基板
翌日。前日は物理的な機構のおおよそのところが見えたので、今日はいよいよあの基板らしきものの動作確認だ。魔力が絡むなら、専門家の手を借りるに越したことはない。俺はリディに声をかけた。
「というわけで、リディの魔力を少しだけ、あの板に流してみてほしいんだ」
「分かりました。魔力で動く仕掛けかもしれないのなら、試してみる価値はありますね」
リディは快諾してくれたが、俺には一つ懸念がある。
「ただ、得体の知れないものだからな。魔力を流した途端に暴走したり、最悪爆発したりする危険もないとは言えない。だから、鍛冶場の中でやるのは危ないと思うんだ」
「確かにそうですね。万が一のことがあれば、ここが吹き飛んでしまいますから」
「ああ。だから、外の開けた場所でやろうと思う。リディには危険な役を頼むことになってしまうが、大丈夫か?」
「はい。お任せください。異常を感じたらすぐに魔力を絶ちますから」
俺とリディは遺物を家の前の開けた場所まで運んだ。娘たちを含む他の家族には、安全のために少し離れた木陰から見守ってもらうことにする。
リケは一緒に近くで見たがったのだが、流石に危険の度合いが読み切れないので、今回は遠くから見守ってもらう。
「何かあったら、すぐに逃げるんだぞ」
「わかったよ。エイゾウも気をつけてな」
「親方、無茶はしないでくださいね」
「何かあったらすぐに助けに入るわ」
そんな家族の言葉を受けつつ、俺とリディは遺物の前に立つ。
「それじゃあ、リディ。あの円筒形の部品に繋がっている、あの魔石の欠片みたいなのが張り付いているところへ、少しずつ魔力を流してみてくれ」
「分かりました。やってみます」
リディが基板の一部にそっと指先を触れ、静かに目を閉じる。俺の目にも、キラキラとした光の粒子――魔力が彼女の手から基板へと流れ込んでいくのが見えた。
しかし、遺物はピクリとも動かない。
「どうだ?」
「魔力が入っていってはいるのですが……どこかで霧散してしまっているような感覚です。流し込む場所が違うのか、それとも量が足りないのか……」
「なるほど。じゃあ、ポイントを少しずらしてみるか。線の流れからすると、こっちの少し太い線の根元あたりはどうだろう」
「試してみます」
何度か指を当てる位置を変え、流し込む魔力の量や質のようなものをリディが調整してくれるが、遺物は一向に目覚める気配を見せない。
前の世界でも、規格の違う電源アダプターを挿しても動かないとか、電圧が足りないとか、そういうことはよくあった。
まあ、いつしかUSB-Cで万事解決! に移り変わっていったが、魔力はそんなに便利なものではなく、波長や種類のようなものがあるのかもしれないな。
ああでもない、こうでもないと、二人で試行錯誤を繰り返す。
昼食を挟み、午後になっても通電(通魔?)テストは続いた。他の家族は鍛冶場で作業だ。
「少し、一気に流し込んでみてもいいですか?」
「ああ。ただし、本当に危ないと思ったらすぐに手を離してくれよ」
「はい」
リディがふっと息を吐き、先ほどよりも強い魔力が基板へと注がれる。
俺も息を呑んで魔力の光の軌跡を追う。基板上の金色の線に沿って魔力が走り、円筒形の部品――モーターらしきものへと流れ込んだ。
カチャ……ッ。
微かな、だが確かに金属が駆動する音が鳴った。
「動いた!」
俺は思わず声を上げる。基板に繋がった軸がごくわずかに回転したのだ。
しかし、動きはそれきりだった。リディが同じように魔力を流し続けているにもかかわらず、それ以上の変化はない。
「……ダメみたいですね。これ以上流すと、板そのものが弾けそうな嫌な抵抗を感じます」
リディが指を離し、ふう、と小さく息を吐いた。
「お疲れ様。無理はしないでおこう。ありがとうな、リディ」
「いえ、お役に立てず申し訳ありません」
「そんなことないさ。魔力を流せば多少なり動くってのが分かっただけでも収穫だ」
気がつけば、太陽はすでに西の森に沈みかけていた。試行錯誤に丸一日を費やしてしまったようだ。
「今日はここまでにしよう。少しだけ動いたが、これだけじゃあ結局何をするためのものなのかは分からないままだな」
謎はまだ解けないが、焦る必要はない。こいつが何なのか、明日以降おいおい探っていくとしよう。
俺は遺物を丁寧に布で包み、夕食の準備に取り掛かるべく、それを仕舞いに鍛冶場へ足を向けた。
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