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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第16章

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馴染みの食堂

 多様な種族が行き交いながらも、どこか整然とした不思議な秩序を保つ帝都の街並み。そんな喧騒の中を歩きながら街の息吹を感じていると、ふとヴィクトリアさんが立ち止まり、こちらを振り返った。


「皆様。先ほど屋台で肉串を少しお腹に入れましたけれど、あれだけではさすがに足りないでしょう? せっかくですから、ちゃんとした食事にいたしませんか?」

「ああ、そうですね。街を歩き回って、少しお腹もこなれてきましたし」


 俺が頷くと、カテリナさんとアネットさんも同意した。

 ヴィクトリアさんは、


「では、こちらへ」


 と優雅に微笑み、大通りから一本路地に入ったとこを進む。脇道とは言え、それなりに人が行き来しているところを進むと、フォークとナイフを持った山羊の看板を掲げている建物――食堂へと俺たちを案内した。


 ヴィクトリアさんに促されて入るとそこは、昨夜の宮殿の豪奢な空間とは打って変わって、いかにも庶民の胃袋を満たすための活気ある大衆食堂といった風情だった。

 店内には香ばしい匂いが漂い、木製のテーブルや椅子は長年使い込まれていい具合に角が取れている。


 俺たちが店に足を踏み入れた途端、厨房の奥から恰幅の良い店主らしき男が顔を出した。


「おや、ヴィッキーじゃないか! 随分と久しぶりだな!」

「ご無沙汰してるわね。席は空いていて?」

「おう、奥のテーブルを使いな!」


 ……ヴィッキー?

 俺とカテリナさん、アネットさんの三人は、思わずギョッとして顔を見合わせた。

 案内役として常に完璧で優雅な振る舞いを崩さない、帝国でもそれなりの地位にいるはずのヴィクトリアさんが、「ヴィッキー」などという気安い愛称で呼ばれている。しかも、本人は全く気にする様子もなく、むしろ親しげに言葉を交わしているではないか。


 俺たちの驚いた顔に気づいたのか、ヴィクトリアさんは少しだけ悪戯っぽく微笑んで、パチンと片目を瞑った。


「驚かせてしまいましたかしら。ここは私が昔から通っている『馴染み』の店なのですわ。彼らにとって、私はずっと昔からヴィッキーのままなんですよ」


 なるほど。俺とカテリナさんは再び顔を見合わせて、互いに頷いた。普通であれば考えにくいこと(なにせ皇女殿下である)のだが、俺と彼女が共通して知っている人物に、こうやって「いきつけ」を町に作りそうな人物の心当たりがあるからだ。

 ヴィクトリアさんにもそういった部分や、昔からのしがらみのない付き合いがあるということか。気を張る場面が多い立場だからこそ、こういう場所が息抜きになっているのかもしれない。


 案内された席につくと、ほどなくして料理が運ばれてきた。

 具沢山の肉のスープに、こんがりと焼かれた鳥の肉、それに少し固めのパンだ。昨夜の金剛宮で出された、香辛料をふんだんに使った複雑な料理とは対極にある、素材の味をそのまま活かした飾らない料理である。


「いただきます」


 鳥の肉を一口齧る。

 シンプルに美味いなと俺は思った。宮殿で出されるような贅を凝らした料理ももちろん素晴らしいが、こういう素朴で力強い味もまた格別だ。食べていてホッとするというか、地に足がついている感じがする。


 スープを啜り、再び肉を味わいながら、俺はふとその味付けの要となっているものに気がついた。


(……この塩気の感じは岩塩かな)


 旨味の強い塩味が肉の味を引き立てている。王国でも岩塩が使われるが、これほどふんだんに、しかも純度の高いものが大衆食堂で当たり前のように使われているのには少し驚いた。

 だが、すぐに納得がいく。先ほどの刃物屋で見た質の高い鉄と同じだ。岩塩もある種の鉱物資源である。豊かな山々に囲まれ、鉱山開発が進んでいる帝国だからこそ、質の良い岩塩が安価に、そして大量に出回っているのだろう。


「いかがですか? 宮殿の料理と比べると、随分と素朴なものですが」

「いえ、とても美味しいですよ。普段はこういう味に慣れてまして」


 俺が素直に感想を述べると、ヴィクトリアさんは嬉しそうに目を細め、カテリナさんとアネットさんも、


「ええ、本当に」


 と同意しながらスープや肉を平らげていった。


 活気のある食堂で、俺たちが昼食を存分に堪能し一息ついたところで、ヴィクトリアさんが立ち上がる。


「さて。夕暮れまでには帰らないといけませんが、まだもう少しなら回れますよ。どこかご希望はありますか?」

「そうですねぇ……」


 彼女のその言葉に、俺は立ち上がりながら、どこを案内して貰うのがいいかなと考えるのだった。

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