第27話 神官、村人に詰め寄られる
「依頼品は『人魚の涙』かぁ……なんか、本当に冒険者って感じだよね! お姫様、早く助けてあげないとね!」
「はい」
ギルドからの依頼で、わたしたちは呪われたお姫様を救うために『人魚の涙』を探すことになった。
何でも、あらゆる呪いを解く“伝説の品”らしい。
(エリシアの花みたいな感じかなぁ……)
わたしは、髪に付けた花飾りにそっと触れる。それは少しだけひんやりとしている。きっと、今もほのかに光っているはずだ。
微笑んでこちらを見ているイグナシオに気付いて、恥ずかしくなったわたしは慌てて居住まいを正した。
「人魚の涙って、この先の海で手に入るって言ってたよね?」
「はい。そのあたりで手に入るはずです」
「今日は、近くの村で休もうか……テンテ村だって」
古びた立て看板の案内に従って歩くと、のどかな農村が見えてきた。木製の小さな民家や畑が幾つも並んでいる。
けれど、畑は至る所が荒らされていた。畑の手入れをしていた村人と目が合ったので、わたしは「こんにちは」と頭を下げた。
「宿はあるのかな」
「聞いてみましょう」
そうして、村人に近付こうとしたときだった――
「おい、オメたち! 本当に山のヌシは倒してくれたんだべな?!」
「畑、ゆうべも荒らされたんだど!! 金返せ!」
「えっ?」
振り返ると、そこには鍬を握り締めた村人たちの姿があった。こんなに物騒な村だったとは衝撃だ。
「山のヌシ、とは何ですか? 初めて耳にしますが」
イグナシオがわたしを庇うように一歩踏み出すと、村人たちは目を見張った。
「あれ? 別人だべ……。こんなに男前じゃなかったど」
「服だって、こんなに上等じゃなかったべ!」
「悪がったな。身なりが全く一緒だったもんで、間違えちまっただよ」
深く頭を下げる村人たち。どうやら、人違いだったらしい。
「わたしはアグネスって言います。何があったんですか?」
「アグヌス? あんらまあ名前も一緒だべ」
近くにいたおばあさんが、わたしたちをマジマジと見つめている。
おばあさんに促されて、わたしたちは軒先のベンチに腰かけた。
何でも、少し前にわたしたちと同じ名前の二人組がこの村に現れ、畑を荒らす山のヌシ退治の依頼を受けたまま姿を消したらしい。それも、前金の三百ルミナを受け取ったままで――
ちなみに、山のヌシはそれは大きなホーンボアということだ。
(大きいホーンボアって美味しいのかな……)
新鮮なお野菜をたらふく食べているのだ。ヘルシーな肉質かもしれない。
「ねぇ、イグナシオ。山のヌシ退治してあげようよ。畑のお野菜なくなっちゃうよ」
「なんと慈悲深いアグネス様……山のヌシはすぐに退治しましょう。アグネス様を騙る不届き者を始末するのは、それからですね」
(始末……?)
わたしにこの場から動かないよう言うと、イグナシオはものすごい速さで山へと消えていった。
「神官さんはどこだっぺ?」
「山に入りましたよ」
「あんな細い腕でどうすんだ! 村の男衆に声掛けにゃあ!!」
慌てて立ち上がったおばあさんにイグナシオが強いことを説明して、なんとか落ち着いてもらった。
「お嬢ちゃん、これでも食べときな」とおばあさんから差し出されたふかし芋を頬張っていると、『ズズン……!』と山の方から地響きが聞こえた。
「アグネス様〜!!」
(うわあ……)
イグナシオは見たこともないほど巨大なホーンボアを引き摺りながら山を駆け下りてきた。メイスで仕留めたようで、大きなたんこぶがいくつもできている。魔の森の王もこうやって仕留めたのかと、ふと怪物くんの姿を思い出した。
「神官さまがヌシを退治してくださったぞ〜!!」
「神官さま! アンタ、見た目に似合わず強いんだな!」
ホーンボア鍋で祭りをするという村人たちに、持ち逃げされたという三百ルミナを立て替えて渡すと、わたしたちは泣く泣くテンテ村を後にした。
ホーンボア鍋……わたしも食べたかったが、他の村でも詐欺の被害者が出ているかもしれないのだ。悠長にしてはいられない。
(ニセモノさんたちはどこに行ったんだろう……)
あたりを見回すと、足元でくるくると回った木の葉がふわりと目の前に浮かんだ。
そうして、木の葉はまるで案内するかのように海辺の町へ続く道へと舞い上がる。
道の先には、遠く煉瓦造の街並みとエメラルドグリーンの海が広がっている。
「イグナシオ、きっと向こうだよ。行ってみよう」
わたしたちは海辺の町へ続く道を歩き始めた。
「アグネス様、休憩は――」
「大丈夫。早くニセモノさんたちを見つけないとね!」
三百ルミナは偽物からきっちり返してもらおう。
ああ、テンテ村のホーンボア鍋。いつか食べられるだろうか――




