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3-20 白ママと王子の安否確認――荒野の密林

ありがとうございます。


 まだ、皆は眠っている。


 ニャマコも、グソクさんが戻るまで意識レベルを落として、休憩に入ってしまった。


 ぼんやりと青の砂漠のマーカーを眺めていると、ふと、マリモさんから受け取った白ママの現在地を指し示してくれる小型観測機――『白ママナビゲーター』を思い出し、収納から取り出す。

 これを使って、少し盗撮――安否確認を行いたい。


 グソクさん『4号機』にナビゲーターを渡し、青の砂漠から白ママのもとに向かってもらう。そして、現在位置を特定し、白ママと王子の記録検索の鍵となるデータを取得し、観測機からその周辺での活動記録データを抽出する。


 思った通り、興味深いデータが見つかった。


 そのデータを基に、映像、音声を再現してゆく。以前、ニャマコが作成したモノを模倣して、グソクさん達に手伝ってもらいつつ、どうにか完成。


 ――――


「王子、あの森は危険よ」


「…………」


 白ママと王子は、赤茶けた荒野に突如現れた密林を前に、話し合っている。


「生き物が居ない森なんて、絶対におかしいわよ……まだ私、王子の体に馴染みきれてないから、何かあったら――」


「うん。でも……」


 王子の視線の先にある枯れ木に、突如、桜色の小さな花が咲き乱れる。


「……もっと安全で綺麗な場所は、たくさんあるのよ?」


「でも……呼んでるから……」


「呼んでる?」


「うん。遊んで欲しいって」


「……?」


「ほら――」


 森から、大きな木の実が飛来する。


 王子が、両腕から長大な爪のような貝殻を生やし、それを打ち返す。


 森が騒めく。


「笑ってる」


「…………」


 王子の肩の上で、白ママの依り代が硬直する。


「一緒に、遊ぼう」


 王子が笑顔でそう呟くと、森の木々が一斉に、色とりどりに咲き乱れる。


 強い風が吹く。


 その風は、次第に渦を巻き、王子を取り囲む。風に流された木々の花弁が、その渦に取り込まれ、虹色の花の壁が出来上がる。


「……何が……」


「大丈夫――」


 花の壁から撃ち出される木の実。


 再び打ち返す王子。


「平気だよ」


 次々と撃ち出される木の実。

 同時に二つ、三つと、次第に数が増え、速度も増してゆくが、全て打ち返してゆく。


 受け流しではなく、しっかりと飛んできた方向へと打ち返しているが、木の実は砕けないどころか、小さな傷も見られない。


 足にも爪を生やし、同時に三つの木の実を打ち返しながら、顔を上げる王子。


「あ……」


 視線の先――真上から、黒い塊が降ってくる。

 即座に、肩の上の白ママの依り代を掴み、両手で包む。


「王子!」


 王子の頭部に当たったそれは、まるで水風船のように弾け、真っ黒な液体が飛び散る。


 全身が黒く染まった王子が、立ち竦む。


「…………」


 手の中から飛び出した依り代が、王子を見上げる。


「……王子?」


「あはは……」


 周囲の花の壁が、渦を巻きながら空へと昇ってゆく。


 そして、上空でひと塊りになり、弾ける。


 真っ黒に濡れた王子に降り注ぐ、多色の花弁。


 カラフルに染まった王子。


「……ふふっ……綺麗になったわね」


「…………」


 周囲の地面は、花のカーペットのように彩りに満たされている。


 森が騒めく。


 王子を包み込んでいた花弁が、一斉に弾ける。


 粉々になった花弁は粒子状になり、再び王子の体を包み込むと、うねりながら、少しずつ形と色を変えてゆく。


 うねりが止むと、なんとも形容し難い形状の黒いインナーに、グレーのコートのようなモノを合わせた衣服になっていた。


「あら……それって、服……かしら?」


「……腰蓑?」


「……そうね。腰蓑も服の一部よ」


 王子が、森に顔を向ける。


「ありがとう。使わせてもらうよ」


 森が騒めく。


「話せるのね……」


「森の中に、入っても良い?」


 王子の視線の先に、多数の大きな木の実が転がり出し、森の中まで連なる。


「道案内……かしら?」


 それに沿って木々の合間を進んで行くと、花畑の広がる広場のような場所に出る。


 その中央には、ベニシダレザクラによく似た大きな樹木が生えていた。


 その樹木に向かい、幹に手を添える王子。


「ここに、住処を作りたい」


 王子の足下に、赤い実が落ちてくる。


 その実は次第に膨らみ、転がり出し、花の咲いていない拓けた場所で止まると、溶けるように地面へと染み込む。


 その場所から、棘の無いサボテンのような物が生え出して、加速しながら膨らみ、空へと伸びてゆく。

 その胴回りは、直径で20メートルを超える。

 地面と接する部分には空洞が開き、幹の周りには螺旋状に枝が伸びてゆく。


「あら……この穴は入り口?」


 空洞を軽く覗き込むと、螺旋状の枝を駆け上り始める王子。


 長大なサボテンの高さは、200メートルは超えるものの、苦もなく登りきり、天辺に至る。


「赤い……青い……」


 これまでに歩いた荒野に向かい『赤い』と呟き、その反対を向き『青い』と呟く。


 王子の視線の先には、広大な青――海が広がっている。


「あれは海よ」


「海?」


「塩水で出来た、大きな湖の事よ。この星は、半分以上は海で、陸地の方が少ないの」


「……泳げない」


「ふふっ、大丈夫よ。私が王子にもっと馴染めば、海の中も歩けるから」


「……海の中は、綺麗?」


「ええ、とっても綺麗よ」


 満面の笑顔を浮かべる王子。


「君が馴染めるまで、この森と遊んで過ごそう」


 王子の足下から、ハスに似た花が咲く。


「あら……綺麗ね。なんて言ってるの?」


「海よりも、ここの方が楽しいって……」


「そう……王子の事が、好きなのね」


 王子が、手のひらに依り代を乗せて、そっと撫でる。


「……僕は、この子と一緒に世界を見たいんだ。だから――」


 急激に、足下に花が咲き乱れ、王子が埋もれてゆく。


「……王子の事が、大好きなのね……」


「…………」


 ヒト種の感情を持つ植物など、初めて目にした。

 もっとも、なぜか一切分析が効かないため、植物ではない可能性もあるが、観測機のデータ上は植物に見える。


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