第4部 東京・施設② 「選び直す」
この作品は、現代を舞台にしたフィクションです。
人の流れや空気、
「なんとなくそうなってしまうこと」をテーマにしています。
特別な能力があるようで、
どこか現実にもあるような話です。
ゆっくり読んでもらえたら嬉しいです。
仕事は、続けていた。
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現場は変わる。
建築、解体、補修。
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どこに行っても、やることは同じだった。
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段取りを組んで、人を動かす。
危ないところを先に潰す。
無駄を減らす。
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気づけば、職長を任されることが増えた。
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「任せるわ」
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そう言われて、現場を回す。
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それなりに、うまくいく。
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ミスも減る。
事故も起きない。
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評価も、悪くない。
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でも。
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何かが足りない感じは、消えなかった。
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介護は、やっていなかった。
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たまに、派遣で入るくらい。
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正直、やりがいはなかった。
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あのときのことを思い出すからだ。
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岡田。
現場。
崩れた流れ。
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そして。
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嵯峨久美。
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忘れたわけじゃない。
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むしろ、残っている。
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だから、距離を取っていた。
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ある日。
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上野にいた。
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理由は特にない。
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ただ、歩いていた。
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スマホを見る。
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Googleマップの矢印が、ゆっくり動いている。
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目的地は決めていない。
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でも、足は進む。
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止まる。
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目の前に、桜。
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人が少ない場所。
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少しだけ、静かだった。
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その下に。
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ゆきがいた。
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「やっと来た」
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「……たまたま」
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「嘘」
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即答だった。
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「ちゃんと来たでしょ」
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何も言えない。
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少しだけ、隣に立つ。
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風が吹く。
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花びらが落ちる。
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「そろそろ、自分で決めなよ」
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「……何を」
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「どこでやるか」
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その言葉が、今までと違って入ってくる。
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「今のとこ、違うでしょ」
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図星だった。
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「ちゃんとやるなら、別のとこ」
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「自分の場所で」
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少し考える。
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答えは、すぐに出た。
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「……あるな」
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口に出る。
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「前、派遣で行ってたとこ」
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ゆきが、少しだけ笑う。
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「やっとだね」
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その日で、決めた。
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その施設に入った。
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派遣じゃなく、職員として。
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現場に立つ。
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人を見る。
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動きを読む。
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空気を感じる。
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その瞬間。
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分かった。
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見える。
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誰が無理をしているか。
誰が限界か。
どこで崩れるか。
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全部じゃない。
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でも。
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輪郭がはっきりしている。
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(……これか)
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今までの違和感が、繋がる。
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俺は、把握している。
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それが、自分の能力だと分かった。
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でも。
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代償も、すぐに分かった。
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自分の感情が分かりにくい。
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怒っているのか。
悲しいのか。
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他人の感情が先に入ってくる。
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境界が、曖昧になる。
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(……面倒だな)
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でも。
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嫌ではなかった。
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初めて、使えると思った。
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現場は変わった。
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ミスが減る。
人が動きやすくなる。
無理が減る。
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結果が出る。
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評価も上がる。
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気づけば、中心にいた。
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でも。
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嵯峨とは違う。
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無意識じゃない。
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全部、分かった上でやっている。
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そこが違った。
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それでも。
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完全には、切れない。
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嵯峨久美。
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考えると、引っかかる。
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嫌いじゃない。
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むしろ。
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まだ、憧れている。
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(……どこまでが俺だ)
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分からない。
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でも。
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今は、それでよかった。
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遠くで、桜が散る。
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何かが終わって。
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何かが、始まっていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は、
「流れのままに生きること」と
「自分で選ぶこと」の間にある違和感から生まれました。
能力の話ではありますが、
本質は「どう生きるか」という話です。
完璧じゃなくても、
自分で選んだと思えること。
それだけで少し違う、
そんな感覚が伝わっていれば嬉しいです。




