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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第17章

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廃鉱3

 ヘレンは水たまりの様子を窺ってから言った。


「そこの水際は踏むな。ちょっと影になってるか……灯りをくれ」

「はい」


 リケが背負い袋から灯りを取り出した。リディがそれに魔法で火をつけると、リケは灯りを胸より少し高く掲げる。

 灯りは濡れた壁や水溜まりから離した位置を保ちながら、入口の内側を照らした。


「親方、灯りはこのままわたしが持ちます。あの平たい岩なら、足を置けそうですよ」


 灯りの先には、水を避けられる岩があった。


「分かった」


 俺はヘレンの通った右側へ入り、リケが示した岩へ片足を乗せる。ゆっくり体重を移してみたが、岩は沈まず、ぐらつきもしなかった。

 俺の後からリディも坑内へ入る。入口の内側で立ち止まった彼女は、灯りの届かない奥へ目を向けた。


「エイゾウさん。坑口で感じていた圧は、奥へ続いています」

「前より強いか?」

「いえ、今のところは、続いていると分かるだけです」

「そうか」


 それ以上は聞かなかった。リディに分からないものを、俺が勝手に形にできるはずもない。

 石を探すより先に、この坑道が未だ人を受け入れられるのかを確かめる。深追いしないためにも、その判断材料が必要だった。

 中の様子は、外から想像していたものとは少し違っていた。

 坑口の脇では、排水路が泥と小石に塞がれ、水が岩の隙間から細くにじみ出していた。だが坑内の水は、床を一本の流れとなって走っているわけではない。

 壁の低いところから。岩と岩の継ぎ目から。古い支柱の脇から。

 水はあちこちで不規則ににじみ出し、落ちた雫が小さな水溜まりをつくっていた。水滴の音も、一つの場所から聞こえるのではなく、灯りの届かないあちこちで鳴っている。


「照らす場所を変えますね」


 リケは灯りを少し横へ動かし、水面の反射で足元を見失わないようにした。


「次は、そこの岩を踏んでください。左の黒いところは、水が溜まっています」

「わかった」


 俺たちはリケの灯りを頼りに、わずかずつ進んだ。

 支柱はどれも古く、黒く傷んでいる。表面に割れ目の入ったものもあったが、灯りの届く範囲では、最近折れたような、割れたところが明るい色の木は見当たらない。床の泥にも、人の靴跡らしいものはもちろん、獣の足跡らしいものもなかった。


 ヘレンは前へ進むたび、支柱を避け、頭上の岩と足元を順に見ている。すぐに危ない場所ではなさそうだが、少しでも怪しいところへ踏み込む気はないらしい。

 それでも、足を置ける岩は続いていた。

 坑外で見た崩れかけた入口だけでは分からなかったことが、少しずつ見えてくる。水は厄介だが、出方が分かれば避けようもある。頭上も、今見えている範囲に限れば、すぐ崩れそうには見えない。


 坑道は少し先で、わずかに右へ曲がっていた。

 ヘレンが曲がり角の手前で立ち止まる。壁際の岩を見てから、頭上へ目を上げた。

 その背中の少し後ろで、リディが暗がりの向こうを見つめた。


「圧は、あの先にも続いています」


 ここまでの確認だけなら、もう少し先まで足を伸ばせるかもしれない。

 そう思った、そのときだった。

 ぽつり、と水滴が落ちる。

 その音に混じって、コチリ、と小さな音がした。

 前日に聞いた『ゴッ』とは違う。軽い石が、岩の上を擦ったような音だった。一度だけ。曲がり角の向こうから聞こえた気がする。


 ヘレンの手が上がり、みんなの進む動きが止まる。

 リケは灯りを前へ突き出さず、水気から火を守れる位置に留まった。

 曲がり角の先には、灯りが届いていない。


 さっきまでなら、この坑道がどこまで歩けるかを確かめるだけのつもりだった。

 だが、ここから先は確認だけのつもりでは進めないかもしれない。

 俺はまだ、戻るとも進むとも言わなかった。

 灯りの円の外に、曲がり角の向こうだけが残っていた。

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― 新着の感想 ―
あ、支柱あるんだ。 ああいうのって木で岩を支えてるんじゃなくて音を聞くためのものって聞いたことあるけど実際どうなんだろう?
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