歯車
夕食を終え、ぐっすりと眠って迎えた翌朝。いつもの朝を終えて、鍛冶場に入ると、俺の目には昨日外装を外した遺物が目に入った。窓から差し込む朝の光を浴びて、鈍く光る歯車群と、それとは異質な緑色の板がはっきりと見て取れた。
まずは分解せず、この複雑な機構がどう連動しているのかを目視と触診で追っていくことにする。俺は一番外側にある歯車をそっと動かしてみた。
カチャ……と小さな音がして、隣の歯車が回り、さらに奥の軸へと動きが伝わっていく。
「ここの歯車が回ると、隣の小さな歯車を介して、最終的にあの太い軸に力が伝わるようになっているみたいだ」
「ええ、親方。それにしても精緻な作りです。腕の良いドワーフでも、ここまで小さく正確なものをいくつも噛み合わせるのは至難の業ですよ」
リケが感嘆の息を漏らす。確かに、手作業で作ったとは思えないほどの精度だ。
完全に1人で作ったのなら確実にチート、すなわち俺のような転移・転生者が影響しているとみて間違いない……と思うのだが、前の世界でも「万能の人」というのはいたから、実は1人の時代を超越した超天才がという線もゼロではないかもしれない。
まぁ、ここまでの精度となると難しいのでは、とも思うが。
さておき、この機構を動かす大元の動力はどこから来ているのか。
動きの伝達経路を逆算して辿っていくと、一番最初の歯車は、緑色の板――回路が刻まれているのであろう基板らしきもの――に直結した、円筒形の金属部品から伸びる軸に噛み合っていた。
前の世界で言うところのモーターに近いものだろうか。
〝基板〟で魔力をどうにかして軸を動かすようにしている、ということらしいが、回転数や回転の方向までは見当がつかない。もしかするとサーボモーターみたいに決まった角度で動かせたかもしれないし。
今のところ、多分基板に繋がっている軸が歯車を回しているのであろう、という見たままの事だけが分かった。
昼食を挟み、午後からは本格的な分解作業に取り掛かった。
まずは手元の紙に、外す直前の歯車の状態をスケッチも含めて詳細に書きとめておく。これをやっておかないと、後で組み直す時に泣きを見ることになるからな。
「よし、外していこう。リケ、こっちのをヤットコで押さえててくれ。反対側を回すから」
「はい、親方」
リケが対面からボルトの頭をしっかりと固定するのを確認し、俺は手製のレンチをナットに噛ませて力を込める。両側から押さえているため共回りすることなく、ギギ……と硬い音を立ててナットが緩んだ。
慎重にシャフトを引き抜き、外れた歯車を作業台に広げた布の上に並べていく。
書きとめては外し、書きとめては外し、という作業を一つ一つの部品に対して行い、構造を紐解いていくうちに、この遺物が単なる動くおもちゃなどではないことが分かってきた。
複数の歯車を噛み合わせているのは、回転速度を落として強いトルク(回転しようとする力)を生み出すためだ。
そして、歯車に隠れて、金属製の板バネやカムのような機構が隠されていた。
回転でバネをギリギリと巻き上げ、あるポイントで一気に解放する機構のようにも見える。
もしかしてこれ、自動で弦を引くクロスボウの機関部か、それに類する射出装置の一部なんじゃなかろうか。
だとすれば、なぜ外装が頑丈な金属で覆われていたのかも腑に落ちる。内部で強い物理的な応力が発生するから、それに耐えるガワが必要だったのだ。
機械の精度についても、命中精度を高めるなら内部機構を精密に作るのは当然の話だし。
洞窟の中にあったのも、防衛機構の一部だとすれば不思議はない。
「リケはこれ、なんだと思う?」
「うーん、私はカラクリには疎いんですよね。クロスボウくらいならなんとか分かるんですが」
「そうか。まあ、俺にもまだよく分からん。これかもしれない、ってのはあるけど、外れてる可能性もかなりある推測だし。もうちょっと詳しく見ていきたいところだな」
「ですねぇ」
ああでもないこうでもないと、これまでに外せた部品を見て推測するが、装甲している間に鍛冶場には橙色の光が差し込んできた。
基板とモーターらしき部品の接続部は、これ以上触ると元に戻せなくなりそうだったので手をつけていない。物理的な機構は大部分を分解できていて、作業台の布の上には、大小さまざまな部品が整然と並んでいる。
結構な数があり、今日の調査の進捗を物語っていた。
「昨日やらなくて良かった。暗くなってもまだやらないといけないところだった」
「それはそれで楽しんでいたのでは?」
「それはリケもだろう」
そう言って、俺とリケはお互い笑い合う。
さて、今日のところは一旦終いにしよう。こいつとの格闘はまた明日のお楽しみというやつだ。
俺は調査が上手くいきますようにと、キラリと橙色の光を反射する部品に手を合わせるのだった。
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