを着ていただきます。危険はたぶんありません。前例がないので確かな事は言えないですか。」
たぶん、というのが気になるがまだ聞きたいことがあるのだ。
「じゃあ3つ目、天使ってのは人間と違うのか?」
「天使というのはあなた方人間とあまり変わりません。違うのは数点だけで、それ以外は同じです。今パッと思いつくのは健太さんが見たように羽根が出せることとか、羽を出すと飛べる代わりに地球上では存在を感知出来なくなることとかですね。こんな風に。」
と言ったとたん、ヒカリアはそこからいなくなった、と思ったらまたすぐ現れた。
「便利なような不便なような機能だな。
じゃあ次、天使ってのはどれくらいの人数がいる?」
「前までは200人以上いましたが、現在は50人程度しかいません。しかもその大半が戦闘中に建物の中に引きこもってる頭のかたーいお偉いさんなので、戦力になるのは10人以下です。」
少ないな。そしてヒカリアは口調から察するに上層部が嫌いなようだ。確かに一般人に助けを求める程度には危険らしい。
「敵についてはどれくらい分かってる?」
「敵はどこから来ているのか、というのは全く分かっていません。話そうとしたことはあるらしいのですが、言葉が通じない上に相手側に話す意思がなかったので断念するしかなかったとか。分かっているのは敵の規模が一度の攻撃に30体くらいの機械を投入してくることと、地球よりもずっと高い科学技術を持っているということくらいですかね。」
地球は別の生命体が生きる星を見つけられていないのだから当然であろう。
「戦う相手は人じゃないのか?」
「操作しているのは人間でしょうが、実際に交戦するのは機械です。」
なるほど。人と戦い合うよりは気持ち的には楽そうだ。
「じゃあこれで最後にする。守れなかったときはどうなるんだ?」
「推測でしかありませんが、地球は侵略され、住んでいる人々は根絶やしにされるでしょう。攻撃の目的は新たな土地の確保だと考えていますので。」
そいつは大変だ。後ろの二人はたいそう危機感を感じているであろう。
「俺からの質問は以上だか、ほかに何かあるか?」
後ろを見るが、二人とも首を振っていた。思いつかないようだ。
「無いようだな。それでは俺たちが依頼を受けるかについてだか、」
ヒカリアは期待と不安のこもった目を向け、源樹と恵留は固唾をのんで見守る。俺の出した結論は、
「とりあえず家に帰ってからにするか。」
俺にとっては当たり前の選択をした気分で、健太以外の3人は盛大な肩すかしを食らった気分で4人は帰路についた。
ーーーーー
周りには鬱蒼とした森林がうごめいている場所にぽつんと2階建ての建物がある。人工物といえば、目の前にある小さな公園だけ。源樹と恵留にそれぞれの部屋にいるように言って、健太は外付けの階段を上って2階に行き、、一番右の部屋をトントトンと変なリズムでノックした。
「・・・お帰り。その人誰?」
部屋から出てきた人物は、金髪の小さな少女だった。
帰ってきたのは俺たちが住むアパート。それなりに新しめで部屋が6つある。現在は空室は1つとなっている。
「ただいま、凪。こいつはどこからどう見ても怪しい奴で、実際に怪しいけど、悪い奴じゃないから大丈夫だ。と言っても、そこまで警戒してなさそうだからいいか。」
「健太がなんてことなさそうに隣にいるから。」
なんてないことはないのだが、まあよしとしよう。
「最初から悪いような印象を与えないでください。私はヒカリアと言います。どうぞよろしく。」
「私は桜田凪。14歳。好きなことは本を読むこと。嫌いなことは知らない人と話すこと。好きな食べ物は甘い物で嫌いなのは野菜。特にトマトとかピーマンとかは」
「って感じでたまに話がずれていくけれど、至って普通の人だから。でも凪、ヒカリアと初対面なのに話せるんだな。」
「なんか大丈夫。」
「そのあたりの基準って何なんだろうな。自分のことを知られてないからか?」
まあ、それは置いといて、
「話の続きはもう一人が帰ってきてからでいいか?二度手間になるのは嫌だろう?」
「それもそうですね。それでは、ちょっとばかし事務作業をしてもいいでしょうか?最近は忙しくて出来ていなかったものですから。」
そう言って懐から取り出したのは長方形の電子機器だった。
「それはスマホのように見えるけど、実際はぜんぜん違うもの?」
「なんてことは無くごく一般的なスマートフォンです。少し前に買いました。便利ですよね、これ。」
便利なのは認めるけど、天使とかが軽々しくそういうのを使っていいものなのか。
「そういえば凪、何で今日早く帰ったんだ?なんかあったのか?」
「ほしい本の発売日だと思ってたら一週間間違ってた。」
ーーーーー
数分後。
「仕事、終わって良さそうだよ。ほら。」
凪がそう言って指さした方向には1つの人影が。シルエットからするに待っていた人物のようだった。
「帰ってきたな。それじゃあ俺はあいつを迎えに行ってくるから、凪は部屋にいる源樹と恵留を呼んできてくれるか。そんで集まったら俺の部屋に入っていてくれ。はい鍵。」
「了解。いつものとこね。」
そう言って部屋から出てきて、階段を降りていった。先に源樹の方を呼びに行くようだ。
「さて、俺たちも行きますか。多分スムーズに行くと思うぜ。」
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「ただいま、ケンタ。わざわざお出迎え悪いね。わざわざ迎えに来るって事はなんかあるのかい?」
「おう。察してるとおりなんかある。」
彼は結城一斗。俺たちの中学校の生徒会長だ。身長はかなり高く、いわゆるイケメンの部類に入る奴だ。
「この人はヒカリア。地球の防衛を頼みたいらしい。」
「・・・それはまた壮大だね。エルはこのこと聞いてる?」
「ああ。問題なしだそうだ。ちなみに源樹とも会ってるからそれも大丈夫。」
「準備万端って感じだね。もしかして僕待ちだった?」
「いや、時間的にはぴったりだ。さっきまで凪と話してたからな。」
「それはよかった。とりあえず、話は中で聞こうか。立ち話も何だしね。」
「あ、はい。」
とんとん話が進みすぎて若干驚いているときに話を向けられ、反応が遅れてしまったようだ。意外と人間的なんだな、と俺は思った。
ーーーーー
「むうー。」
帰ってきて部屋に入ったら、凪のふくれ顔に歓迎された。なにかあったのだろうか。
「健太、私にだけどんな話なのか言わかった。一斗はもう知ってるって言う顔してるし、私だけ取り残された気分。」
そういえば凪にだけ何も話さずじまいだった気がする。
「さすがに何も言わないのはどうかと思うよ。今回は私も凪に賛成。」
ここで恵留の援護射撃である。この戦は勝ち目がなさそうだ。
「でも何にも聞かなかった凪も凪なと思うぜ。」
ここで源樹からの横やりが入ったが、
「そう、今回は一樹に非がある。だから私は」
完全に無視するという戦法を取った。
「一樹に冷蔵庫にあるアイスを一本要求する!」
・・・。
「ただアイスを食べたいだけだろ。」
「何でばれた・・・じゃなくて、そんなことあるはずない。」
本心が丸見えである。ていうか口に出ている。
「まあいいよ。あとで好きなの食べてくれ。」
「やった。これでアイス代1本分が」
「それはいいとして、結局話はどれくらい聞いてあるんだ?」
「えーっと、ヒカリアが天使で、地球がピンチってくらい?」
「じゃあだいたい一斗と同じくらいだな。」
というわけで、
「ようやく場が整ったから話していいぞ、ヒカリア。」
「ようやくですね。それでは3人には繰り返しとなりますが、現状報告を。」
ヒカリアが話した内容はほとんど同じであった。俺が質問したところが少し付け加わっていたが。
ちなみに今いる場所は、俺の父親の部屋である。と言ってもあまりこの部屋を父は使わないので、大きな円卓を部屋の真ん中において占領している。6人で食事をしても全く困らないような大きさである。
「以上が現状報告ですが、何か質問はありますか?」
「うーん。ちょっと理解が追いついてない。そのうち思い付くかもしれないけどとりあえず今はないかな。」
「ない。」
凪の方は即断である。らしいといえばらしいのだが。
「では、この話を受けてくださるかを決めていただきたいのですが、相談の時間でもとりましょうか?」
「いや、それはいらないんじゃないかな?」
と言ったのは一斗である。
「うん。答えはもう決定済み。」
「つーか、おれは健太がここまで連れてきた時点で決めてると思ってたぜ。」
「私もー。」
「・・・一応相談くらいはしようと思ってたんだぞ。」
と付け加えるが、決めていたことは否定しない。
「まあ、満場一致だな。それじゃあ、」
ヒカリアの方を向き直り、俺は言う。これからを変えてしまうであろう一言を。
「俺たちはこの依頼を受ける。守ってみせようじゃないか、地球。」




