思惑の行方
謁見の間での張り詰めた空気を背に、俺たちは宮殿の廊下を歩いていた。
皇帝陛下から「今日は身体を休めておくがよい」と言われたので、案内役の文官に従って金剛宮へと戻る道すがら、横を歩くカテリナさんとアネットさんの強張っていた肩の力が、少しずつ抜けていくのがわかった。
金剛宮に戻ると、俺たちはひとまず自由行動ということになった。
とはいえ、ここは完全なアウェーである帝国の心臓部だ。勝手が分からない帝都の街へ三人だけで観光に繰り出すわけにもいかない。
たぶん、言えば文官さんなりが案内してくれたりするのだろうが、辛うじて賓客とは言え、それもなんだか心苦しい。
結局、俺たちは金剛宮に用意された一室――広々としたリビングルームのような部屋に集まり、今後のことについて話し合うことにした。
「どうぞ、ごゆっくりお寛ぎください。私共は外に控えておりますので、御用の際はお申し付けを」
「ありがとうございます」
帝国側の世話役の人たちは、俺たちが込み入った話をするのだろうと気を遣ってくれたのか、お茶の用意だけを済ませると、静かに部屋を退出していった。パタン、と重厚な扉が閉まり、部屋の中には王国側の人間である俺たち三人だけが残される。
「ふう……」
誰からともなく、深い安堵の溜息が漏れた。
俺はソファに深く腰を下ろし、まだ温かいお茶を一口飲んでから、向かいに座る二人に切り出した。
「さて。明日、とある鉱山に向かって未知の鉱物を鑑定することになりましたが……お二人はどう思われますか?」
俺の問いかけに、カテリナさんとアネットさんは顔を見合わせ、真剣な表情を取り戻した。
「単なる『未知の鉱物の鑑定』という言葉通りに受け取るのは、少し危険かもしれませんね」
アネットさんが、少し考え込むように口を開く。
「エイゾウさんに私たちが同行している以上、私たちの前で話す内容は筒抜けであることは分かっているはずです。それでも、あえて私たちに『帝国領内で採掘された未知の鉱物』を鑑定させる意味……」
「何か裏がある、と?」
「ええ。まず考えられるのは、帝国側はすでにその鉱物が何であるか、あるいはどれほどの価値があるかを完全に把握している、という可能性です」
カテリナさんも、アネットさんの言葉に頷きながら引き継ぐ。
「その上で、あえて王国側に見せつける。『我々の領土には、これほど強力な、あるいは有用な未知の資源が眠っているのだぞ』と。帝国にはこういう鉱物があるという一種の示威行動ですね」
「なるほど……」
前世の仕事でも、自社の新しい技術や強みを相手に見せつけて、プレッシャーをかけるような手口はあった。国家間ともなれば、そのスケールはさらに大きくなるということだろうなぁ。
「ですが、もう一つ別の見方もできます」
と、アネットさんが言葉を続ける。
「同じく鉱物の正体をある程度把握しているという前提ですが、これを『友好のポーズ』と捉えることも可能です」
「友好、ですか」
「はい。『我が国にはこのような資源があります。隠すつもりはありません。どうです、今後これを取引の材料にしませんか』という、王国に対する信頼と協調の提示です」
示威行動か、それとも友好のポーズか。
俺は先ほどの謁見の間での、皇帝陛下の様子を思い返していた。威厳に満ちてはいたが、俺に対する態度は許される範囲で歓迎ムードだったように思う。それに昨夜、アンネのお母さんを伴って個人的に訪ねてきてくれた時の気さくな姿も嘘ではないだろう。
「私としては、わざわざ俺を帝都まで呼び寄せた以上、基本的には友好的な意図からの行動だと思いたいですね。それに、本気で脅しをかけるつもりなら、もっと直接的な方法をとるはずです」
俺がそう意見を述べると、二人は少しほっとしたように表情を和らげたが、アネットさんは引き締まった表情になる。
「私もそうであってほしいと願いますが……実は示威行為であるという説も、常に視野に入れておかなければなりません」
「ええ、エイゾウさんはあくまで職人として明日の鑑定に集中してください。政治的な意図の推測や警戒は私たちがやります」
カテリナさんも力強く頷く。彼女たちがそう言ってくれるなら、心強い。俺は俺の仕事である「鑑定」に集中すればいいのだから。
「わかりました。まあどのみち、実際にその鉱物を見てみないことには始まりませんしね」
そう結論づけたものの、やはり国と国との思惑が絡むとなると、どうしても話は複雑になる。俺たち三人は、その後も堂々巡りになりかけながら推測を交わしていたが、確たる結論が出ることはなかった。
そんな風にして話し合いを続けていた、ちょうどその時だった。
コンコン。
静かな部屋に、控えめだがはっきりとしたノックの音が響いた。




