↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしの守護者は、ちょっとおかしい 〜過保護な最凶神官の愛は規格外!?〜  作者: 星谷 明里
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/61

第57話 神官、餅を焼く

「イグナシオ、どうしたの?」

「ああ……すみません、アグネス様。少し考えごとをしていました」


 ここのところ、イグナシオはぼーっとしていることがある。どうも、ドゥルセちゃんの一件があってからの気がする。


 あれから大掛かりな捜索がされたが、ドゥルセちゃんをギルドから連れ出したという男の人は見つからなかった。

 その人物がわたしの名を告げたという話から、わたしにも事情聴取がされたが『知人の名を出して連れ去ろうとしたのだろう』と結論付けられた。

 次の被害を防ぐため、街の巡回の騎士が増やされ、街には少しだけ緊張感が走っている。


 ダリオさんや奥さんからは改めてお礼を言われたが、謝礼は辞退した。

 バートさんが見つけてくれたおかげだし、とにかく、ドゥルセちゃんが無事に見つかって本当に良かった。


(イグナシオ、なんか元気ないなぁ……)


 いつものように微笑んでいても、どこか覇気がないのだ。


「ヤマモモ、採りに行こうか?」

「アグネス様、ありがとうございます。……でも、少し雨が振りそうですよ」


 イグナシオが空を見上げる。確かに、今日は曇り空だ。


「じゃあ、今度お天気が良い日に――」

「おい……お前、アグネスか?!」


 突然掛けられた声に振り返ると、そこには獣人族の青年が立っていた。

 灰茶色の少し跳ねた髪に立った耳、暗い榛色の瞳。その鋭い眼差しには、見覚えがあった。


「もしかして……ルカ?」

「ああ……ルカだよ」


 榛色の瞳が滲んだ。

 微笑んで手を伸ばした青年を遮るように、イグナシオが割って入った。


「アグネス様に触れないでください」

「ちょっと、イグナシオ……」


 イグナシオに遮られながらも、ルカはわたしを見つめ懐かしむように笑った。


「良かった……お前、生きてたんだな」

「うん。ルカも元気そうで良かった」


 町中で再会したのは、遠い記憶にある少年の面影を残した青年――ルカだった。


 ◇


 リベラの中央広場の隣にあるカフェ。

 十年ぶりに再会を果たしたアグネスとルカは、テラスのテーブル席で色々と話し込んでいた。


「まさか、お前が生きてたとはな……元気にしてたか?」


 「見ての通り、元気だよ」と笑うアグネスに、「神官見習いか……俺も教会にいれば良かったな。ま、俺は神官なんてガラじゃねえけど」と小さく息を吐くルカ。


 「そんなことないよ」と小さく笑ったアグネスは、ルカの腰に下がった剣に視線を向ける。


「ルカは冒険者なんだね。いつ教会を出たの?」

「十二歳のときだよ。十二になったら教会を出るって決めてたからな」

「でも、ルカは神官さまになるのが夢だって……」

「……気が変わったんだよ」

「そっか」


 パンを頬張るアグネスに、ルカは目を細めて微笑んだ。


「アグネス。オレの名前はヴィンセントだ。ルカは教会での名前だよ」

「そうだったっけ?」

「ああ。お前も――なんだったっけ、アンナ……いや、アンセルマ……だったか」


 アグネスはパンを左手に握ったまま、右手に取ったフルーツジュースをゴクゴクと飲み干した。


「お前、相変わらずだな。……『食いしん坊アグネス』」


 声を立てて笑うルカに、アグネスは「どういう意味よ?」と頬を膨らませた。


 その様子を、隣の広場の階段に腰掛け見つめる影があった。イグナシオだ。

 彼はどこか不安げにアグネスの様子を覗いては、小さくため息を零していた。


「あら……神官さん、珍しいわね」

「バディさん……」


 通りかかったのは、ベリンダだった。

 彼女は隣のカフェに目をやると、イグナシオに静かな眼差しを向ける。


「……良いの?」

「何がですか」

「アグネスさん、随分楽しそうに話してるわね」


 カフェのテラス席では、アグネスとルカの二人が楽しそうに話し込んでいる。


「十年ぶりだそうです」

「へぇ……幼馴染ってやつかしら」


 アグネスを見つめ、ため息を吐くイグナシオ。


「神官さんも、そんな顔するのね」

「早く話が終わってほしくて……でも、アグネス様には、『どうぞゆっくり話してきてください』と言ってしまいました」


 小さく笑うベリンダを、イグナシオは不思議そうに見上げる。


「何かおかしいですか?」

「神官さん、嫉妬してるのね」

「嫉妬? まさか……嫉妬心は大罪ですよ。神官である私がそのような――」

「あら、それじゃあ、世の中のほとんどの人が大罪人になってしまうわね」


 「可愛いヤキモチよ。むしろ健全だわ」と微笑むベリンダに、イグナシオは「焼きモチ……」と不可解そうな顔を向ける。 


「モチとは何ですか?」

「東方の国の主食よ」


 そのとき、ポツポツと落ちてきた水滴がイグナシオの肩を濡らした。


「降ってきそうね……それじゃあまたね、神官さん」


 「応援してるわ」と笑うと、ベリンダは小走りで去って行った。

 本格的に振り出した雨は、イグナシオの髪を濡らし始めた。


「待たせてごめんね」


 いつの間にか、そこにはアグネスが立っていた。

 「少し濡れちゃったね、早く拭かないと」と言った彼女の手には、開いた傘が握られている。


「ルカさんはどうしたんですか?」


 イグナシオは、誰もいないテラス席に目をやった。


「帰ったよ」

「良かったのですか? 久しぶりに会ったのでしょう」

「しばらくリベラにいるんだって。また今度ご飯に行こうって言われた」


 イグナシオは返事をせず、少しだけ視線を落とした。

 黙り込んだ彼を、アグネスは少し心配そうに見上げている。


「イグナシオ、どうしたの? 具合悪いの?」

「モチを焼いているのです」

「モチ? どこで焼いてるの?」


 「東の国のご飯だよね? 食べてみたい」と言ったアグネスの手から、イグナシオは傘をそっと取る。


「帰りましょう。風邪を引いてはいけません」

「じゃあ、温泉であったまっていく?」

「良いですね」

「……あのさ、さっき言ってたおモチは?」

「そのうち、東方の国に行って食べましょうか」

「うん!」


 二人は、雨の中をゆっくりと歩き出した。

◇ルカ(ヴィンセント)

アグネスの幼馴染。獣人族の青年。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。