3-14 過剰なリリース――過剰なリリーフ
ありがとうございます。
「えっと……良く分かんなかったけど……なんか、技術を悪用されちゃったって事?」
「うむ。本人達は悪用とは思っておらんがにゃ」
あの時、すり鉢の周囲に居た者達が首謀者側であったらしい。
随分と若いシーギ種達であったが、私が引退してから生まれた者達であろうか。
それにしては数が多かった。詳細は省くが、シーギ種の繁殖はヒト種とは大きく異なる。
不具合修正の結果、尽きない寿命を得た事で、元より低下しきっていた繁殖数が更に低下――いや、ほぼゼロになっていた。
何か、よほど革命的な施策でも行ったのであろうか。
いや、とりあえず、事件の概要としては――、
「新しい玩具で、好奇心が刺激され過ぎたらしい。赤い神で、人体実験したかったとか」
と、言ったら分かりやすいか。
「ん……でも、お母さんってラスボスだよね? 無理じゃない?」
泣いて寝込んでいる者に対して随分な扱いではあるが、否定し難い上に、本人も喜びそうに思える。
「具体的には、電磁場の変化を完全に隔離できると『思い込んでた』技術を使って、局地的に急激に電磁場を狂わせて、感触のショックで捕獲。ニャマゴロー達も同期ショックで同じく」
「うわぁ……」
この方法により赤い神達が受ける肉体的、機能的影響は、赤い神の資料からある程度把握しているが、実際の感じ方は想像し難い。
黒い神の心底嫌そうな表情を見るに、少なくとも心理的には深刻なダメージがあるのであろう。
シーギ種達は、赤い神から貰い受けた資料から『感触』が意識に与える影響を過大に見積もっていた。
その原因は、単に細かい確認を怠り、誤った解釈をしてしまったため。
その傾向が私に良く似ており、なんとも言い難い想いがある。
とはいえ、捕獲の成否自体はさほど重要ではなかったらしい。
自分達の兵器が赤い神にどれほど効果的なのか、多少なりとも分析できれば良かったようだ。
「直撃したところで、赤いのが多少『のたうち回る』だけだにゃ」
「ん……多少っていうか、『のたうち回る』時点でちょーキツイと思うよ?」
資料によれば、一時的に体の制御が狂う場合と、一時的に精神が狂う場合があるらしい。
より苦しいのはどちらであろう。
「黒姐はウチの護りで大丈夫やけぇ。んだけぇが、アレやったら逃げた方が早いかもなぁ」
「まぁ、逃げられんようにジャミングのような事もしておったが、赤いのには効かんからにゃ。というか、ムー達がおった時点で、どう転んでも嫌がらせにしかならんがにゃ」
「ん? ムーじゃなくて、ニャマ――」
「ムーだにゃ」
ニャマコの呼称が、同型機の呼称にまで影響してしまった事を認めたくないという事か。
「……でも、なんであんな突拍子もない事やらかしちゃったの?」
「それは、私のせい……管理者に対する誤った認識が、常識のようになってる」
長く私と共に在った旧世代と、まだ若い新世代との意識の食い違いも酷かったようだが、根本的には情報の伝達確認を怠っていた私の責任であろう。
私が彼らに伝えたのは、『私に限定するなら』管理者はその担当する職務に関与しない限り、何をされても不干渉を貫き、また職務を放棄する事も無い、という物であった。
その『私に限定するなら』という部分が、いつの間にか抜け落ちてしまったらしい。
「先生が優し過ぎたんかなぁ?」
「世界の終わりまで、私が管理するつもりだった」
引き継ぎなど一切想定せず、私が管理する上で都合の良い形にしてしまった。
シーギ種は、ヒト種と比べて法や常識に縛られやすい傾向があるが、それは想像力や感受性に関する部分が、いくらか劣る事に由来する。
赤黒親子の真逆と言ってしまうと語弊があるが、少なくとも半強制的に共感させられてしまう『感触』のような機能は無い。
私はそれを利用して、間接的に、新たな変化を抑止していた部分もある。
つまり、私の職務が行いやすい状態――イレギュラーの少ない状態の維持を助長していたという事。
それにより、積み重なっていた心理的な抑圧が、新しい世代で過剰に解放されたのかもしれない。
革新的な新技術を得たなら、法や常識に許容される限り、好奇心の赴くまま試してみたくなるのも理解できる。
「いや、今、引き継ぎ資料を確認したが、一応その辺りの注意事項も記載されておるのにゃ」
確かに、懸念材料については、機械的な手法により記憶の隅まで洗い出したはずだが、具体的対処法などは後任に委ねる事になっていた。
「ん、お母さんが見落とした?」
「いや、面倒だから無視したのだろうにゃ」
「ワイルドだね……」
「その辺は、黒いのとは少し違うのかもにゃ」
後任が赤い神であるとあらかじめ知らされていたのなら、積極的要望という形で別途資料を用意したのだが、今更ただの愚痴にしかならない。
「ん……そういえば、お母さんから最初に貰った資料も、かなりアバウトだったかも」
「ふむ、それにキレて重要器物を損壊した辺り、むしろ似ておるのかもしれんにゃ」
どちらも、その勢い余るほど思い切りが良い気質が、能力の成長を促進しているのかもしれない。
過剰な苦しみをもたらす過剰な事柄を心底嫌うからこそ、過剰な気質を持ち得るというのは、確かに理に適ってはいる。
「でも、臆病なとこは勝てるかも」
「誇る事では無いのにゃ」
個人的には、大変羨ましい気質ではある。
なんというか――、
「……自分で炎上できるから、羨ましい」
と、言ったら伝わるであろうか。
『感触』に伝わる思考イメージも添えておこう。
「ん……ごめん。感触のイメージが、複雑過ぎるかも……」
伝わらなかった。
「んだけぇが、皆と一緒ならちぃと楽んなるけぇ」
「ん、ありがと。これからは先輩もいるし、結構気楽かも」
黒い神の中では、私も随行する事になっているようだが、良いのであろうか。
既に管理者は引退済み。しかし、代行権限のような物は残っている。
細かく言えば、この世界においては、赤い神から与えられた限定的な権限しか無い。しかし、黒い神が承認すれば、黒い神の代行役になってしまう。
つまり、このまま細かい調整も無く随行するのであれば、いくつか権限が重複してしまう。
「赤い神の許可は?」
「ん、大丈夫。お母さん今弱ってるし、ダメでもイケるはず」
「あやつもお主も、互いに遠慮が無さ過ぎるのにゃ」
おそらく、細かい調整を後回しにして、随行は許可されてしまうのであろう。
一つの管理区域に対して、似たような管理者権限を持つ者が三個体。
そこに、全般的な後見として赤い神、部分的なバックアップとしてマリモ型管理者が配置されている事になる。
実質的な問題は無かろうが、『過剰』な状態に思える。




