Web連載8周年記念特別編「森の王」
本日は特別編です。本編には関係のないIFのようなものですので、ご注意ください。
「私が、ですか?」
俺は我ながら間抜けだなぁと思ってしまう声でそう言った。
「エイゾウ君と家族は〝黒の守護者〟だし、一番適している、というのが結論なのよ」
長い緑の髪をした女性――樹木精霊のリュイサさん――は俺とは対照的に、気楽な感じで言う。
俺とリュイサさんの態度のどちらが正しいか。それはジゼルさんの言葉が証明してくれるだろう。
「それはそうなんですけど、そんなにアッサリと頼むものでもないと思いますよ」
「そう?」
眉を顰めるジゼルさんに、リュイサさんが小首を傾げる。
俺は苦笑しつつ言った。
「〝森の王〟になってくれ、と突然言われても、困るのは確かですね」
そう、リュイサさんに頼まれたのは、この〝黒の森〟の王になって欲しい、と言うものだった。
王とは言うものの、実際にこの地を領有するものではない。王国がこの森を領有地から外しているとはいえ、突然領有を主張すれば衝突は免れないし、その時にはマリウスも王国側として出てくるだろう。
なので、当然ながら領有だとかそういう話ではなく、単に「この森で一番偉い人」くらいのことであるらしい。
それならば、この森の「管理人」のような立場であるジゼルさんのほうが適任ではないかとも言ったのだが、リュイサさんは首を横に振った。
「ジゼルでは無理な場合も多いのよ。言ったでしょう? 貴方たちはこの森の最高戦力だって」
「……なるほど」
戦力の話を持ち出されると納得せざるを得ない。ヘレンがいる限りはこの評価は正当だと言うしかないからな。
「そう長くはならないわ。私の〝本体〟が起きるということもない」
「それは安心しました。……その『長くならない』は我々の時間で、ってことですよね?」
俺はリュイサさんに尋ねる。樹木精霊で〝大地の竜〟の一部である彼女の時間感覚が俺たちと同じである保証はない。
リディはエルフだが、時間の感覚が俺たちと大きく違うということもないし、リュイサさんも俺たちに合わせてくれているとは思うのだが。
「もちろん」
リュイサさんはニッコリと微笑み、俺も微笑んだ。
「と、いうわけで、しばらくは〝森の王〟ということになりました」
俺は昼食時、家族にそう告げた。一斉に『おおー』と歓声が上がる。
「とーちゃん、おうさまなの?」
緑の髪の少女、クルルがぴょんぴょん跳ねて尋ねる。その隣では、銀髪のルーシーが目を輝かせている。
リザードマンのハヤテが大きくため息をついた。
「クルル、はしたないですよ」
「まあ、王ともなれば、はしゃぐのも無理はないけどね」
アンネが微笑み、続けた。
「でも、そうなったらクルルもルーシーも、マリベルもお姫様ってことになるわよ?」
『ええーっ!?』
3人の娘が異口同音に衝撃を受ける。アンネはニヤリと笑い、更に続けた。
「そうなったら、私がお姫様として、しっかり教えてあげるわね」
アンネは帝国皇女である。その立場は未だ失われていない。
ということは、現役のお姫様直々の教育を施せるわけだ。当然、その苛烈さは推して量るべしである。
娘たちはその一端を知っているからな。
以前に少し興味が出たのか、お姫様について聞いて、どうすればなれるのか教えて欲しいとアンネに頼み、「こっぴどい目」にあったことがある。
まあ、あれは「ああいうものは知らずに過ごせるなら、それに越したことはない」と考えるアンネの方針でもあったわけだが。
「王様、と言っても、村長とかと大して変わらんらしいぞ。基本的に仕事はないらしいし」
森の代表と言っても、誰か交渉しに来るわけでもないし、獣人たちや妖精族のとりまとめなどはリュイサさんも特にしてはいないらしい(実際、サーミャはリュイサさんの存在を知らなかった)ので、本当にやることはない。
ただ、とにかく存在としては必要なものらしいし、一大事の時には陣頭指揮を執る必要がある――この森での一大事とは森そのものの存続に関わるような話だが――とのことなので、引き受けはしたものの多分名ばかりだろうなと思っている。
「私も何か教えようかしら」
「では、エルフとしては私が」
「アタシは森に住むことを」
ディアナ、リディ、サーミャが次々に教育を名乗りでる。
俺たちの娘がそれを聞いて青ざめ、首をブンブンと横に振ると、森のささやかな王宮に大きな笑い声が響くのだった。
本日でWeb版の連載が8周年を迎えました。これも読者の皆様のおかげと、まずはお礼申し上げます。
そろそろ終わるかもなと自分でも思っていたのですが、続けることができており、更にお礼申し上げたいと思います。
彼らの物語はまだまだ続けるつもりですので、ご声援いただけますと幸いです。
それでは、拙作を今後とも宜しくお願いいたします。




