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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第17章

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帰還

 明けて翌朝。朝食を終えた後の庭で、3本の剣が舞っていた。


「ハッ!」

「ふんっ!」


 鋭い呼気とともに、ヘレンの双剣とニルダの刀が空中で交錯する。木剣や寸止めではなく、真剣による軽い手合わせだ。

 もちろん、互いに命を奪い合うような殺気はない。

 だが、その動きは素人のそれとは次元が違う。ヘレンが素早い踏み込みから下段を払えば、ニルダは最小限の動きで刀身を滑らせていなし、流れるように反撃の袈裟斬りを放つ。

 

「これくらいでなきゃあ、真剣での手合わせなんか許可できるはずもないか」


 俺はそう独りごち、テラスから2人の動きをじっくりと観察していた。

 ヘレンの剣筋は相変わらずブレがなく、剣の重さと鋭さを完璧に引き出している。

 そしてニルダの方も、昨日俺が研ぎ直した刀を、すでに完全に自分の手足のように馴染ませていた。

 

「そこまでっ!」


 審判役を買って出ていたディアナの凛とした声が響き、2人は同時に動きをピタリと止めた。

 互いに残心のようにしばらくその姿勢でいた後、剣を収めて息を吐く。


「いやあ、やっぱりお前は強いな!」

「お前もな。傭兵だと聞いていたが、ただの荒くれとは違う、洗練された剣筋だ。良い手合わせだった」


 ヘレンとニルダが互いの実力を認め合い、軽く拳を打ち合わせている。

 俺は歩み寄り、ニルダに声をかけた。


「どうだ、調子は」

「うむ。完璧だ。お前が手を入れてくれたおかげで、初めて握った時のような冴えが戻っている。これなら戻っても存分に戦えるだろう」


 ニルダはそう言うと、満足そうに柄を撫でた。

 それから彼女は少しだけ表情を引き締め、俺に向き直った。


「ときにエイゾウ。あの遺物のことだが……すぐに素性がわかりそうか?」


 俺は少し首を傾げた。


「うーん、なんとも言えないな。外側だけ見て何かわかるようなもんじゃないし、中を開けるための道具から作らなきゃならなそうだし。どれくらい時間がかかるか、今はちょっと約束できない」

「そうか。まあ、構わんよ。我々も調査を急いでいるわけではないしな」


 ニルダは頷いて続けた。


「私もあちらを長く空けるわけにはいかなくてな。本来の任務がある。今日で引き上げさせてもらうことにする」

「そうか。まあ、仕事なら仕方ないな」

「うむ。次はまた……そうだな、一月ほど後を目処に来るつもりだ。調査はその時までに終わっていなくとも構わない。そこまでに分かったことだけでも収穫であろうし、何も分からずとも『何も分からない』という結果はちゃんと出るからな。くれぐれも無理に進めて、お前たちに危険が及ぶようなことだけは避けてくれ」


 彼女の気遣いに、俺は「わかった」と力強く頷いた。


「ああ、無理はしない」


 ニルダはそれを聞いて、「それで良い」とニッコリ笑って頷いた。


 彼女は早速帰るとのことなので、家族全員で家の前まで見送りに出てきた。

 それぞれの顔を見渡し、ニルダは最後に軽く手を上げて微笑んだ。


「世話になった。さっきも言ったが、また来る」


 そう言って踵を返し、迷いのない足取りで黒の森の奥へと向かってスタスタと歩き出す。その背中が見えなくなるまで、俺たちは手を振り見送った。


「あっさり行っちゃったわね。帝国では見かけないし、魔族の方とはもう少し話してみたかったのだけど」

「また来るって言ってたし、そん時を楽しみにしてようぜ」


 アンネとサーミャが言い合いながら、家の中へと戻っていく。

 俺も小さく息を吐き、気持ちを切り替えた。


「よし、リケ。工房に入るぞ。今日はまず、道具を打つところからだ」

「はいっ! どんな道具か楽しみです!」


 俺とリケは連れ立って工房へと向かった。

 あの正六角形のナットを回すための「スパナ」。この世界には今のところ存在しないはずの工具の寸法は、昨日の段階でチート眼を通して正確に頭に叩き込んである。

 遺物の謎を解き明かすための第一歩を、俺は火床の炎に向かって踏み出した。

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― 新着の感想 ―
『短い六角柱の突起』を見ただけで『それを回すと隠れている部分がねじになっていて抜ける』ってわかるのはそれを知っていないと無理ではないかなあ。まあ現物が目の前にある以上他にも同じようなものを見たことがあ…
ネジとかナットの寸法で由来が分かりそう
この世界で螺子が一般的ならボルト・ナットはすぐにわかるのだろうけど、一般的じゃないから調査しないといけないんだろうね。
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