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3-19 何もしない干渉――塩辛い中庸

ありがとうございます。


 食後の睡眠から目覚めると、珍しく白黒の神が離れて寝ていた。


 ニャマコベッドの一部が、ちょうど抱き枕のような形状になっており、それをしっかりと抱え込んで寝ている黒い神。

 対して、白い神の腹部には、赤い塊がのしかかっている。


 視線を上げると、遠景に変化が見られる。


「青い……」


 今までは長閑な田園風景が広がっていた場所に、真っ青な山と、その上に建つ宮殿のような物が見える。

 あれが、青の砂漠を示すマーカーであろうか。であれば、枝道も出来ているのであろう。

 なるほど、黒い神が直接影響を及ぼさなくても、『何もしない』という決定がホームに反映された、という事か。

 ニャマコの言葉を借りるなら、この場であのようにはっきりと存在している以上、周辺生物への影響力は相応に大きいのであろう。


「先生、おはようにゃ」


「おはよう。マットレスありがとう。寝心地最高」


 黒い神達と同じベッドでは落ち着かなかった私のために、ニャマコが用意してくれたマットレスは極上の寝心地であった。

 自分で生成したなら、ここまで寛げる物にはならなかったであろう。


「良ければ、そのまま差し上げるのにゃ」


「それは嬉しい」


 一応、球体収納の中には一通りの生活用品が入っている。

 そこにこのマットレスが加われば、どこでも快適に外泊できる自信がある。

 劣化させてはいけないので、慎重に縮小してしまい込むと、入れ替わるように端末――グソクさんが顔を出す。

 喜びの感情が伝わっていたらしく、気になって覗きに来たらしい。


「……先生に、協力をお願いしたいのにゃ」


「私に可能であれば、喜んで」


「寝る前に、赤いのがゲートを造っておったのにゃ」


「ゲート?」


 ゲートの意味は知っているが、念の為確認してみる。


「うむ。枝道を使わない出口、と言った方が良いのかにゃ」


「……どこに招くつもりだろう……」


「枝道を使っておらんから、管理区域の外かもしれんにゃ」


「それはキニナル。端末で調査する」


 おそらく、サプライズでどこかに連れて行くつもりなのであろうが、あの赤い神の誘いである。

 これは、下調べしておくべきであろう。


「礼を催促したようで悪いがにゃ。お願いしたいのにゃ」


「問題無い。私も、赤い神には不安しかない」


「助かるのにゃ。この方角に直進のはずにゃ」


 ニャマコのネコミミが指し示す方角には、見たところ何も無いが、おそらく相当距離が離れているのであろう。

 しかし、グソクさんの速度と探知能力であれば問題はなかろう。


「一号機。危険度は極めて高い。気をつけて」


 伝えるだけであれば、わざわざ言葉を用いる必要は無いが、声を発して私自身が危機感を再認識する事で、同期による感情伝達が強まる。


「待つのにゃ。念のため、このマイコンを持って行くのにゃ。ゲートの中に放り込めば、グソクさんが直接入らずに済むのにゃ」


「ありがとう」


 ミニニャマコを咥えたグソクさんは、示された方角へと緩やかに加速、探知効率が最も高い速度に達すると、Uターンを繰り返すような経路で目標を探索し始める。


「……緑茶と紅茶とコーヒー、どれが良いかにゃ? どれも、白いのには劣るがにゃ」


「アーモンドドリンクは可能?」


「うむ。それだけは完璧に再現できるのにゃ……どうぞにゃ」


 ニャマコが作ったアーモンドドリンクは、確かに完璧であった。

 黒い神が最も好む味、という事で私もそれなりに飲んでいた。

 使われた原料の成分に左右されるため、品質に多少ばらつきがあったはずだが、ちょうど平均を取ったならこのような味であろう。


「美味しい……流石、黒い神の主。彼女が好む味に仕上がっている……気がする」


「……いや、ワシはニャマコだにゃ」


 黒い神は、『ニャマコはニャマコだよ』と言っていた。

 ニャマコは、『ワシらが派生した』と表現していた。


「確かに、本体とは違う」


「うむ。本体は、この管理区域のどこかにおるはずにゃ」


「ニャマコに探知出来ないのであれば、おそらく普通の物質では無いか、隠蔽されているか……」


「うむ。赤いのは、感触センサーと管理者能力を鍛えさせるため、と言っておったからにゃ。ワシらには、探知出来ない状態になっておるはずにゃ」


「……赤い神の言葉は、信用出来ない」


「うむ。ワシらが問い詰めれば吐くとは思うが……まぁ、黒いのは自力で探すつもりだからにゃ。ワシらが、無理に聞き出す必要は無いのにゃ」


 なるほど。今さら、私達がどうこうする必要は無いのであろう。

 おそらく本体の方も、その気になればニャマコと完全同期して会う事もできる、と思われる。いや、単に眠っているだけ、という可能性もあるか。

 しかし、どちらにせよ、外野が無理に首を突っ込むのは無粋に思う。


「……黒い神が良いのなら、それで良い」


 ニャマコのネコミミが、お盆を差し出してくる。


「……少し、塩味をつけたカシューナッツも作ってみたのにゃ。どうかにゃ?」


「……美味しい。黒い神が好む味に『ほぼ』仕上がっている……気がする」


「ふむ……」


 なんというか、完璧な平均――理想的な中庸から、少しだけ塩味の辛味を強くしたような味であった。

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