帝国の道1
馬車は帝国側の道をひた走る。関所を越えたからと言って、突然景色が変わるというものでもないはずなのだが、地面に緑が多い王国側とは違い、帝国側は茶色が多く、その分山岳が多く見える……ような気がする。
いや、帝国に住んでいたアンネや、新婚旅行で山に行ったというマリウスによれば、王国よりも帝国のほうが山がちなんだっけか。
「帝国は山が多いんですかね」
「そうですね」
俺が疑問を口にすると、ヴィクトリアさんが頷いた。
「あちこちに高い山があります。王国にはあまりないと聞いてますが」
「はい。ないわけではないですが、多くはありません」
アネットさんが答える。うちの周囲でも都に行くときに遠く見える山岳くらいなものだし、ここに来るまでにも王国の領内には目だった山はなかったように思う。
その代わり、というわけでもないのだろうが、丘陵地帯はそれなりにあった。
しかし、家族とすごせる魔力の多そうな山、となると王国内にはあまりない、と判断せざるを得なかった。
逆に言えば、山暮らしをするなら帝国の山岳地帯であればなんとか出来そうだ。
俺の鍛冶の腕は〝黒の森〟とは比べるべくもなくなってしまうだろうが。
「大丈夫ですかねえ」
カテリナさんが口からこぼした心配は、馬に対する影響だろう。サスペンションもあるし、多少の不整地だとしても余裕で進むだろうが、それでもなるべく平らかなところを進んだ方が楽なはずである。
「少なくとも帝都へ向かう街道の整備は行き届いていますから、あまり心配はないかと」
そう言ってハリエットさんが続ける。
「それにしても、乗り心地が良いですね」
「そうですね。これには特製の仕組みがついてますので」
カテリナさんがしれっと回答したので、俺は内心ギョッとしてアネットさんを見る。
アネットさんは俺の視線に気づくとごく僅かに頷いた。この開示は想定内、ということだ。
考えてみれば、サスペンション付きの馬車に他国の人間を乗せた時点で、何か違うことはバレてしまう。
それに、この馬車も車軸付近を覆うような板がついていて少し見えにくいが、あくまで車軸の破損を抑えるためのものであって、サスペンションを隠すものではない。
帝都に着いてから調べれば、何がついているかはすぐにバレてしまうだろう。機構としてそんなに複雑なものでもないしな。
「そういうものがあると、山がちな我が国では非常に助かるでしょうね」
「そうだと思います。王国に帝国の鉱物が入ってくると助かるように」
ヴィクトリアさんが言って、アネットさんが頷いた。
つまり、王国からサスペンションの技術を提供することは決まっていて、帝国はその見返りとして鉱物の輸出量を増やす話がもう通っているのだろう。
今の会話はその確認、というわけだ。万が一誰かに聞かれても、一応ただの世間話的なものだと言うことも出来るし。
無論、これにはカミロが一枚も二枚も噛んでいることだろう。どちらもカミロの商売に直結するものだからな。
俺は空を見上げる。そこにあまり決まらないウインクをするカミロの顔が浮かんでいるような、そんな気がした。




