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 この会社には俺が必要なんだよ。息子じゃ荷が重い。そうだろ? 俺が次期社長だよ。お前もそう思うだろ? お前は幹部待遇にしてやるよ。性格は最悪だけど、仕事は出来るから。馬鹿息子と違ってよ。

 そんな言葉を息子に聞こえるようにわざと言っていた。冗談じゃないよな。俺はあいつの下では働けないね。

 ちょうどその頃、この国は、この国だけじゃないな、世界全体が不景気に陥った。その会社も突然仕事が激減した。経営的に大問題だよ。

 それまでその会社は、信じられないくらい景気がよかったからな。俺は随分稼がせて貰った。それが急に、稼ぎが減った。残業もなく、週の半分は休みだ。給料もカットされた。変わらなかったのは、息子に対するあいつの虐めだけ。

 何をどう考えたのか、あいつはそれをチャンスと感じたようだ。息子を潰し、会社を乗っ取るつもりでいたらしい。どういう思考ならそんな風に考えられる? 息子を虐めている奴に会社を任そうなんていう親が何処にいるんだ?

 半分はあいつの思い通りになった。息子が会社の屋上から飛び降りた。可哀想に、即死じゃなかった。地面に叩きつけられた直後の息子には意識があった。苦しんでいる息子を見ていると、何故だか怒りを覚えたよ。そうだ。あいつに対する怒りだ。息子を自殺に追い込んだ事に対する怒りでも、その結果に対する怒りでもない。単純な怒り。あいつのような人間はこの世に必要ない。害獣と呼ばれる生き物に対す怒りと同じだ。無意味だけれど確かな怒りだ。

 俺はその現場を目撃している。息子は俺の目の前に落ちてきた。俺の顔には息子の血が飛んできた。忘れられない記憶。いまだにその夢にうなされている。

 会社の経営不振。それに重なり息子の死。社長の心は限界だった。あいつの思惑とは異なり、会社は倒産の道を歩む事になった。

 あいつは最後まで社長に食って掛かっていた。俺がいれば大丈夫。息子さんの分も頑張ります。お願いします。

 社長は虐めの事実に感付いている。そんな言葉を受け入れる筈もなかった。息子がどうして遺書を残していなかったのか、俺も不思議だった。あいつを苦しめる、あいつへの復讐のチャンスだったのにな。

 息子の死は事故だったと、社長は警察にも俺たち社員にも説明した。確かに息子はよく屋上で息抜きをしていた。何かの理由で策を乗り越え、下を覗き込み、何かの拍子で押してしまった。社長の言い分だ。息子が自殺した事実を認めたくなかったんだろう。つまらない見栄だ。

 社長はそんな見栄っ張りだった。それがいい事だって思う時もある。その見栄のお陰でボーナスは特盛だった。どれだけの利益があったかを説明し、公平に分配していた。倒産してからもボーナスをくれたのは、建前では迷惑を掛けた償い。けれど真実は、プライドの高い見栄だ。倒産の時も、社長はつまらない言い訳をしていた。初めは確かに倒産、廃業と言っていた。けれど途中から、縮小だと言い出し、家族だけで続けて行くと言う。ふざけた話だよな。まぁ、その家族に、あいつは含まれていなかったんだけどな。現実、俺が退職してから、すぐに会社はなくなっていた。俺は数日後に会社を見に行った。綺麗さっぱり更地になっていたよ。

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