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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第17章

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書籍14巻発売記念特別編「王宮にて」

「うーん。落ち着かない」


 俺はもう幾度目になるか分からない、大きなため息をついて言った。

 すると、同じくらい大きなため息が傍らから聞こえる。


「いい加減慣れないと。まだしばらくはここにいるんだから」


 呆れを隠さずに言ったのはディアナだ。

 俺は自分の服を指差して言った。


「やっぱりこういう服って落ち着かないんだよ」


 貴族の普段着、と言うものらしいが、身分を示すためか、飾りの刺繍があちこちに施されている。

 そこが幾分ゴワゴワするし、そんな身分ではないことも相まって、俺の気疲れに繋がっていた。


 再びドデカいため息をついたディアナはというと、彼女も豪奢なドレスでは流石に気疲れするのだろうか、〝黒の森〟にいる時よりも幾分豪華、というくらいの服を身に纏っている。


 他の家族も皆似たようなものだ。一番落ち着かなそうな顔をしているのはサーミャで、部屋の中をウロウロしては、アンネに咎められている。


 次に落ち着かなそうな娘たちは、意外と言っては失礼だろうが、いわゆる「お人形さん」のような服を着せられてもはしゃいでいて、モジモジするということはなかった。

 緑の髪のクルル、銀髪のルーシー、そして赤髪のマリベルもだ。


「クルル、余り走り回ると転んで服を汚してしまいますよ。ルーシーもそのような座り方をせず、脚を揃えて座りなさい。ああ、マリベル、あちこち触ってはダメですよ」


 困ったような、しかし、どこかしら楽しそうな顔をして妹たちの面倒を見ているのがハヤテだ。彼女は俺たちよりは若いが、こっちの世界での成人にはなってるからな。

 姉1人に任せるのもどうなのだろうと思うこともあるし、実際俺たちにも任せていいんだぞ、と言ったこともあるのだが、本人が、


「いえ、姉としての務めを果たします」


 と言って聞かないので、お言葉に甘えて彼女が娘達の勉強や、一般的なマナー――本格的なマナーは「プロ」が2人もいるのでそちらの担当だ――を見てくれている。


 そんな様子をディアナもアンネも微笑ましく見守っているので、まぁこれが我が家としては良い形なのだろう。


 そんなわけで、落ち着かないのはリケだったりする。普段着ているドワーフの服とは全然方向性が違うからな。


「動きにくい」


 とサーミャと口を揃えて言っているのはご愛敬というものだろう。


 これも意外と言っては失礼に当たるのがヘレンで、着こなせていたりする。

 本人には未だ伝えていないが、メンツェル侯爵の庶子なのも影響してるのかもな。

 ただ、一度うっかり、


「おお、良く似合うじゃん」


 と言ってしまい、俺の背中にそれはそれは見事な紅葉が浮かび上がることにはなったが。


 ワイワイとしている傍らでは、リディが優雅にハーブティーを飲んでいる。エルフのなせる業と言うべきか、服装も所作も堂に入っている、という感じがした。


 さて、なぜこんな状況になっているかと言うとだ。


 俺たちはマリウスに呼び出されて、都にあるエイムール伯爵邸へ向かった。ディアナにとっては実家帰りでもあるな。

 そこでマリウスから、「しばらく王宮に滞在して欲しい」と言われたのだ。


「王宮に?」

「うん」


 マリウスは真剣な顔で頷く。いつものようにサプライズを仕掛けて楽しんでいる、という感じではない。


「君たちが我が家並みに十分な備えをしているのは知ってるけどね。何度も使える手段じゃないが、公爵派から守りつつ色々するなら、君たちには王宮にいてもらったほうが何かと都合が良いんだよ」

「そういうもんなのか」


 俺が言うと、マリウスは頷いた。アンネの方を振り返ると、小首を傾げつつも「まあ、良いんじゃない」との事だったので、言われるがまま王宮へとやってきたのである。


 予想していなかったと言えば嘘になるが、そこで「場に見合った格好を」ということで、皆今現在の服装になってしまい、そして2日ほどが過ぎたところなのだ。


「あと何日くらいだっけ」

「5日」


 素っ気なくヘレンが答える。服装が似合っているかどうかは、居心地には関係なかったらしい。落ち着いてはいるものの、することもないので暇を持て余している、という感じだ。娘達と駆け回るのもここじゃちょっと無理だしな。


 暇を持て余しているのは俺たち全員がそうなのだが。日に3度ある食事の時間が大人組の楽しみで、時折やって来る侍女さんたちが構ってくれるのが、娘達の楽しみだった。


「皆さん本当にかわいいですねえ」


 と、愛想の良いうちの娘達は侍女の皆さんに大変気に入られ、割と頻度高めに来訪してくれている。

 ハヤテが見てくれていると言っても、アレがなかったら娘達はとっくに爆発してたかもな。


「うーん、このまま何もしないというのも忍びない。何かできることを考えよう」


 このままだと正直な話、軟禁とさほど変わらないしな。


「あー、それならさぁ」


 とサーミャが口火を切ると、ああでもない、こうでもないと侃々諤々の議論が始まる。そんな賑やかさを、今度は娘たちがキャッキャと面白がって見ている。


 こうして、王宮という場でも、我々エイゾウ工房の面々は〝いつも〟を保つのだった。

本日、書籍14巻が発売となりました!

インク作りの話と、書き下ろしの中編になっていますので、Web版をご覧いただいた読者の皆様にも楽しんでいただけるかと思います。

また、書店様の特典(書き下ろしSS)もございます。今回は登場人物を分けてあります。詳細については公式サイトあるいは各書店様をご確認ください。

https://kadokawabooks.jp/product/kajiyadehajimeruisekai/322603000350.html

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