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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第17章

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輪郭

 灯りの縁にあった輪郭が、また動いた。

 硬いなにかが岩を擦っているらしい。ガリガリと低い音がする。

 そいつは古い坑木と黒い岩の隙間から、先ほどよりもさらに身体をせり出させた。足元の浅い水が揺れ、灯りを細かく跳ね返している。

 こちらへ襲いかかるつもりなのか。それとも、ただ通路を塞ぎたいだけなのか。


 だが、この狭い坑道でこれ以上近づかせるわけにはいかなかった。前にいるヘレンだけの話ではない。少し押し込まれれば、灯りを持つリケも、退路側にいるリディも動きにくくなる。濡れた足場で慌てて下がることになれば、それだけ危険が増す。

 これ以上近寄らせるのは良くないな。こうならないようにしたかったんだが……。


 ヘレンは前へ出すぎず、濡れた床で確かめた位置にとどまって、わずかに重心を落としている。倒すために踏み込むのではない。俺たちが後ろへ退ける空間を守るための構えだ。

 その後ろで、リケは灯りを胸の高さに保っていた。壁の水気から遠ざけながら、ヘレンの足元と、後ろの平たい岩まで続く退路を照らしている。

 リディは口を閉じ、灯りの届かない奥へ意識を向けていた。


 何かがもう一度身をよじり、 硬いらしい身体が通路の幅を埋めるように張り出してくる。


「エイゾウ、今だ」


 ヘレンの声が飛んだ。

 次の瞬間、俺は腰から〝薄氷〟を抜き放った。

 狭い場所で大きく振るう必要はない。いや、振るってはいけない。傷んだ坑木や頭上の岩を叩けば、この坑道で何が起きるか分かったものじゃない。


 相手に当てる必要もない。いったんは威嚇だけして、こちらへ出てくる勢いを止め、俺たちが位置を取り直せればいい。


 俺は一歩だけ踏み出し、せり出した何かのすぐ脇にある浅い水溜まりへ〝薄氷〟の切先の峰側をかすらせるように走らせる。

 パシャッと鋭い水音が坑道へ響き、水が跳ね、灯りを受けて白く散る。

 何かはそれに反応したようで、動きを止め、表面を岩へ擦らせる音を立てながら、隙間の奥へ身を引いていく。灯りの縁にあった目のような光も、鈍い反射も、暗がりへ沈んだ。


 逃げ去ったのか。少し奥でこちらを窺っているのか。他に同じものがいるかどうかもわからないが、正面を塞いでいた身体は退いた。

 そして、曲がり角の先が、わずかに見える。


 ヘレンは追わなかった。俺も〝薄氷〟を下げはしたが、鞘には収めず、実体が消えた隙間から目を離さない。


「追うなよ」

「ああ」


 俺が言うとヘレンは短く答え、曲がり角の先を見据えたまま動かない。

 リケが灯りを横へずらした。水面の反射で目をくらませない位置を選び、光を先へ送る。

 角の向こうには、これまでより水気の少ない岩壁が短く続いていた。


 その壁際に、周囲の黒い岩とは違う色合いの筋が見える。白とも灰ともつかない淡い色が、岩肌を細く走っていた。濡れた壁の照り返しだけとは思えないが、灯りの届く範囲は限られている。


「親方」


 リケが声を潜めた。


「あの岩の出方だけなら、採掘した跡にも見えますね。ただ、ここからでは材質までは分かりません。近づいて叩くか、少し削るかしないと」

「分かった」


 あれが探している石かどうかは全く分からない。危険があればすぐ戻る約束をしていた。

 だが、目の前に見えていて引き返すべきかどうか。

 あと数歩進み、灯りを寄せれば、リケなら削らずとも今より見当をつけられるだろう。


 ここまで来て、ようやく掴める形の手掛かりが見えた気がする。

 俺は少しの間悩んで、口を開いた。

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