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3-17 フィーバーの責任――知りたくない感触

ありがとうございます。


「ん……ねぇ、ニャマコ。なんか、おっきくなってない?」


「なっておるにゃ」


「なんや、ウチらが紅茶飲んだら、生きもんが進化するっちゅう事けぇ?」


「それは無いにゃ」


「流石は黒い神。休んでいても、成果を出す」


「うん。そんなクロちゃんを選んだ私……褒めてくれても良いんだよ?」


 理由はともかく、何かしら新たな可能性を得た管理対象が、何かしら機能的な変化を加速させた、という測定結果が得られたという事。


「ふむ……予想はつくが、はっきり原因を知りたいなら、ホームの予測演算ログを解析する権限が必要だにゃ」


「や、無理だねぇ。原因を予想するのは良いけど、ログ見ちゃうのはちょっと……ねぇ」


「カンニングみたいな?」


「たぶん、見て学ぶより、やって学べっちゅう事やけぇ」


「ん、考えるな、感じろ。って事だね」


 何か、微妙にズレている気がするが、ニュアンスは理解できたらしい。

 とりあえず単純に考えたなら、原因の大元は青い砂であろう。

 その身体活性効果、及び遺伝子への間接的な影響により、砂漠の王達が機能的進化を加速させられたのだと考えるのが妥当に思える。

 それに加えて、青の砂漠を利用して新たな社会を構築してゆく事で、より安定感が増したのかもしれない。

 そして、最終的に黒い神の方針により、その原因が修正されない可能性が濃厚になったため、測定器に反映されたのだと思われる。


「うん。知らない方が楽しい事は、いっぱいあるからねぇ」


「あ、そっか。白ママにも、王様達のフィーバー、伝えない方が良いのかな?」


 白ママとは、白い神の母――恩人という意味か。

 実際の関係性は不明だが、シンプルな呼称は呼びやすい。


「責任を気にするっちゅう話なら、そういうんは考えねぇ人やけぇが……頑張って我慢しちょったけぇ、知らねぇ人の血ぃ吸うちょったんは、聞いたら落ち込むかもしれねぇでなぁ」


 社会的責任を考えるのであれば、法や常識――社会通念のような物が必要になる。

 しかし、影響を受けた者達の代表自身が法を自称していたため、その精神状態が大きく変わってしまい、戻される予定も無い現状ではなんとも判然としない。


「ん、でも責任って言っても、なんか良く分かんないよね? 王子様と駆け落ちしたら、本体がフルボッコされて出産とか……」


「うん。あとは砂漠で元気いっぱい。それに、ラブアンドピースでパーリナイだねぇ」


 こうしてまとめられると、実に混沌としている。


「ウチを庇ったから、追い出されてこん星に来たけぇ。ウチの責任やなぁ」


「ふむ……そこまで責任を辿るなら、外来種の侵入を許したマリモ型にも、故郷から追い出したライ種達にも責任があるのにゃ」


「うん。マリモさんに責任があるなら、私が代わりに責任取る事になっちゃうねぇ」


 この色々と埒外な最高責任者を、訴える者など居るのであろうか。


 もし、私が全力で排斥しようとしたのなら、最終的には泣き喚きながら私の存在ごと闇に葬る――もとい、私という存在ごと変質させる可能性すら考えられる。


 今、ふと『邪神化』という単語が思い浮かんだが、そのようなリスクを負ってまで訴える者など――、


「んー……それじゃ、とりあえず……お母さんを訴えようかな」


 ここに居たようだ。

 なるほど、既に口頭で許してはいるが、彼女は赤い神に責任を問える被害者でもある。


「黒い神を拉致した前科がある」


「ふむ……他にも軽率な技術提供で、多数の世界を混乱に陥れた前科もあるにゃ」


「や、だって――」


「権限の範囲を逸脱して、観測機の情報を隠蔽している疑いもある」


「……はい。すみませんでした。もう、いじめないで下さい」


 椅子に座った状態から、滑らかな動作で床に土下座する。

 前回よりも、動きが洗練されているように見える。


「いんやぁ、赤姐は十分頑張っちょるけぇ。ウチが皆と会えたんも、赤姐のおかげやけぇ。感謝しちょるでなぁ」


 しゃがみ込み、赤い神の頭を優しく撫で、薄っすらと開いた慈愛に満ちた目で、微笑みを浮かべる白い神。


「うん……クロちゃん……こういう時、なんて言うのかねぇ」


「なんだ、ただの女神か。で、イイと思うよ」


 昔の、ネット用語という物であろうか。

 正確な意味は知らないが、確か褒め言葉であったと思う。


「ふむ、お主ら全員、神と呼ばれておるのにゃ」


 確かにそうだが、おそらく意訳するのなら――、


「地球人的な感性から見て、生物の限界を超越するほど卓越した何かを感じる、というような意味かと」


 思われる。


「ふむ、お主ら全員、何かしら超越しておるのにゃ」


「私はちが――」


「先生もにゃ」


 私は、ただの元管理者。今はリストラされて赤い神の思惑に乗せられた、必要性の無いオマケのパーツに過ぎない。


「ん、それより、白ママには伝えない感じでイイのかな?」


「ウチは、黒姐に任せるけぇが……」


「うむ。黒いのが決める事だにゃ」


「そっか。それじゃ……お家に帰ろっか」


 ファンタジーに関係しない限り、黒い神は積極性など示さない。

 『知らない方が楽しい事は、いっぱいある』のだから、わざわざ知らせる必要は無い――というよりは、『フィーバーの感触』を知りたくない、といったところか。


「うん。先生、クロちゃんのホームに入れるようにするから、許可貰えるかねぇ」


「了解」


 一時的に全端末と同期しつつ、意識の経路を一部明け渡す。

 これで、私と端末達も黒い神のホームに入る事ができる。

 ある程度は把握済みであるため、あまり新鮮味は無いが、彼女達と共に在るというのは心地が良い。

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