3-22 消えた世界――あり得ない世界
蘇生の前例データに関する記述を僅かに詳細に。後書きに蘇生状態に関する記述を追加……2019/01/08
ぼんやりと、青い山を眺める。
マンガ肉は、放置されている。
白い神の手により、ニャマコ以外全員の思考が、一旦初期化されたようだ。
黒い神が、白い神のオヤツを食べながら、ポツリと呟く。
「お母さんの友達って、どんな人なんだろ……」
「こんな見た目だねぇ」
赤い神が差し出した掌の上に、手乗りサイズのフィギュアが浮かぶ。
巨大な行商箱のような物を背負った、短髪で彫りの深い黒人風の男性。
「この箱は?」
黒い神が触れると、箱の上部が開く。
中には、とても小さな昔のゲーム機、本やマンガなどが詰まっていた。
「うん。これは彼の趣味で、自分の管理区域にオモチャを配ってるんだよ。クロちゃんの世界で言うと、サンタクロースみたいな感じだねぇ」
「ん、子供達の有名人……みたいな?」
「や、端末は皆知ってると思うけど、本人を見た事ある人は少ないかもねぇ。名前もいっぱいあるし……」
「お母さんは、なんて呼んでるの?」
「私が日本語で呼ぶなら『ヤバちゃん』……かねぇ」
「……ヤバイ人?」
世界を創造する管理者など、確かにヤバイ。便宜上の神ではなく、創造神という事になる。
「そやつならワシも知っておるが、普通の、真っ当なヒト型管理者だにゃ」
「そっか」
地球的なファンタジー世界を創ってしまうような管理者は普通とは言えないが、気質的には穏やかな人物、という事か。
「黒姐の友達が先生やけぇ、赤姐の友達も、先生みてぇなヒトなんかなぁ」
「いや、温厚で実直、何事もほどほどにこなす男性だにゃ。先生のような完璧主義ではないにゃ」
私が完璧主義かどうかはともかく、私よりはニャマコに近い気質なのかもしれない。
「そうだねぇ。でも、フィクション作品を集めるのが趣味で、クロちゃんの言葉で言うなら、『二次オタ』みたいな感じだよ」
「二次オタって……もしかして……ファンタジー世界も趣味で創っちゃったの?」
「や、少しは技術提供したみたいだけど、ほとんど偶然らしいよ?」
赤い神の言う『少し』は信用できない。かなり多めに見積もっておくべきか。
「偶然でファンタジーとか……あり得るのかな」
「うん。今は少しだけ狙ってるとこあるけど、強制はしてないからねぇ。それに狙ってるって言っても、消えちゃった人達のフィクション文化を真似してるだけだよ」
「……消えちゃった?」
「うん。自分達で争って絶滅しちゃったり、何かの実験とかで世界ごと消えちゃったって事だねぇ」
「うわぁ……」
管理対象の絶滅なら、まだ普通にあり得る事。しかし、世界の消滅ともなると非常に稀なケースであろう。
「色んな世界の文化を調べてると、たまにそういうのも見ちゃうから……私が世界の構築技術と一緒に、蘇生技術も教えてあげたんだよ」
蘇生技術の方は知っていたが、世界の構築技術というのは初めて聞いた。
ファンタジー世界を創造した管理者の存在には驚いたが、その技術が赤い神からもたらされたと聞くと納得できる。
「蘇生技術って……文化の再現技術じゃなくて?」
「うん。形だけ再現しても、意味無いからねぇ。担い手が居なかったら、ホントの文化にはならないよ」
「……消えちゃったのに、蘇生ってできるの?」
「うん。クロちゃんに分かりやすく言うと……観測機のクラウドストレージみたいなところから、色々引っ張ってきて――」
「いや、その言い方ではコピーのように聞こえてしまうのにゃ。より正しくは、参照……つまり、ワシの中に黒いのの本体があるのと近い状態になっておるのにゃ」
より正確には、様々な色粉が混じり合った中から、同じ色だけを特定している状態に近い。
『ワシの中にある』という表現は、ニャマコが紐付けして特定している状態、と言える。
「うん。簡単に言うと、新しく創った世界で体を造ってから、どこかにある参照先を、観測機経由で同期させたんだよ」
「ん、良く分かんないけど……分かった事にするよ」
「うん。ごめん。私も完璧に分かってるわけじゃないんだよ……でも、たぶん再現じゃなくて蘇生で合ってるはずだよ」
私も訳あってその辺りを研究していたが、完全な理解に至る事は無かった。
蘇生技術は、脳にあたる部位の出来に大きく結果が左右される。
不足し過ぎれば意識とすら呼べない。
過剰過ぎれば、元の存在を内包する何かになる。
再現と蘇生の違いも、私が理解できる範囲では曖昧。
死後の記憶があったり、無かったり、共通点があったり、無かったり、さらには色粉を特定した段階で蘇生を拒絶、もしくは拒絶しないまでも、別の世界で生まれ変わって楽しく生きていたのに、というクレームと共に蘇生状態を自ら解除するなど、記録は豊富にあるが。
「それより、今お主が理解するべき事は、自ら争って絶滅するような者達が、ゲートの先に群がっておるという事だにゃ」
「うわぁ……」
「や、少し変わった人は多いみたいだけど、そこまでじゃないよ?」
黒い神が想像したイメージを読み取ったようだが、『そこまで』とは、どこまでであろうか。
「んだけぇが、世界消せるんはちぃと危ねぇでなぁ……」
「や、今は出来ないよ。元の世界で出来たのは……たぶん、元の世界の管理者さんが、技術提供するタイミングを間違えちゃったんだよ……」
語る途中から俯きだして、落ち込んだような表情を見せる赤い神。
「ふむ、お主と同じだにゃ」
「…………」
記録を調べた限りでは、世界の消滅まで至ってしまった経験は無いようだが、赤い神に起因する大小様々な事件は日常茶飯事と言える。
「ん……お母さんの落ち込む感触って、結構くるよね……」
黒い神も、『感触』から精神ダメージが伝わってきたようで、苦い表情。
「いや、いつも言っておるが、誰が悪いかで言えば、わざとお主を止めないワシら補佐役が悪いのにゃ。というか、なぜそこまで落ち込むのにゃ? いつも通り、感情を初期化するのにゃ」
「や、シロちゃんに慰めてもらいたくて……」
「…………」
どうやら、ニャマコは本気で心配していたようだ。
赤い神やマロリーの知る『蘇生』は、自ら解除が可能な状態異常のようなモノ。
同期元の意識(本体)は、蘇生状態にある己(分体)を内包し、明確に認識できるが、蘇生状態にある意識(分体)は、同期元(本体)を明確に認識出来ない。
分体が蘇生状態を拒んだ場合、本体はそれを認識し、同調し、本体に戻され、本体が拒んだ場合も同様。
蘇生状態は本体が受け入れない限り不可能。
本体と分体の間で、同調が起きない――意思決定に齟齬が起きた例は確認されていない。
本体を、『丸ごと』蘇生状態にする事は、赤い神達には現状不可能。
赤い神やマロリーの知る『再現』は、再現された直後は独立した意識になるが、それを維持する事ができない。僅かな時間で基となった色粉(本体)に混じり、『蘇生』と同じ状態に移行する。




