↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしの守護者は、ちょっとおかしい 〜過保護な最凶神官の愛は規格外!?〜  作者: 星谷 明里
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/60

第29話 神官、恋を物語る

「わぁ……海の中でも息が出来る! 水の精霊さんすごいね」

「アグネス様のおかげですね」


 水の精霊が作ってくれた不思議な水膜のおかげで、海水の中でも陸にいるかのように呼吸ができた。


(綺麗〜……わたしも住んでみたい!)


 エメラルドグリーンの海の底には、美しい海底都市が広がっていた。

 石造りの建物に、巻き貝の形の石屋根。

 色鮮やかな大小の魚たち。

 優雅に泳ぐ人魚たちの尾がゆらめいて、人魚の王国はとても幻想的だ。


「わらわはマリレーヌと申す。そなたたち……人の身でよくここまで来たのぉ」

「人魚姫って、本当にいたんだ……」

「わらわは女王じゃ」


 石造りの宮殿の奥で出会ったのは、美しい人魚の女王さまだった。

 海のようなエメラルドの瞳に、ラベンダー色の長い髪がゆらめいている。

 白い石で造られた玉座にゆったりと腰掛ける姿は絵画のように美しく、揺らめくラベンダーピンクの尾は宝石のように煌めいている。


「実は、女王様の涙と交換していただきたいものがありまして」


 女王さまの前で、イグナシオが浮かんだ亀裂に両腕をずぶりと突っ込んだ。

 二人分の首根っこを引きずり出したイグナシオに、わたしは慌てて水の精霊魔法を掛ける。


「良かった! 出られた〜……って、ここ海?! ぐ、ぐるじい……!!」 

「あれ? おい、ベッキー! 息が出来るぞ!」

「あ、ホントだ〜」


 ピートさんとベッキーさんの二人が想像以上に元気そうで、少し――いや、かなりホッとした。イグナシオの収納は生き物もOKらしい。


「この二人と引き換えに、あなたの涙をください」

「そんなモノ要らぬわ」


 嫌そうに顔をしかめた女王さま。

 一瞬止まってから、二人の首根っこを再び掴んだイグナシオは、大きく開いた裂け目に二人をぐいと押し込んだ。


「ちょ! もう入れないで――」


 淡く光る裂け目は、彼らを呑み込んでから、細かな泡に溶けるように消えた。海水は入ったりしないのだろうか。


「そなた、人ではないな……一体何者じゃ?」

「私は神官のイグナシオです」

「あ……わたしは神官見習いのアグネスです」


 「……ふむ、そうか。じゃが、わらわの涙は安くはないぞ」と薄く微笑む女王さま。

 その夢のように美しい瞳が、わたしを見つめた。


「その花、美しいのぉ。……それとならば、交換してやっても良いぞ」


 女王さまの視線は、わたしの髪に飾られたエリシアの花を捉えている。

 わたしは、咄嗟にぶんぶんと首を振った。


「これはダメです。あげられません!」


 そう返すと、女王さまは「仕方ないのう」とつまらなそうに小さなため息を零した。

 微笑んでわたしを見つめていたイグナシオは、女王さまに一歩近付いた。


「呪われた王女様のために、どうしても人魚の涙が必要なのです」


 切実そうな声音で胸に手を当ててそう言ったイグナシオに、目を見開いた女王さまはふわりと腰を浮かせた。


「なんと! もしや身分違いの恋か? 恋物語はわらわの大好物なのじゃ。そなたの話、詳しく聞かせてたもれ!!」


 前のめりになった女王さまに、イグナシオは静かに口を開いた。


「……ある海沿いの村に、生まれつき盲目の若い男がいました。男は、浜辺で出会った美しい歌声の娘に恋をします」


(あれ? この話、どこかで……)


 ふむふむと頷きながら聴き入る女王さまに、イグナシオは物語を続ける。


「……けれど、想いを交わした娘は――実は人魚だったのです。父王の命で海に帰ろうとする人魚姫に、その盲目の男は自分も連れて行くように懇願します。けれど、人魚姫の世界は深い海の底。人族の男はとても生きられません。人魚姫は涙を零しながら、愛する男の手をそっと振りほどきました……」


 涙無しには聞けない恋物語を語るイグナシオに、女王さまも鼻を小さくすすっている。


「それで……どうなったのじゃ?」

「最後に、人魚姫は男に別れの口づけをするのです。そのときに、男の瞼を人魚姫の涙が濡らし、見えなかったはずの男の目は美しい人魚の姿を映しました。そして人魚姫は海へと帰り――男は、涙を零しながら微笑んだ美しい彼女の姿が忘れられず、生涯独り身を貫いたそうです」


 涙をポロポロと流す女王さま。

 煌めきながら落ちていくひと粒を、イグナシオはいつの間にか手にしていた小瓶に詰めた。


「……という物語が、こちらです」


 古びた本をそっと差し出したイグナシオに、女王さまは濡れた瞳を瞬かせた。


 「なんと!! 作り話とは……わらわを謀ったのか?!」と本を手に憤る女王さま。


「これは、古い実話ですよ。人族の男が海神の娘に叶わぬ恋をしたお話です」


 イグナシオの言葉に、女王さまは遠くを見つめるかのように目を細めた。


「――そういえば、昔ばば様から人族の話を聞いたことがあったな……そなた、イグナシオといったか」

「神官と呼んでください」

「……神官よ。よい話を聞かせてもらった。礼を言うぞ」

「こちらこそ、涙をありがとうございます」

「また、いつでも遊びに来るとよい。歓迎するぞ」


 「そのときは、また恋物語を聞かせてたもれ」と微笑んだ女王さまに別れを告げて、わたしたちは白い砂浜へと戻った。

 静かな波音が響き、空はいつの間にかピンク色のグラデーションに染まっている。


「……イグナシオ、なんであんな本持ってたの?」

「アグネス様が小さい頃――人魚姫のお話を望まれて、買ったうちのひとつです」

「……そうだったっけ」


(そういえば、そんなこともあったかなぁ……)


「すべて覚えているので、いつでもお聞かせしますよ」

「えっ……ありがとう……」


 ふわりと微笑んだイグナシオから、視線を逸らした。

 幼い頃、寝る前にイグナシオから物語を読んでもらっていたことを思い出して、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。


「……でも、人魚の涙ってすごく綺麗だね! まるで宝石みたい」


 小瓶の中で浮かんでいる雫は、夕陽を弾いて七色に煌めいている。


「これで、お姫様の呪いもきっと解けるよね?」

「ええ、きっと」


 そして、人魚の涙を手に入れたわたしたちは、美しい海辺を後にした。


「アグネス様、どうしましたか」

「なんか忘れてる気がするんだけど……ま、いっか」

◇マリレーヌ

人魚の女王。恋に憧れている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。