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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第17章

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調査の続き

 昼飯を手早く済ませた俺は「ごちそうさま」と手を合わせ、食器を片付けた。


 作業場に戻ると、遺物には分厚い布が被せられたままだ。再び布をめくり、午前中に描いたスケッチと見比べる。


「ふーむ」


 俺はあまり絵心がある方ではないと自覚していたのだが、描いたスケッチはなかなかの出来だ。無論写真のように、とまではいかないが、おおよその構造や配線らしきものは正しく描けている。

 生産か鍛冶か、いずれかのチートが働いてくれたのだろうか。まぁ、そのあたりに繋がらなくもないからかな……。


 さておき、これ以上細かく見ていくとなると、一度中身を全て分解してみる必要がありそうだが、今からこれを分解していくと、


「ちょっと時間が足りないかもな」


 俺は独りごちて中を眺める。複雑に入り組んだ歯車など、どうやって外せばいいか分からないものも多い。

 前の世界のように明かりが十分ならともかく、魔法のランタンはそこまで明るくないし、マリベルに明かり役を頼むのも気が引ける。

 そんな状態で、中途半端に作業を中止するのはやはり避けたい。ジワジワとしか作業を進められないのがなんとももどかしいところだが、仕方ないか。


 俺はグッと伸びをしながら、午後の作業を始めようとしている家族に


「午後からは俺もこっちに加わるよ」

「おお、エイゾウが入ってくれるなら百人力だな!」


 サーミャが顔をほころばせて言う。


「ようし、じゃあ気合入れていくぞ」


 俺はいつもの定位置、金床の前に立つ。火床からは肌を焼くような熱気が伝わってきた。

 俺が鍛冶仕事をやるなら、ということでリケ以外の皆は板金の量産に取りかかるようだ。サーミャが手際よく型に溶けた鉄を流し込み、傍らで冷え固まったものをディアナがヤットコで挟んで取り出す。


 そうして板金ができていく間、俺は板金を火床で熱し、それを金床に置き、鎚を振り下ろす。

 カン、カン、という澄んだ音が作業場に響き渡る。手から伝わる感触を頼りに叩き、形作っていく。熱された鋼から跳ねる火花が、薄暗い工房の中で鮮やかに散る。

 ヘレンやアンネも自分たちの持ち場で、黙々と板金作りに精を出している。火と風と、鎚が奏でる音が重なり合い、鍛冶場に心地よい活気を生み出していた。


 小一時間ほど鎚を振るったところで、一旦小休止とする。俺は手ぬぐいで汗を拭い、水がめから木製のコップに汲んだ水を呷った。喉を潤す冷たさが心地いい。

 その時ふと、リディと目が合った。


「リディ、ちょっといいかな」

「はい、何でしょう?」


 涼やかな色の瞳がこちらを向く。


「さっき遺物の中を調べていたとき、緑色の板みたいなものがあってね。そこに金色の線が描かれていて、ところどころに極小のキラキラした石みたいなものが張り付いてたんだ。エルフの間で、そういうものについて何か伝わっていたりはしないか?」


 俺の問いに、リディは細い顎に手を当てて少し考え込んだ。


「うーん、私の記憶にはそういった話はないですね」

「魔力を流して、何かを動かす仕組みとかは聞いたことないか?」

「ああ、それならそういうものがあるらしい、とは。詳細は全く知りませんが」


 だとすると、あれは見た目通りの回路なのかもしれない。電気ではなく、魔力を流して動くタイプの。魔界なら魔力は潤沢にあるわけだし、エネルギー源としては申し分ないように思う。

 この〝黒の森〟にも魔力はあるから、試すことはできるな。ここで動かしてみようとは微塵も思わないが。


「ありがとう。参考になったよ」

「お役に立てたなら何よりです」


 リディがふわりと微笑み、作業に戻っていった。

 俺は一息入れてから再び鎚を握り、作業を再開した。


 小窓から差し込む光が少しずつ赤みを帯び、火床の炎の輪郭がはっきりと見えるようになってきた頃、これくらいできれば上出来かな、と思える数のナイフと剣の仕上げが終わった。


「よし、今日の鍛冶はここまでにしよう」


 俺が声をかけると、家族たちから「お疲れ様」という声が上がる。俺は火床の炭を端に寄せ、火を落とし、ふいごも炉も止めた。


 一通り片付けて作業場から外へ出ると、森を吹き抜ける風が火照った体を冷ましてくれる。

 庭では、ヘレンとディアナが木剣を手に向かい合っていた。

 タン、パァンと乾いた木と木がぶつかる音が響き、二人の踏み込む足音が土を捉える。ヘレンの素早い連撃をディアナが必死に捌き、鋭い踏み込みで反撃を試みている。ディアナの動きは以前にも増して洗練されてきているな。

 これも毎日の積み重ねというやつだ。


 その手合わせを少しの間見学してから、俺は家のかまどへと向かった。

 今日の夕食は何にしようか。朝のスープをベースに、狩りで獲れた猪の肉を少し厚めに切ってソテーし、一緒に煮込んでみるのもいいかもしれない。

 今はそんなのんびりした事を考えながら、今日を幸せなまま終わらせに向かうのだった。

7/10(金)に最新14巻が発売になります。「秘密のインク編」の最後までと、断章としてサーミャとジョランダが関わる書き下ろしも収録されています。

電子版の予約も始まっており、書店様の特典も公開されておりますので、ご確認とご予約いただけますと嬉しいです。

https://kadokawabooks.jp/product/kajiyadehajimeruisekai/322603000350.html

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― 新着の感想 ―
細かいモノの分解はなぁ……ダンボール用意してマジックで書きながらダンボールに挿していかないとだいたい無くすかわからなくなってしまう
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