第4.5部 東京/岩手 「広がってしまったもの」
この作品は、現代を舞台にしたフィクションです。
人の流れや空気、
「なんとなくそうなってしまうこと」をテーマにしています。
特別な能力があるようで、
どこか現実にもあるような話です。
ゆっくり読んでもらえたら嬉しいです。
東京に来てから。
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違和感は、施設の中だけのものじゃなくなっていた。
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最初は、小さなズレだった。
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会話の流れ。
人の判断。
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少しだけ偏る。
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でも。
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時間が経つほどに、それは広がっていった。
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ニュースを見た。
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地方の施設で、事故。
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利用者同士のトラブル。
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一方が死亡。
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原因は不明。
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「なんだこれ」
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思わず呟く。
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画面の下に、地名が出る。
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岩手。
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(……まさか)
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目を離せない。
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別の日。
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またニュース。
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男性が刺されて死亡。
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犯人は知人。
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動機は曖昧。
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「なんとなくイラついた」
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それだけだった。
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(……なんだよ、それ)
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違和感が、残る。
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数日後。
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連絡が来た。
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岩手の知り合いから。
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「三上、死んだ」
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言葉が、止まる。
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「……は?」
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事故らしい。
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巻き込まれた。
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それだけ。
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スマホを握る。
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連絡先に、三上の名前が残っている。
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「今、動いた方がいい」
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あいつの声が、浮かぶ。
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軽くて。
適当で。
バカで。
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でも。
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一度も外さなかった。
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(……最後は、外したな)
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思って。
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すぐに否定する。
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(違う)
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外したのは。
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俺だ。
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画面が、暗くなる。
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何も言えない。
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帰り道。
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郵便受けの前。
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何も考えずに、手を入れる。
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手紙が入っていた。
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見覚えのない封筒。
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名前だけ。
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畠山。
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(……なんだこれ)
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開ける。
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紙が一枚。
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雑な字。
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三上だった。
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「お前なら、分かるだろ」
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少しだけ、間。
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「だから、やれ」
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それだけ。
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(……なんだよ、それ)
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笑いそうになる。
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でも。
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止まる。
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(三上は)
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外さない。
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手紙を握る。
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あいつの声が浮かぶ。
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「今、動いた方がいい」
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軽い。
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でも。
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外れない。
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(……ああ)
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理解する。
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止めるのは。
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俺だ。
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理由はない。
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でも。
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それでいい。
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施設に戻る。
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空気が、少し違う。
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人の視線。
言葉の選び方。
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何かが、揃っている。
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ある職員が、利用者に言う。
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「いい加減にしてください」
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ただ、それだけだった。
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でも。
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別の職員が、急に怒鳴る。
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「そんな言い方するなよ!」
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さらに別の職員が割って入る。
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空気が、一気に変わる。
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数分後。
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一人の利用者が倒れていた。
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原因は分からない。
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ただ。
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その場にいた全員が。
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「なんでこうなったか分からない」
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そう言った。
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(……おかしい)
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繋がる。
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点と点が。
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三上。
岩手の施設。
この場所。
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全部が。
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同じ方向に動いている。
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(……広がってる)
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誰かがやっているわけじゃない。
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でも。
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確実に、広がっている。
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嵯峨久美。
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あいつは、何もしていない。
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でも。
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あいつがいるだけで。
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人が動く。
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感情が偏る。
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結果が変わる。
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(……止めないと)
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初めて、そう思った。
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理由は、一つじゃない。
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正義でもない。
復讐でもない。
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ただ。
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このままだと。
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取り返しがつかなくなる。
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それだけだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は、
「流れのままに生きること」と
「自分で選ぶこと」の間にある違和感から生まれました。
能力の話ではありますが、
本質は「どう生きるか」という話です。
完璧じゃなくても、
自分で選んだと思えること。
それだけで少し違う、
そんな感覚が伝わっていれば嬉しいです。




