関所にて1
こちらに近づいていくる2つの影。1つは小さい。2人ともフードを被っているが、一見すると親子のようにも見える。
恐らくは帝国側の迎えなのだろうが、そうと確定したわけではない。俺は懐の〝氷柱〟の感触を確かめ、アネットさんの方からも微かに鍔なりのような音が聞こえた。
「こんにちは」
影がある程度まで近づいたところで、カテリナさんが馬車を止め、2人に声をかける。
「こんにちは!」
明るく朗らかな、言って良いなら「女の子」の声がした。それが発せられたのは小さい方の影からだ。
2人はフードを払う。中から現れたのは、リザードマンと少女の顔である。
リザードマンはカレンのような、人に鱗がある感じではなく、もっと蜥蜴に近い感じだ。
少女のほうはもう見たまま少女と言うより他ない。年の頃は10歳になるかならないかだろう。
並んでいる姿は母娘と言っても差し支えないくらいだ。
少女のほうが口を開いた。
「帝国第四皇女、ヴィクトリア。お迎えに上がりました」
外見と声からは想像もできないようなセリフが飛び出してきて、俺は面食らう。
帝国第四皇女、ということはだ。
「アンネのお姉さん……?」
思わず俺の口から飛び出した言葉に、ヴィクトリアさんはニッコリと微笑む。
「はい! アンネマリーは私、いえ、私たちの妹です」
たち? と俺が疑問を口にする間もなく、リザードマンの女性が頭を下げる。
「同じく第五皇女、ハリエット。罷り越してございます」
つまり、目の前にいる2人は帝国の皇女、それも第七皇女であるアンネよりも僅かであろうと皇位継承権も上だということだ。
「これよりは帝国になりますので、我々がお供いたします」
「助かります」
ハリエットさんに、間髪容れずアネットさんが応じた。
まあ、皇女を送ってこられては断るもないのは確かだが。
「従いまして……」
少し言いにくそうにするハリエットさん。だが、アネットさんは再び頷いた。
「ええ。勿論」
そして手を挙げると、近くに気配が発生し、俺は肝を潰した。見ると黒ずくめの人物が5人ほど近くにいて、再び口から心臓が飛び出るような気持ちになる。
アネットさんが小さく微笑んで言う。
「道中ずっといましたが、気がついておられましたよね?」
「まさか。全然気がついてませんでした。今は吃驚しすぎて声が出ないだけですよ」
一見すると何も反応しないように見えたのだろうが、言ったとおりに吃驚しすぎただけである。
なるほど、俺たちの実力を考えれば無防備と言うほどでもないのかと思っていたのだが、ちゃんと保険をかけてあったのだ。
「貴方がたはここで戻りなさい」
「承知しました。お気をつけて」
アネットさんに言われた黒ずくめはそう言って頭を下げると、5人揃って街道の脇の茂みに入り、そこで再び気配を消した。
いると分かっているから辛うじて姿が見えているが、気配がないので見失いそうになる。
「あれ、ということは」
その姿を見送った俺が疑問を口にすると、ハリエットさんが頷く。
「ここからは我々のほうでお守りします」
俺は思わず辺りを見回したが、それらしき人影は見当たらない。
うーん、物語の忍者みたいな人たちって、この世界にはいるんだなぁ。NRSを起こさなくて良かった。
などと、驚きのあまり素っ頓狂なことも考えてしまう。
「失礼しても?」
ヴィクトリアさんが言って、俺は頷く。
「もちろん、どうぞ」
俺は手を伸ばして、ヴィクトリアさんの手を取って馬車に引き上げる。
今この瞬間に攻撃すれば無防備なので、俺を害するつもりなら今が絶好のチャンスだ。
それに気がついたのはヴィクトリアさんを引き上げた後、アネットさんからやや大きめのため息が聞こえてからだ。
しかし、懸念したようなことは起きず、ハリエットさんも乗り込んで大人しく座った。
「それではお願いします」
ハリエットさんの言葉に、カテリナさんは頷くと、手綱を操って馬車を進めた。




