関所にて2
関所はもう見えている。馬車が動き始めてすぐに辿り着いた。
帝国から脱出するときは事態が事態だったので、とんでもない行列になっていたが、今は常識的というか、都に入るときくらいの行列ができていて、俺たちはその一番後ろに並んだ。
立場的には招聘された鍛冶屋と王国の手の人間、それに皇女が2人いるので、それを話せば優先的に通してくれることは間違いないが、そうはしないらしい。
「どうも」
俺たちの順番が回ってきて、カテリナさんが衛兵に挨拶をした。
衛兵はカテリナさんを見たあと、俺、アネットさんの順に見やり、次にヴィクトリアさんを見てギョッとした顔をした。
しかし、そこはやはりプロと言うべきか、すぐに真顔に戻る。
それもハリエットさんもいるのを見て再び崩れたのだが。
「どこまで向かうのだ?」
「帝都までです」
カテリナさんはそう言って書類を差し出す。何が書かれているかまでは見えなかったが、一応その通りのことが書かれているようだ。
受け取った衛兵はサッと書類に目を通し、荷台を見回す。
いくらかの荷物が積まれており、衛兵たちはチェックしていくが、当然危ないものは積んでいないので、すぐに身振りを交えて、
「行っていいぞ」
と、そう言った。カテリナさんは頷き、
「ありがとうございます」
とだけ言って、衛兵が馬車から離れると同時に馬車を進め始めた。
「なかなか仕事熱心な方でしたね」
しばらく進み、関所が見えなくなったあたりで俺はそう言った。明らかに皇女殿下に気がついたにも関わらず、適当な仕事にせず、ちゃんとすべきことはしたのだから立派だ。
「まあ、手は震えてましたが」
「そりゃあ、皇女殿下が乗っていたら緊張するでしょう」
アネットさんが言って、俺は苦笑する。俺だって自分の国の偉い人が目の前にいたら、緊張しないとは思えない。
まあ、ディアナは伯爵家令嬢だし、アンネも皇女殿下なのだが。
「しかし、どうやって関所を越えず王国側に出られたんです?」
俺は皇女殿下たちに尋ねてみる。彼女らは関所の王国側にいた。つまり、一度は関所を通っているはずなのだ。
であれば、皇女殿下が通ったことは知られているはずだが、先ほどの衛兵にそんな様子は全くなかった。単に聞いていないだけという可能性もなくはないが。
「それは……」
ハリエットさんが俺の眼を見る。どこか心の内を見透かしてくるような、そんな視線に、思わず身を縮こまらせそうになるが、俺はグッとそれを堪えた。
「秘密です」
そう言ってクスリと笑うハリエットさんに、俺は姿勢を崩した。
まあ、昼夜問わず警戒しているはずの関所の衛兵に見つからずに抜けられる道、となれば他国の人間に、それもそれなりに偉いであろう人間に教えるわけにいかないというのも確かだ。
「おいそれと教えられるものではなかったですね、失礼しました」
俺がそう言って頭を下げると、ハリエットさんは、
「いえいえ、お気になさらず」
と返してくれ、車上の雰囲気がそれ以上変なことにはならなかった。
そうして俺たちの乗った馬車は帝国に入り、一路帝都を目指して進んで行った。




