表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

第5部 最終章 「それでも、自分の人生」

この作品は、現代を舞台にしたフィクションです。

人の流れや空気、

「なんとなくそうなってしまうこと」をテーマにしています。

特別な能力があるようで、

どこか現実にもあるような話です。

ゆっくり読んでもらえたら嬉しいです。




思い出したのは、突然だった。



---


現場で、人の流れを見ていたとき。



---


誰が無理をしていて、

誰が限界で、

どこが崩れるか。



---


全部が、線で繋がる。



---


その中に、ひとつだけ。



---


繋がらないものがあった。



---


嵯峨久美。



---



---


空白。



---



---


見えない。



---



---


その違和感が、引き金になった。



---



---


――中学。



---


校門の前。



---


「ごめんね」



---



---


あの声。

あの距離。

あの視線。



---



---


(……ああ)



---



---


思い出す。



---



---


最初から。



---



---


始まっていた。



---



---


三上の顔が浮かぶ。



---



---


「今、動いた方がいい」



---



---


あの軽い声。



---



---


そして。



---



---


死んだ。



---



---


理由は、曖昧だった。



---



---


でも。



---



---


偶然で片付けるには、出来すぎていた。



---



---


(……止めないと)



---



---


初めて、そう思った。



---



---


施設の廊下。



---



---


静かだった。



---



---


「嵯峨」



---



---


呼ぶ。



---



---


振り返る。



---



---


変わらない顔。



---



---


「なに?」



---



---



---


「……覚えてるか」



---



---


「中学のとき」



---



---


少し考える。



---



---


「ごめん、分かんないかも」



---



---


笑う。



---



---


軽い。



---



---


でも。



---


それが本物だと分かる。



---



---


「俺は思い出した」



---



---


一歩、近づく。



---



---


「告白した」



---



---


「……あ、ほんと?」



---



---


その反応で、十分だった。



---



---


「覚えてすらいないのか」



---



---


「うーん」



---



---


「そういうの、多かったし」



---



---


悪気はない。



---



---


本当に、ない。



---



---


だから。



---



---


どうしようもない。



---



---


「……施設でのあれは、なんだ」



---



---


言葉が強くなる。



---



---


「優しさとか、気遣いとか」



---



---


「全部、なんなんだ」



---



---


嵯峨は、少し考える。



---



---


でも、すぐに答える。



---



---


「ちゃんとやってるよ?」



---



---


「じゃあなんで」



---



---


止まらない。



---



---


「なんで、ああなる」



---



---


「なんで、みんなお前の方に行く」



---



---


「なんで俺は――」



---



---


言葉が途切れる。



---



---


嵯峨は、首をかしげて。



---



---


「だって」



---



---


笑う。



---



---


「みんなが勝手にそうなるから」



---



---



---


その言葉。



---



---


それが、全部だった。



---



---


「……分かってないのか」



---



---


「何が?」



---



---


「お前が、何してるか」



---



---



---


その瞬間。



---



---


俺は、意識的に開いた。



---



---


今まで見ていたもの。



---


流れ。

感情。

選択の歪み。



---



---


全部を。



---



---


渡す。



---



---


言葉じゃない。



---


触れたわけでもない。



---



---


ただ。



---



---


理解の形を、そのまま流し込む。



---



---



---


「……え?」



---



---


嵯峨の目が揺れる。



---



---


その瞬間。



---



---


見えるようになる。



---



---


他人の感情。



---



---


今まで、自分が流してきたもの。



---



---


後悔。

苦しみ。

痛み。



---



---


全部。



---



---



---


「……なに、これ」



---



---



---


止まらない。



---



---


「……あ、あ……」



---



---



---


崩れる。



---



---



---


「……これが」



---



---



---


声がかすれる。



---



---



---


「……私?」



---



---



---


その瞬間。



---



---


嵯峨久美は、理解する。



---



---



---


そして同時に。



---



---


俺の中から、消えた。



---



---



---


見えていたもの。



---



---


流れ。

感情。



---



---


全部。



---



---



---


(……ああ)



---



---



---


分かる。



---



---



---


もう、見えない。



---



---



---


ただの、人間に戻る。



---



---



---


でも。



---



---



---


それでいいと思った。



---



---



---


嵯峨は、立っていられない。



---



---


身体が崩れていく。



---



---


時間が、一気に進む。



---



---


髪が。

肌が。

声が。



---



---


老いる。



---



---



---


支える。



---



---


軽い。



---



---



---


「……なんで」



---



---


かすれた声で、嵯峨が言う。



---



---



---


答えは、すぐには出なかった。



---



---



---


そのあと。



---



---


毛呂は施設長を退いた。



---



---


理由は整えられた。



---



---


でも。



---



---


誰も深く聞かなかった。



---



---



---


施設は、残った人間で回る。



---



---


岡田の部下だった人間たちが、

少しずつ立て直していった。



---



---


俺は、見ていた。



---



---


もう、見えない。



---



---


流れも。

感情も。



---



---



---


それでも。



---



---


分かることがあった。



---



---


誰が無理をしているか。

誰が支えているか。



---



---



---


前みたいには見えない。



---



---


でも。



---



---


考えれば分かる。



---



---


選べば、動ける。



---



---



---


「やるしかないか」



---



---


口に出る。



---



---



---


俺は、その中に入った。



---



---


逃げるんじゃなくて。



---



---


引き受ける側に。



---



---



---


気づけば。



---



---


施設長になっていた。



---



---


望んだわけじゃない。



---



---


でも。



---



---


誰もやらないなら、やるしかなかった。



---



---



---


完璧じゃない。



---



---


失敗もする。



---



---


それでも。



---



---


自分で決めて。

自分で責任を取る。



---



---



---


それだけで、違った。



---



---



---


しばらくして。



---



---


岩手に戻った。



---



---


理由は説明できない。



---



---


でも。



---



---


ここでやるべきだと思った。



---



---



---


施設を作った。



---



---


小さい。



---


新しくもない。



---



---


でも。



---



---


自分で決めた場所だった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この物語は、

「流れのままに生きること」と

「自分で選ぶこと」の間にある違和感から生まれました。

能力の話ではありますが、

本質は「どう生きるか」という話です。

完璧じゃなくても、

自分で選んだと思えること。

それだけで少し違う、

そんな感覚が伝わっていれば嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ